第19話 強い者が正しい?……➀

「へぇ……闘技場ランキングトップ10のうち五人がギルドの所属なのか」


 俺達はフローを街まで送り届けた後、奴等のギルドハウスへ行く馬車(?)に乗った。王都には謎生物が引く定期馬(?)車の交通網が存在して王都を網羅している……らしい。ちなみに……奴等の本拠地はシーサイドリゾートに存在する高級ホテルにるそうだ。


 俺は現地に到着するまでの間、ミューから“慈悲の無鋒剣ギルド”のを聞いていた。まあ、どんな対応をするにしろ……情報は多い方がいいしな。


 一応言い訳をするなら、俺だってわざわざヤバい組織と敵対したい訳ではない……が、


『火の粉が飛ぶならより大元をする』


 のが俺の主義だ。


「……ランカーのうち2位、4位、5位、9位、10位は全て“ザ・ロイヤルカテナギルド”のメンバー……特に2位の“魔術師ザ・マジシャン”はギルドの三人のマスターの内の一人。奴等が上位の対戦カードを内々でコントロールしている」


 なるほど……対戦の結果に大金コインが動く以上、そういうやり方で“ハメ技”を考えてくる奴等もいるか……


「……運営は何も言わないのか?」


「闘技場に限らず……プレイヤー個人間の協力体制については運営も口出ししない。しかも、奴等はギルドメンバーになる前のプレイヤーを自分達への挑戦者にするから……不正とも言い切れない」


「こう言っちゃなんだが……奴等だな」


「それには完全に同意……」


 そうやってミューからギルドの事を軽くレクチャーして貰っている内に……俺達はギルドハウスのある三ッ星ホテル“ザ・ハートリー”の前に到着した。


 俺達以外にも結構な人数の乗客が馬車から降りたが、ここは元々が星付きのホテルだから“ギルド関係者”以外の者も当然多いんだろう。中には本格的なスーツ姿の者も居た。ゲームの世界では珍しいが……アレも何かのコスプレなのか?


「それで……レンはギルドに乗り込んでどうする?」


 他の客に気を取られていた俺に、ミューがこの後の行動方針を確認してくる。そう言えばギルドの事を聞いてばかりで、こっちの対応は何も相談して無かったな……


「そりゃあ、まずはからだが……最終的なは必須で」


 俺は文明人ならの返答をした……が、ミューの表情は……信じてねぇな。


「……了解。付いてきて」


 俺達は多様な客達がエントランスに消えて行くのを見ながら、ゆっくりとその後を歩いてロビーに向かった。


 ガラス製の正面玄関の側にはドアマンが控え、にこやかに宿泊客を迎えている。数人居るドアマンの一人が俺達に対応しようと近づいて来たが……


「ギルドに用がある」


 ミューは向こうが口を開く前に、素っ気なく来訪の意図を告げて玄関を抜ける。向こうもギルド来訪者の対応を心得ているのか……無言のまま身振りでロビー奥のエレベーターを示した。


「ありがと……」


 ロビーは落ち着いた雰囲気の吹き抜けになっている。奥にはフロントカウンターもあったが、俺達はそこを無視してエレベーターに向かった。


「……最初は私が対応する。当然だけど……ココに居るのは大多数がギルドのメンバーで……成り行きによっては……」


「全員が敵になる……って? ……なんなら帰ってくれてもいいぜ」


 実際、ミューは俺と一緒に居ただけでのターゲットには入って無かったかも知れないし……


「……友達の敵はみんな敵」


 ………おいおい。


「物騒な友達の輪だな」

 

――――――――――


 ― チンッ…… ―


 古風なベル音と共に……俺達が乗ったギルドフロアへの直通エレベータが開いた。


「これがギルドか……」


 そこには……西部劇の酒場を模したフロアが広がっていた。


 特徴的な板張りの床に、十人は立てるであろう長いカウンター。フロアには丸テーブルが並び、奥の壁には黒板ほどの大きさの“クエストボード”がスポットライトに照らされている。


 ボードには(VRなのに)紙のクエストシートがバラバラと貼り付けられ……ボードの前で話し合うパーティや、テーブルで談笑する者、忙しそうに行き交う者等々……様々なプレイヤーが“酒場っぽさ”の演出に一役買っている印象だ。


 その中でエレベーターに近いプレイヤーの何人かが一瞬俺達に視線を向けるが、目立つの嫌ってローブを羽織ったミューと、初期装備の俺を見て……一瞬で興味を失った。


「……こっちが受付」


 そう言ってミューが向かったのはカウンターだった。中には何人かのバーテンダーが忙しく動き回っている。確かに酒場ならココが受付だろうけど……


「なあ……前に来た事があんのか?」


「昔の事……」


 俺の疑問に短く答えたミューは、一番近くのカウンターに居たバーテンダーの前に立つ。特徴的な青髪をポニーテールにまとめたバーテンダーは、グラスを磨く手を止めずにこちらを一瞥し……無表情かつ無愛想な声で、


「……オーダーは?」


 とだけ呟いた。対して……こちらも負けず劣らず無遠慮なオーダーをぶつける。


「“エセドクター”に会いたい。“myurae-@!”が来たと伝えて」


 更にトーンを落としたミューの言葉に……女性バーテンダーは、


「……マスターはアポの無い相手とは会わない」


 と……冷気すら感じる返答。


「エブリン、もう一度だけチャンスをあげる……私が怒る前に呼んで来た方がいい」


 このねーちゃん……額に青筋が浮かぶ時“ピキッ”って聞こえたぞ?! 大丈夫か? 


