第21話 強い者が正しい?……③
唸りを上げた獣が……青い残像を引いてこちらに走る。素晴らしいスピードだが……
「……任せて」
頼もしいセリフを残してミューがその場から消える。次の瞬間にはフロアのそこかしこで青い残像と黒い影が派手な衝突音を奏で始めた。
「ったく……最初は話し合いからだって言ったのに……でだ、そこのバーテンダーさん?」
“どの口が??”って顔で固まってるギルドのメンバーや、バチバチやってるミューと青髪ねーちゃんは無視して……俺は顔を引き攣らせた別のバーテンダーに話しかけた。
「はっ、はい!!」
うん、こっちの
「そろそろマスターさんとやらに
― ……コクコクッ ―
ふむ……マスターとやらはやっぱりココに居たか。時間から考えれば、さっきの爆弾ストーカー野郎もココに居るかもしれないな。
「マスター大変です! ギルドの受付で……
まあ、確かにさっき迄暴れてたのは主に俺だけど……俺は火の粉を払っただけだぞ?
――――――――――
― バァンッ ―
カウンターの奥の目立たない場所……そこにあった重そうなドアが乱暴に開け放たれた。
「何事だ!!」
大喝一声……
フロア中の視線を集めた男は……両掌に纏った魔法陣を、フロア中で縦横無尽に激突を繰り返す“二つの残像”に向けた。
― ヴォヒュウッ ―
刹那……二人の間に溢れた風の奔流が黒と青の残像をそれぞれ押し流す。
(あのオッサンがマスター?? マジか?)
そこに現れたのは……昨日ゲートでスパ○ダーマンと暴れてたDr.スト○ンジだった。
― ダンッ ―
風で押し流されたミューだったが……身体を捻って勢いを殺し、見事に俺の横に着地した。
不意を突かれたとは思えない綺麗な着地姿勢だ。体捌きを見るに……ミューは現実でも何らかの武道かスポーツの経験者なんだろう。
因みに、フロアの逆側に飛ばされたソ○ックもどきは……いや、やめとこう。どうせフロアを修理するのは俺じゃない。
「お帰り……」
それにしても……おそらくは殺傷目的じゃないのに、ミューやソ○ックもどきのねーちゃんが躱せない程の範囲攻撃……ありゃ厄介だ。
「……あいつがエセドクター」
「……意味は分かるけどよ、そんな名前じゃねーだろ? あー、アンタがここの責任者?」
俺はやっと姿を現した男に話し掛けた。
改めて見た敵の大将は……偉そうな髭面を盛大に
こちらを“たっぷり値踏み”した古いマー○ルシリーズの魔術師は……開口一番、
「君は誰だ? ここが、何処なのか分かった上での狼藉かね?」
と、トボけた事を言い出した。
俺とミューは思わず顔を見合わせる。このおっさん、この期に及んでまだシラを切るつもりなのか?
「バカバカしいが……一応名乗っておく。俺はレン。
「ふむ……それで……そのルーキー殿が闘技場のランカーと共に私の所に押しかけたのは何故かね? おっと……返答に気を付け給え。このフロアの惨状を正当化出来る様な内容で無ければ……我々は
おー……なかなかの鉄面皮じゃんか。
「好きにすればいい。おっと……
俺は、このVRの世界に来て初めて……本気で“殺気”を開放した。
――――――――――
「…………?!?」
(な?!……何だ??)
突然……フロアの空気が変わった。いや……私の視覚に映る光景は
(何だこれは?? 声が出せん?! 身体が重い?? 呼吸もおかしい???)
私は突然襲ってきた不調に……本気で困惑した。私のアバターは、当然プレイヤー本人にフィードバックする感覚を制限している。痛みや痺れ等の状態異常は、アバターの行動を妨げる事はあっても……
「……マスター?!」
今にも消え入りそうな声。私は声のする方を向いて……更に信じ難い光景を目にした。
「な???
私の視線の先、フロアに居た多数のギルドメンバー達……そのほとんどがフロアに膝を付き、中には両手をフロアに付いて意識が途切れる事に抗っている者まで??
(信じられん?! 毒ガスでも撒いたというのか?? なんでルーキーがそんな希少装備を???)
そんな事をすれば……対毒装備をしていない自分や同行者も被害を……まさか……元から
「……何したの??」
(何だ??)
良く見れば……奴の隣に居た筈のフレームジャンパーまでが身体を揺らしている。
「すまねぇ……ミューにまで影響が出ちまった。俺も修行が足んねぇな……」
肩に手を置いて謝罪した男は……
― “解” ―
と一言……その途端、フレームジャンパーが……
「はふぅっ……はあはあ……」
この謎の状態異常から解き放たれた??
「何今の?」
(まさか……自分の仲間にまで影響していたのか?)
「ああ……俺が古武術と古流剣術の伝承者だって話は前にしたよな? 俺の流派ってのは日本が戦国時代を終わらせた直後に創始された流派でな……ミューは“平和な世の中”になった時、武術や剣術がどうなるか……分かる……いや想像出来るか?」
「……?」
(……? 何だ? 何を言ってるんだ??)
「……分かんねぇか……まあ……表向き武術や剣術ってのは、その存在意義を“武道”や“剣道”に近い物に変えて生き残っていったんだが……中にはその本質である“術”と“思想”を残す為に
「それって……」
「ああ……それが俺の家系に伝わるモノの正体だ。
(馬鹿な!! あり得ん!!!)
まるで世間話の様な調子で語り終えた奴は……驚愕したままのフレームジャンパーをその場に置いて私の方に歩み寄った。
― トンッ ―
そして、跪いて動けない私の首元……丁度、頸動脈の拍動が感じられる所に木刀が充てられた?
(??? いつの間にそんな物を取り出した??)
「俺の説明……聞こえてたよな? 一つ忠告しとくぜ?
(……??)
「つまり……ここからお前等が“死んだ”と
「そ……ん……な?!?! VR……で……人が……死ぬワケが……」
その時……男が……笑……嗤った??
「本当にそう思うか??
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