第20話 強い者が正しい?……➁

「だからなんだ? お前等……もし猛獣モンスターが襲って来ても同じ事を言うのか? 『いきなり襲うなんて卑怯だ! 先に警告しないなんて卑怯だ!』ってよ? 流石にマスターの手下ペットは言う事が違うな?」


「おま……?!」


 ― ズグンッ ―


 俺が奴の徴発にカウンターから飛び出そうとした瞬間……奴は戦棍士ミゲルの目に刺さったナイフを……?!


(なんて事をしやがる!)


 頭蓋を貫通し、後頭部から飛び出したナイフのきっさきが、痙攣するミゲルの身体を床に縫い止めた時……トドメをさされたミゲルのアバターはと音を立て……コインとアイテムに変換された。


(いかにゲームとはいえ……あそこまでるとは!?)


 例えこの世界がゲームだとしても……普通は余りにリアルに造り込まれたVRのせいで“人が本能的に忌避する行動”はなかなか取れない。それ故……このG.O.Dでは、巨大な猛獣を倒せるプレイヤーがゴブリン人形モンスターに隙を突かれ、あっさり倒される……なんて事がザラにある。


(だが奴は……まるで散歩をしている様な表情かおで“トラウマ物のトドメ”をやってのけた。普通なら……人の目にナイフを突き立てるだけでもオカシイってのに?)


 ― ゾワッ ―


 その時……俺は背筋にのを確かに感じた。


(!)


 遅ればせながら……俺が状況を認識した時……最悪な事に、事態は“俺にコントロール出来る範囲”から飛び出そうとしていた。


「ヤ…ロウッ!!」


 そのトドメの様子をミゲルのパーティメンバーが……半ば恐慌をきたして、反射的にスコーピオンvz61小型マシンガンを男に向けた。


 ― ゾクッ ―


「止めろぉ!!」


 背筋を這い回る悪寒に……俺はトリガーを引き絞ろうとするメンバーを慌てて止めようとした……が、


 ― カッ ―


 ……それは徒労に終わった。


「遅っっっっせぇな。しかも……声を上げたら不意打ちになんねぇだろうよ」


 鋭い音と共に……マシンガンのグリップ握り手に突き刺さったスローイングナイフがミゲルの仲間パーティメンバー数本をまとめて切り飛ばした。


 空中に放り出されたスコーピオンから暴発した弾丸が……フロアと壁と天井に次々と弾痕を穿っていく。不規則に回転する射線は、遠巻きに眺めていただけの連中のボトル酒瓶を粉砕し、更に運悪く被弾した連中のせいで、ギャラリーに徹していたギルド員までがパニックになり掛かる。そんな状況の中で……


「なっ?」


 ― ぶぷちゅッ ― 

 

 私は見てしまった。


 皆が乱れ飛ぶ弾丸に翻弄される中……マシンガンの事すら忘れ『切り飛ばされた指』を呆然と見つめていたメンバーの両目に……またしてもスローイングナイフが突き立つ瞬間を……


(ぐっ……クソッ、なんてタイミングで?!)


 暴発が収まり、ギルド員達が事態を把握した時……そこには、またしても“両目からナイフを男が……姿を晒していた。


「お前等に言っとく……」


 二度に渡って……自身の行動を男は、呆然とするギルドメンバー達に……状況から考えれば声で“最初の戒め”を告げた。


「警告いち。これから俺の許可無しに動いたら……その馬鹿共目に合わせる」

 

 まるで世間話をするような調子の警告……だが、身の丈の数倍に達するモンスターを相手にしても怯まないギルドのメンバー達が、なんら凄みも無い奴の口調に……冷汗を流して動けない??


(何故だ?? 奴は所詮だけのはず?! ?? 何故奴の動きが)


 まるで得体の知れない男の攻撃……


(落ち着け! 冷静にならなければ本当に全滅も有り得……)


「で……? マスターを呼ぶ気になった?」


 ― ブチッ ―


 ミューてめぇは何もしてねぇだろうが!!


「貴様らっ……絶対に許さん!!」


――――――――――


「“音速の女王ブルー・ヘッジホッグ”!」


 た(?)青髪のバーテンダーが、スキルの名らしい言葉を口にした。一瞬……彼女の姿がブレて見えたかと思うと……


 ― ブチッ……ブチブチ……ブチ…… ―


「へぇ……あんなスキルもあんのか?」


 俺が二人目のギルド員の目を潰してやったら……カウンターでスーパー○イヤ人みたいな髪型になっていた女が……いきなり変身し始めた。


 元々グラマラスな体格ではあったが、スキルが発動した途端に全身がパンプアップ……着ていた服が内側から弾けていく。服の下からは……全身を覆う硬質の獣毛? いや、あれはもう針と言っても……


「彼女は獣人変異系ライカンスロープのスキルホルダー。あの姿になったらパワーもスピードも常人とは桁違い……まぁ私の方が速いけど」


『殺す!!』


 ミューが言った瞬間……カウンターの中から飛び出した“9位”の女性バーテンダーは、青いを視界に残して俺達とギルド員との間に立ち塞がった。


 俺は……内心で彼女のスピードに瞠目した。確かに7位ミューのスピードにも負けていない。しかも……体格からすれば打撃力火力はミューのでは無いだろう。


「なんつうか……スキルの性能に差があり過ぎじゃねぇか?」


 俺もこういう単純なスキルが良かった(と、言っても使いこなすのは簡単でも無いんだろうが……)


「あなたも大概……というか……レンのスキルこそ何なの?」


 ふむ……普通はスキルなんて他人様に吹聴する様な物じゃ無いんだろうが……


(別にいいか。パナケイア様は大袈裟に驚いてたが……正直大したスキルとも思えねぇし)


「俺のスキルねぇ……? まぁ今解ってるのは、って事だな。しかも、増やすには……“購入した時の代金”と同額がし……正直“ハズレ”っぽい……」


(って……何をそんなに驚いてんだ? ミューのスキルの方がよっぽどぶっ壊れてるじゃねぇか? )

 

 俺の説明を聞いたミューが……またしてもジト目をまん丸にしている?? 


「……マジで?」


「そんなの嘘付いてどうすんだよ? というか、そもそもスキル使うとコインが減るんだから……買って持ち歩くのと何が違うんだっつーんだよ?」


『貴様等!! 何をごちゃごちゃ言っているUWuuww!!』


 俺達が会話を交わしている前で、闘技場序列9位……全身が針の如き獣毛で覆われた筋肉の怪物が吠えた。

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