「これはこれは……ランキング7位ともなると“下”のランカーの言葉など理解出来なくなるのか?」


アナタブルーヘッジホッグの序列が9位のままなのは……エセドクターが対戦を回避してるせい。こっちは何時いつでも相手になるのに……八つ当たりされても困る」


 ― ビキッ ―


 おいミュー……このねーちゃん、今度はグラスを握り潰してるぞ!? マジで大丈夫なのか?? 


「お前……で俺に勝った事があるくらいで……大層な口をきくじゃないか?」


 この人……なんか髪がトゲトゲになって来てるんだが?! 


「マグレ? そう思うならもう一度試してみればいい。ああ……飼い主が止めてるのか…………」


 ― ブチッ ―


 とうとう……髪紐シュシュがぶち切れた! あの髪……どうなってんだ?


「なぁミュー……そのへんで……」


 なんの因縁があるのか……俺は男勝りのバーテンダーと、先に“おっ始めそう”なミューを止めようとするが……


「おい! お前等……ギルドココに何の用だ!!」


 今度は……近くのテーブルでポーカーに興じていたデブ……ゴホン……巨漢まで参戦して来た。……が、ミューとバーテンダーはお互いしか目に入ってないのか視線すら向けようとしない。


「なっ……無視すんじゃねぇ!!」


 男は……無視したままのミュー(と俺)に向かって、背中に担いだ戦棍メイスを振り上げた。


(おいおい……沸点低過ぎだろ?)


 よく見ると、奴の握りこんだ金属製の戦棍メイスには、青や紫の毒々しい血(?)の跡が重なり……無秩序な斑模様に塗られた様になっている。


(武器一つ見ても……粗暴で無秩序な性格が透けて見えるな)


 ミューとバーテンダーは無言のままだが……纏う空気の温度は更に下がり続けている。下手をしたら凍死者が出そうなくらいだが……この巨漢バカは何も感じてねぇのか? 


(ち……仕方ねぇ)


「ああ……アンタの言いたい事は──正直さっぱり分からんが──ちょっと静かにしてくれないか?」


 俺は……青筋を浮かべる巨漢を出来る限り穏便に宥めたが……結果は、


「いいか? 俺はG.O.Dを5年以上続けてるんだ! このメイスで全長10mのアイアンスケイル・デス・ワーム叩き潰した事もある! その俺になめた真似しやがって……いいか……よく聞け! 今からテメェらのをかち割ってやる! いや! その前に二度とゲームをしたくなくなる様にたっぷりやる! 先ずはそっちの女を先に……」


 男はその後も……壊れた音楽プレイヤーの様に聴くに耐えない雑言を垂れ流し続けた。ここまで人の話を聞かないのは……


(なるほど……コイツはネットで炎上する手合いと同じか。目の前にいるのも所詮はアバター、何かあってもリアルに痛痒は感じない……ってか?)


 しかし、ここまでテンプレな絡みをしてくる人間が居るとは、もしかしたら“ルーティンのアトラクションなんじゃないか?”と疑いたくなるが、どちらにしても結果は同じ……


「ふう……


――――――――――


 その日、俺がカウンターに入っていたのは、たまたまカウンターのシフトに入っていた(ギルドに所属する幹部にはこういうロールプレイの割り当てがある)だけで……本当にただの偶然だ。


 当然、その日に限って大嫌いな序列7位がギルドを訪ねて来るなど想像の遥か彼方で……しかもそのの事も全く知らなかった。いや、その時点でその男の存在を知っていたとしても……始めて見たその男のまでは知らないのは当然だったんだが……それでも、


「……で、呼ぶ? 呼ばない?」


「お前等!!」


 俺は……眼の前の光景が信じられなかった。奴等に絡んだメンバーはギルドでも対モンスター特化のプレイヤーで、お世辞にも対人戦闘が得意な男ではないが……


「なあミュー……もういいんじゃねぇか?」


 ミューに話しかけた男は……ウチのメンバーを足の下に踏みつけ、周囲を取り囲むメンバーを睥睨していた。


「お前……いきなりをして抵抗出来なくしてからなぶり殺しにするなど……正気か?」


 男は、俺の言葉と……それを肯定する周囲の視線をつまらなさそうに見廻して……


「……お前等、馬鹿しか居ねぇのか? 絡んできたのはが先だぜ?」


「しかし……警告すら無しに両目にスローイングナイフを突き立てるなど……」


 いくらなんでも……行動が凶悪過ぎる!


「だからなんだ? お前等……もし猛獣モンスターが襲って来ても同じ事を言うのか?『いきなり襲うなんて卑怯だ! 先に警告しないなんて卑怯だ!』ってよ? 流石にマスターの手下ペットは言う事が違うな?」

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