第13話 大商会

 G.O.Dをプレイし始めて二回目のログイン……俺は前回お世話になったトルバゴさん親子が営む商店“Tolbago”を訪れた。


 慌ただしくて忘れてた御礼を……と軽い気持ちで訪れたんだが……目的地に到着した俺は自分が『別の場所に来たんじゃないか?』と思ってマップを確認しなおした。


「やっぱり……だよな??」


 ウィンドウに表示された場所は、間違いなくフローに教えて貰ったポイントを指している。俺は大勢のプレイヤー達が行き来している入口に近づいて……その上に掲げられた看板を見て、やっと目の前にあるが目的地だと理解した。


(おいおい、こんな大店おおだなの主人が……護衛も付けずにモンスターが出没するフィールドをフラフラしてたのか?? というか……どうやってトルバゴさんを探しゃいいんだ?)


 入口でどうやってトルバゴさんを見つければいいのか悩んだ俺は……昨日フローとフレンド登録をしておいたのを思いだしてメールウィンドウを開こうとしたんだが……


「やぁ……レン君。早速訪ねてくれて嬉しいよ」


(???)


 人混みを避けて隅でウィンドウを操作しようとしてた俺に話しかけてくれたのは……たった今、フローを通じて呼び出してもらおうとしてたトルバゴさん御本人だった。


――――――――――


 ラッキーにも目的の人に出会えた俺は……武器と防具のフロアを商店の店主トルバゴさん自らに案内してもらっていた。外観を裏切らない大規模な販売スペースは古今東西の武器と防具が所狭しと溢れ……中には重火器に分類される物もチラホラ……


「凄い……でも、いいんですか? 何か用があったんじゃ……」


 一応断っておくけど、俺はきちんと案内を固辞した。大体……アポ無しで挨拶に来て、その上仕事の邪魔してちゃ、一体何をしに来たんだか……だが、当のトルバゴさん自身が、


「気にしなくていいよ。さっき入口で会った時に、今日は君の案内をすると決めたからね。それに……あそこに居たのは


「?……どういう事っすか?」


 不思議そうにしてる俺に……トルバゴさんは、人の良さそうな糸目の眼尻を下げて……


「それは僕のスキルが関係してるんだけど……まぁいいじゃないか。それよりも何か気に入った物はあったかな? 僕のお勧めは……この剣なんかどうだい? これは第三(北米)大陸でも屈指の大鉱床“メサビ鉄山”でドロップした物でね。初期の装備としては少し高価かも知れないが、性能は折り紙付きだよ?」


 そう言って気軽に渡された剣は……幼少から様々な刀剣類を見て来た俺から見ても素晴らしいものだった……が、


「ありがたいんすけど……それより、これを買いたいっすね。使い勝手が良さそうだし……何より安いのが良い!」


 そう言って俺が選んだのは……某NINJAマンガで一躍有名になった投擲武器、いわゆるクナイって奴だ。


「えっ……そんなので良いのかい? それもそんなに悪いもんじゃないけど、スローイングナイフが良いならもっと洗練されたデザインの物も……」


「いえ……これで十分っすよ。それに……道具は使っすから」


 俺は、陳列用のフックに大量に引っ掛けられたクナイを5本ほど購入した。G.O.Dは物の売り買いなんかもかなりリアルに再現されているので、俺はセルフレジにクナイをいれたのだが……一本50コインなので合計250コインの筈がレジの表記額は200コインになっていた。トルバゴさんが小声で“サービス”だよと言ってくれたので有り難く頂戴する。


 その時……俺はカウンターの外にある掲示板(完全なVR世界にローテクな……)に張り出されたポスターが目に入った。そこには……


『レイドパーティ募集! ロッキー山脈の主を討伐する大規模レイドを予定しています!』


 の文字が踊っていた。


―――――――――


「第三(北米)大陸で大きな勢力を持つかい? それなら、東海岸にある“ヒューローク連合国”と……西海岸一帯をまとめている……ここ“アンジェロス王国”だろうね」


 買い物が終わった後……俺はトルバゴさんに招かれて彼の部屋でお茶を振る舞われていた。このG.O.Dがリリースされた当初からプレイしているトルバゴさんは、正に第三大陸の生き字引と言っていいほど情報に詳しい。


