第3話 友達に相談したら、部活に誘われました

 いつもの平日の朝。俺は席に着いて早々ため息を吐いていた。

「はーはっはっは! 随分とお疲れな様子じゃないか、我が盟友よ! 何か悩み事でもあるのなら、この風の魔法使いが聞いてやろうぞ!」

 朝から元気だねぇ。

 秋雨彼方。いわゆる厨二病だが、俺のような普通の人間とも意外と上手く関わってくれる良い人。内容が内容なので誰にも相談しようがないなと思っていたが……厨二病である秋雨が相手なら大丈夫かもしれない。勇者云々について話したとしても、きっとただの設定だと思ってネタにしてくれるだろう。こうなりゃ頼ってみるのも一つの手段か。

「実はだな、最近異世界転移ってやつに巻き込まれてな」

「なんだって!?」

 おお、めっちゃ顔近づけてきた。びっくりする。

「言っておくが、俺自身が転移したとかじゃないからな? あくまで異世界の勇者がこっちに来ちゃったって話だ」

「十分大事件じゃないかい! やはり我の目に狂いはなかった! 盟友はいつか必ず、大きなことを成し遂げると思っていたのだ!」

 成し遂げるって、大げさだな。こんなのただの設定だって内心は分かってるだろうに。……だけど、こうして本気でリアクションされると、ちょっと嬉しい。ずっと俺だけが本気だったから。

「それで、察するに、その勇者との関わり方に戸惑っているのだね?」

「お前やっぱすげぇな。まるで心を読んでるみたいだ」

「ははは! あながち間違いではないよ! この邪眼を使えば、誰だろうとその内を全て剥き出しにできるからね!」

 それなら納得。

 さすが、趣味が人間観察というだけはある。これくらいなら簡単に察せられるか。

「しかし、キミが扱いに困るほどか。あまり想像はつかないな。そんな者が居るならぜひ会ってみたいものだ」

「ちょっと俺のこと過大評価しすぎでは? 俺だって会話は苦手だよ。誰とだってパーフェクトコミュニケーションを取れるわけじゃない」

「必要なのはそんな能力じゃないよ。必要なのは、なんだって受け入れる器。キミにはそれがあるんだ。だから尚更気になってしまう。キミでさえも匙を投げてしまいそうになるほどの相手について」

 器。忍耐力をつければ……嫌だな。カレンさんのトラウマを全て受け入れて配慮してやるってのは、なんだか良くない気がする。

「そんな暗い顔をするということは、その器でも受け入れられないことがあったんだね?」

 俺は少しだけ言い淀みつつも話した。厨二病だということもそうだが、秋雨なら一言で否定せずに受け入れてくれそうだと思ったから。

「ふむ……気持ちは分からんでもないな」

「分かるのか?」

「この世界ですら、学校に行きたくないという者が居るのだ。治安のカケラもないであろう異世界ならば、そうなるのも必然。幼い子供だったとなれば尚更よ」

 それじゃあやっぱり、学校に連れてくるのは無しということかな。もちろん、学校が全てではない。当初の予定通り働かせられるなら、それに越したことはないだろう。

「とはいえキミは、来て欲しいのだよね?」

「……まあ、そうだね」

「それはなぜだ? 話を聞いた限りだと、キミはただ巻き込まれただけだ。そこまでの世話をしてやる義理もないだろうに」

 そりゃそうだ。こんなのは全部俺のわがままで、言われるがまま、カレンさんを追い出しても良かったはずなんだ。

 それでも一緒に居ることを選んだ理由。学校に来させたい理由……

「……カレンさんはさ、こっちの世界に来るまでは、ずっと気を張ってたみたいなんだ」

 モンスターと戦い、民から特別扱いを受け、魔王へと立ち向かった。

「それでさ、つい聞いちゃったんだよ。人生楽しいのって」

 失言だった。そんなこと他人が気にすることじゃないのに。

 でもカレンさんは真面目だから、答えてくれた。

「人生は楽しむモノじゃないって、言ってたよ」

 そうか? 本当にそれで良いのか?

 この平和な世界に居るからそう思うだけなのかもしれない。だけど、ずっと頑張ってたんだから、ご褒美くらいはあっても良いだろう?

「つまりアレだ。ムカついたんだ。そんなことを言うカレンさんや、そう言うことを言わせる異世界に」

 身勝手。余計なお世話。それで良い。

「……よし」

 指を鳴らす。

「勝手で構わない。一言で、キミの願望を言ってみろ」

「俺は……カレンさんに、報われてほしい」

 だからまずは、学校で好きなことを見つけてほしかったのだ。

「あい分かった! であれば我が力を貸してやろうぞ!」

 力を貸すって……何をするの?

「盟友! 今日の放課後、キミを我がテリトリーへと招待する!」

 ……て、テリトリー?

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