第18話 スキルの謎……④

 男が懐から取り出した手に握られていたのは……くすんだグリーンに塗られた円筒形の……


「「あれはマズい……」」


 俺とミューはしくも同じ事を呟き……同じ行動を取った。


 俺達はフローの元に走り寄り……俺は二人と男の間を遮る様に立ち塞がった。と、同時に男が無言のままピンを引き抜き……レバーが弾けた!


 俺は……即座に奴の手元とへ連続してクナイを放った。


 ― ギンッ ―


 ……奴の顔に向けて放ったクナイが予想通りスキルで弾かれる。だが……


「なっ?」


 奴のスキルが弾いたクナイの陰から……


「?!」


 完全に意識から外れた所から顔面に向かう攻撃……


(例えスキルが自動で攻撃を防いでも……意識の外から飛んでくる刃物が顔面に迫ってくるんだ……どうしたって注意力は削がれるだろ?)


 ― カンッ ―


 目論見通り……俺が放ったクナイは奴の注意力を削ぎ、もう一方のクナイが投擲前に緑の円筒を弾いた……が、


「………遊戯編集者アクションエディター!」


 俺達がそこまでだった……


――――――――――


「……凄いな」


 ミューが行使したスキルで……世界は灰色に染まり、全ての物がその場に停止している?!


「危なかった……」


 灰色に染まった世界の中で……ミューが俺とフローの手を握ったまま小さく呟いた。


「アレは……やっぱりか?」


 ミューは小さく頷く。どうやら見覚えのあるアイテムだったらしい。


「アレはG.O.Dの中でも有名な武器製造ギルドの品……レバーが外れて5秒くらいで爆発して……だいたい半径15mは粉々……レンは何で解った?」

 

 ……マジか?


「奴が使ってた拳銃もそうだけどな……手榴弾アレ現実リアルの世界にも同様のモデルが存在するんだけど……今聞いた感じじゃ威力は現実世界の手榴弾よりかなり強い。マジで助かったよ」


「そうなんだ……ありがとうミュー」


 フローの顔色が青くなる。


 まあ、青くなって当然か。俺だって爆死なんて死に方は願い下げだ……例えそれがVRだとしても……な。


「……それほどでも……」


 で、俺達を助けた張本人は……なんかクネクネして気持ち悪かった。


「……今の状態って、ミューのスキルの効果が私達に波及してるの?」


 フローが灰色に染まったをキョロキョロと見廻した。


「そう……でも、私達以外のは普通にるから……それに私が手を離した瞬間効果は解除される……」


 そう説明したミューは、フローと俺の腕を掴んだまま少し離れた岩の影まで移動した。あの後爆弾が爆発してるとしても……ここなら問題無いだろう。


「これで大丈夫だと思う……コストがかさむからスキルを解除する」


 ミューがスキルを解除した瞬間、世界が色を取り戻した。同時に……周囲に薄い煙と焦げ臭い刺激臭が立ち込める。ミューがすかさず岩の影から奴が居た場所を覗くが……


「居ない……逃した……」


 俺とフローは辺りに漂う刺激臭に顔をしかめながら奴が居た辺りに戻った。周囲の状況から見て、爆弾が奴の至近距離で爆発したのは間違い無い様だが……そこに奴の痕跡は無かった。


「だろうな。至近距離で爆弾が爆発したってのに……厄介なスキルだよ。二人はアイツに見覚え無いって言ってたけど、噂程度でもいいからなんか知らないか?」


「噂に登る程のプレイヤーは結構チェックしてるつもりなんだけど……」


 フローが首を横に振った。


「……分からない。でも闘技場を牛耳ってる奴等が関係してるのは間違いないと思う」


 ミューにしてもにしか心当たりは無い……か。


(奴の言い分をにする訳にもいかねぇけど……)


 俺は、周囲に落ちていた黒焦げのクナイを拾い集めながら考えを巡らせた……


(ちっ……面倒だが仕方ねぇ。忙しいってのに……)


 俺は最後のクナイを拾い上げ……覚悟を決めた。


「フロー……」


「なに?」


「悪いが……街までは送って行くからトルバゴさんの所に戻って今の顛末を報告しておいてくれ。それと……ミューは俺を“ギルド”まで案内してくれないか?」


 フローが目を丸くして驚いている……


「でも……スキルの検証も済んで無いんじゃ……」


 ミューも同じくジト目を丸くしてそう言ったが……



 俺は、手の中でまだ熱いままの……のクナイを見ながら答えた。


――――――――――


「失敗したのか? 君程の男が?」


 私はカウンターでポーションを煽る男の報告に驚いた。


「あまり大きな声を出すなDr.ドクター。傷に響くだろ?」


 尊大に答えたのは……オーセンティックバーのカウンターに似つかわしくない、編み上げ帽にタクティカルジャケットを纏った陰気な男……極一部の人間にしかコンタクトを取れない強豪で通称“掃除屋レオン”と呼ばれるプレイヤーだった。


「だが……」


「勘違いするなよ。俺はお前の部下じゃない……こうやって情報を共有してやっているのも“賭け屋ブックメーカー”の指示だからだ」


 いつにもまして陰気な雰囲気を纏った男は、僅かに怒気を滲ませた口調で私の言葉を遮った。


「しかし……私との関係を疑われたままでは、にとっても都合が悪い筈だ」


「俺とお前の関係がか? 仮に俺達が顔見知りだったとして……裏で繋がってる証拠が何処にある? それに……奴等が何処に訴えるんだ? PVP野良対戦を黙認してる運営か? 他に訴えるとしても……この王都ハリドライブの治安維持を担っているのは“慈悲の無鋒剣お前達”だろう?」

 

「それは……そうだが……」


 突如現れた新参者ニュービーが闘技場のランカーを倒した事実は……私が思わぬ所にまで影響を与えた。


「確かに……今回の指示は彼にしては珍しい。まぁ今回に限らず、彼の考えはさっぱり解らん事がほとんどだが……な」


 普段は私の様なを動かし、コイン通貨システムを利用した資金の洗濯マネーロンダリングを請け負うプレイヤー……通称“賭け屋ブックメーカー”。


 このG.O.Dをディープにプレイしている者達にとっては有名な人物だが……その正体は謎に包まれていて……直接コンタクトを取れるプレイヤーは片手の指程度だと言うのがもっぱらの噂だ。


 その幻の様な人物が……今回に限って直接プレイヤーサイドに介入した。こんな事はかなりの古参プレイヤーである私でも記憶にない。


「それにしたって……掃除屋を動かしたんだ。それなりの指示は……」


 その時……マナーモードにしていたモバイルが突然振動を始めた。画面にはギルドの受付嬢の名前が表示されている……


 (チッ……まだ話の途中だというのに……)


 私は振動するモバイルを掲げて掃除屋レオンを見る。


「………」


 無言のまま手を振る男は、ポーションを一口含むと、葉巻に火を着けそっぽを向いた……


「悪いな……どうした?」


 彼に一言断ってすぐに通話ボタンをタップ……そしてモバイルが繋がった途端、スピーカーから受付嬢の金切り声が響き渡った。

 

「マスター大変です! ギルドの受付で……使がマスターを出せと暴れています!!」

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