「やっぱりそうなんすね……リアルの世界でも西海岸と東海岸は大きな都市が多いと聞きますけど……」


 そりゃあゲー厶の地形が現実を参考にしている以上、人が住みやすい所も偏るよな。


「で、その二つの国が主導して行う大規模合同討伐レイドってのが……あれですか?」


「正確にはそれぞれの国を拠点にする二つの大手ギルドが……だけどね。実を言うとあのポスターにあった計画が正式に発表されたのもほんの数時間前なんだ」


「……? そんな短時間の内にポスター迄??」


「はは、レンくんはまだこのゲームに慣れてないから実感が無いんだろうけど……あのポスターなんてリアルに見えてもオブジェクトゲーム内の設置物の一つに過ぎないんだ。設置したプレイヤーがその気になれば一瞬で内容を変えるのなんかワケないよ」


 そうだった……リアル過ぎてつい忘れてしまうけどココはゲームの中だった。とは言え……


「……トルバゴさんはって事っすか?」


 流石に内容も知らない情報を通達だけで掲げる程人ではないだろう。


「ああ……これでも一応ハリドライブじゃ古顔の一人でね。情報の開示に無理を言える程ではないけど、それなりに支援もしてるんだよ」


 なるほど……俺が如何に初心者ルーキーとは言え、この商店建物を見ればトルバゴさんがどれほどの実力者なのかくらいは想像がつく。それ程の人が……“大陸の有力者を大勢巻き込むイベント”の情報を抑えてないはずないか……


「それでね……一つ報告があるんだ。実は昨日の闘技場ワンハンドレッドでの試合を見たギルドのマスターから問い合わせがあってね……端的に言うと君の素性を知りたいらしい。無論、知らないと答えたよ。まあ……実際、知らないに等しいのだから当然だけどね」


「そりゃあそうです。と、言うか……何で俺の素性なんか知りたいんすかね?」


 俺が疑問を口にした瞬間、ノックも無しに執務室のドアが開いたと思ったら……


「決まってるじゃない。レンくんは闘技場序列七位の“フレームジャンパーコマ飛ばし”を圧倒して見せたのよ? そんなの常に戦力を求めてるギルドあの人達がほっとく訳ないよ」


「その通り……でも圧倒とか言わないで欲しい……」


「あっ……ごめん」


 ……フローとミューの二人が入って来た。


「おいおい、二人ともここで何してんだよ? それに……盗み聞きは褒められたもんじゃないぜ?」


「そんな事してないもん! たまたまドアを開けようとしたら聞こえただけだから」


「同意……」


「……それでもノックくらいはするべきだね。それと……そちらは……?」


「……はじめまして。そこの彼に“圧倒”された者です……実は……娘さんの話を聞いて……お願いがあって来ました」


――――――――――


「なるほど……娘から“ロッキー山脈の怪物”の話を聞かれたんですか……」


 ミューは……挨拶もそこそこにココに来た理由を話し始めた。どうも俺より数時間早くログインしていたフローに、少しの間、戦闘のレクチャーをしていたらしい。


(昨日の今日で随分仲良くなったんだな……)


「そう……です……でも、あのレイド……個人参加は“ギルド”への加入が条件。でも“Tolbago”商会は例外的に『支援参加人員』を送り込めるって聞いた。もし良ければ……私もそこに参加させてほしい」


「ふむ……それは吝かではないですが……ギルドに加入したほうが簡単ではないですかな? あなた程のプレイヤーならギルドにしても粗末には扱わんでしょう?」


「………アイツラ三人のマスターは信用出来ない。奴等のせいで闘技場ワンハンドレッドは随分つまらなくなった」


「ホホゥ……それはそれは……で、レン君。君はどう思います?」


(……なんで俺にそんな事聞くんだ??)


「どう思うも……俺には関係……」


「おや? レン君は興味ありませんか? “ロッキー山脈の怪物”は……このゲームが始まって以来、数える程しか発生していない“運命の道標メインクエスト”の一つだと目されているんですが……」


「……マジですか?」

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