第15話 スキルの謎……➀

「それで……どうするの? レイドに参加する?」


 俺は……トルバゴさんへの返事を保留して一旦彼の店を出ることにした。そもそも貴重なプレイ時間を挨拶だけで終わらせるつもりはなかったし、彼の店で入手したクナイや“スキル”の検証もしなければならない。


「こんなチャンスは滅多に無い……是非参加するべき……私の為にも」


 そして、巨大な店舗を出てフィールドに向かう俺の両隣には……何故か俺を追って店を出たフローとミューが俺を挟んだまま話を続けていた。


「あのなぁ……それはもう少し考えて返事をするって言ったろ? 他にもしなけりゃいけない事が山積みだってのによ……」


 俺は……昨日入国したゲートで手続きをして街壁の外に出る。街道には昨日モンスターが襲ってきた痕跡は全く見当たらず、入国希望者が列を成している所まで全く同じ様子だった。


「さて……どっちに行くべきか」


「特に目当てが無いなら、街道から逸れればそのうちモンスターにエンカウントするわよ」


「この辺で見つかるのはラビット系やボア系……もう少し離れればゴブリンやコボルトなんかの亜人系もちらほら……」


 ………


「なぁ……どこまで付いて来るつもりだ?」


 二人は当然の様に街壁の外まで付いて来た。俺は適当にハリドライブから離れる方向に歩いているが二人は一向に帰る様子を見せない。本当は二人が帰ったら適当に街道を外れて“スキル”の検証をするつもりだったのに……


「遠慮はいらない……新規ユーザーを助けるのはベテランの仕事」


「私だってまだまだ初心者だしね! 二人とパーティを組むならステータスアップは急務だし……」


「……いや頼んでないし、組むかも決めてないからな……」


 何故かこの二人……俺と組む気満々だった。もしかしてフローを助けたりミューとの試合には勝ったりしたから、俺の事を“ゲームの達人”みたいに思ってるのかも……


(仕方ねぇ……きちんと説明してなんとか帰ってもらおう)


「なあ、確かに俺は武術の心得があるから対人戦闘は一日の長ってのがあるけどさ……この世界はモンスターとの戦闘の方が重要だろ? で、モンスターとの戦闘に重要なのはどっちかと言うと身体能力……身も蓋もない事を言えば高いステータスか高火力のスキルが重要だろ? 何故か二人はやる気満々みたいだけどさ……実際には俺と組むメリットなんかないじゃないか」


 俺は技術に関しては自信があるけど……ゲームのデザインを考えれば高火力については絶対に必要だ。


「そんな事は無い……トルバゴ氏の条件……は別にしても、君の技術は興味深い……」


「私にはお父さんの思惑なんか分かんないけど、単純にレンくんには興味が尽きないよ。だって……リアルなSAMURAIなんて始めて見たもの!」


 いや、リアルも何も……ここVRの世界だろ………


――――――――――


 (ぼちぼち街道を歩く人間もまばらになって来たな……)


 結局……二人に帰るつもりが全く無い事が分かった俺は、街道のそばにあった小岩に座った。二人も無言で俺の近くの今に腰掛ける。俺は今日買ったクナイを初期装備の杖にあてて……二人と雑談を続けた。


「このゲームでステータスを上げるには訓練トレーニングしかない(戦闘をこなす事でも上がる)わけだけど……その数値が微々たるもんだってのは俺でも知ってる」


 これはG.O.Dがゲームと言うにはあまりにリアルな感覚を再現し過ぎた為の苦肉の策とも言えるだろう。勿論だからと言って“VRの中で筋トレ”をしたい奴は居ないだろうが……


 仮に……ゲームのシステムとして筋力パラメータを上げる事は簡単なのだ。まともにドアノブすら回せなくなってしまうのが問題なだけで……


「で、結局は各ステータスはコインで『グローイングアイテム』を“購入”するか、モンスターから直接アイテムがドロップするのを期待する以外はない」


 雑談を続けつつ……俺はごつごつとした杖から余分な部分をクナイで削り落としていく……

 

「うん……良く調べてる」


「でもさぁ……実際は『筋力』が上がれば『攻撃力』が増すって訳じゃないじゃん? 『敏捷性』を使いこなすには『器用さ』も必要だし、プラス本人の反射神経も大いに関わってくるよね。まあ、基本はバランスをとりながら上げて行くしかないって言うけど……」


 そう、このG.O.Dというゲーム“突き抜けたパラメータで無双する”という攻略方法が極端に難しいのだ。


「で、結局モンスターへの攻撃力を上げる一番効率がいい方法は……“スキル”のブラッシュアップ。つまり攻撃を当てる技術とは別に“命中した攻撃の結果に掛かる補正”がもの凄く重要になってくる。パラメータで言うところの『攻撃力』と『防御力』か……」


「確かに……どちらも他のパラメータの総合値と装備で大きく変化する。つまりフローなら“バランスを取りながら筋力を増やす”より“スペックの高い武器を装備する”方がより効果的。もっと言えばプレイヤーに『重火器』が人気なのもその為」


 と言っても……トルバゴさん曰く、この世界の『重火器』はストレートに火薬で作動する訳ではないらしい。


「そっか……確かにそうだよね。ということは『防御力』も……」


「それも……身も蓋もない言い方だけど“補正値の高い防具”があればいい」


「そういう事だな……それこそ“魔法系スキル”持ちなんかの攻撃力は元から反則級だしな。まあスキルにもあらゆる種類があるし、取得したスキルの組み合わせでも可能性は拡がる。正直……よくもまぁこんなゲームを作ったもんだ。制作者の執念に驚くぜ」


 二人のゲームに対する所感は……初心者の俺と変わらないらしい。フローはともかく、ミューはかなりのベテランだろうからもう少し別の意見もあるかと思ってたんだが……


「それで……俺も身につけた“スキル”をじっくり検証して自分に合ったプレイスタイルを確立するのが急務だと思ってるんだ……だから」


「勿論……協力は惜しまない……!」


「当然だね。なんでも言ってよ!」


(いや……帰ってくんねぇかな……)


 そう心の中で思いつつ、二人顔を見たが……


「その気は無し……か」


 俺は、帰る気ゼロの二人と適当な話をしながら……初期装備の杖から一振りの木刀を削り出した。


「こんなもんだろ。クナイで削ったにしちゃ上等だ」

 

「へぇ……器用だねぇ」


「……魔法職の人間とは思えない」


「だから……俺は魔法職じゃねぇって」


「それはおかしい。だって初期装備はチュートリアルで付与された職業ジョブに合わせて自動で配布される。つまり君がシステムに魔法職だと判定されたのは間違いない」


 それは……よく分からないスキルの影響なんだが……まぁいい。


「どっちにしろ……俺は魔法関係は一切使えないからな。だったら、攻撃力補正が低い杖より木刀の方がずっとマシさ」


 俺は完成した木刀で数回素振りして重心を確かめた。長さはちっと短めだが……


「うん……思ったより良い感じだな。杖の元になった木材の感じも硬さ・しなやかさ共に悪く無かったし……最初の武器にしちゃ十分だ」


 俺の見立てじゃ高級素材の枇杷の木と変わらない感触だ。暫くは十分に役立つだろう。


「で……やっと武器が出来たし、これからモンスターを探すの??」


「……そうしようと思ってたんだがな……」


 俺は……三人でこの場所に留まっている間、プレイヤーに警告した。


「なあ、そこのアンタ! そろそろ姿を見せたらどうだ? 恥ずかしいって歳でもないんだろ?」

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