第7話 キャピタリズム (資本主義)

「おっと、そう慌てるな。さっきも言ったろう? 私は所詮“人工知能が擬似人格を形成している”に過ぎない存在だが……これでもお喋りは好きな方なんだ。君は久し振りのスキップスターターなんだし……もう少し情報収集していってもバチは当たらんのじゃないかね?」


 そう言った女神の傍らにはいつの間にかポテチとコーラが……こいつ、仕事サボってダベる気満々じゃん。


「いや……そんなに興味ねぇかな」


「なん……だと?!」


 なんだその驚愕の表情は。


「だって、あんたが言ったんじゃねえか。このゲームは“資本主義キャピタリズム”に支配されてるって……俺は少しでも早くこのゲームを進めたいんだよ。さっさとエネミー狩りなりクエスト受注なりしねぇと……プレイ時間は有限なんだぞ」


 あっ……この女神、俺の言葉に“解ってないなぁ”って顔してやがる。


「それなら、尚更私からゲームの情報を引き出すべきなんじゃないのかい? こう言っちゃなんだが……私がプレイヤーと直接話す事は稀なんだよ?」


「ああ、そりゃ普通ならそうだろうけどさ……このゲームはあんたパナケイアシステムが現実に居る“眠り姫”の状態をリアルタイムにシミュレートしてるんだろ? だったら……“これから何が起こるのか”は、あんたにだって分からないって事じゃんか」


 だからこそリリースから12年も経つのに攻略情報が希薄なんだろ?


「良く理解しているじゃないか……だがその理屈ならこうも考えられるんじゃないか?? “現在進行系で起こっている事件イベントを最も把握してるのはパナケイア”だと……」


 ……確かにそうだ。


「それ……俺なんかに話してもいいのか?」


「いや……むしろこのタイミングで君の様な“スキッププレイヤー”がこの世界に来た事こそ……」


 ……何だその顔?? 


 「真の意味での“天佑”かも知れない」


――――――――――


 「あっ……その姿……チュートリアルは無事に終わったみたいね……?」


 俺が女神パナケイアシステムからの祝福を受けて戻って来ると……俺の姿を見たフローが苦笑しながら出迎えてくれた。


「……似合わないのは分かってるからなんにも言わないけどさ……」


 俺は女神パナケイアシステムがくれた初期装備のローブを摘んでため息をつく……まったく……俺のジョブは魔法使いウィザードじゃ無いんだろよ。


「そんな事ないよ!……なんというか……ちょっとレン君が“魔法使い”だったのが意外だったから……」


 やっぱり……これは魔法職の初期装備なのか。俺は改めて女神から渡された灰色のローブと木製の杖を見てがっかりする。


「ああ……もうそれでいいよ……」


 ここでパナケイア様が語った事を説明するのも面倒だしな……


「そんな落ちこまないでよ。あたしが勝手に近接職だろーなーとか思ってただけなんだから……それに、見た目だけなら騎士見習いパダワンに見えなくもないし……」


「……ありがたくって涙が出るよ。まあ、ここで愚痴ってても仕方ないし……」


 フローと俺は他愛無い会話をしながら聖堂を出てトルバゴさんの待つ馬車に向かった。俺とフローの姿を見つけたトルバゴさんも……俺の姿を見て意外そうな顔をした。


「やあ……どうやら無事終わった様だね」


「ええ、なんとか……ありがとうございました」


 流石にトルバゴさんは大人だ……俺の装備を見ても一瞬出た表情以外は何も言って来ない。


「それで……レン君はこの後の予定は?? もし何も無いなら私達の商店“Tolbago”に来ないかい? おそらくだが……君が今後どんなプレイヤーになるとしてもと思うんだがね?」


「ありがたいんすけど、その前に行きたいトコがあるんすよ。聞いた話なんすけど……このハリドライブ王都にはプレイヤー同士がコインを掛けて戦う施設があるって聞いたんですけど……」


 うん?? トルバゴさんもフローも何でそんな微妙な顔に??


「レン君……まさか闘技場ワンハンドレッドに行きたいのかい?」


「ああ……それです! 」


 俺の疑問に二人が顔を見合わせる……


「「本気なの(かい)??」」


――――――――――


〚ようこそ戦士達の楽園へ!!〛

 

 王都ハリドライブの外れ……安っぽいネオンに飾られた巨大な看板が円形闘技場コロッセオを模した建造物の入口で輝いている。


「ねぇ、本当に考え直す気はない? 君がで強いのは十分知ってるけど……正直の連中とやりあえるとは思えないよ」


「へえ……そいつは楽しみだ」


 俺をここまで案内してくれたフローは……眉間を揉みながら天を仰いでいる。確かに初心者が行きたがる様な所でも無いんだろうけど……そんなに無茶な事言ってるか??


「貴方が手っ取り早くコインを稼ぎたいのは解るわ。ここは元々そういう“初心者”達が自分の力量を確認し、初期のコインを稼いで外のフィールドに進出するための訓練施設でもあったから。だけど……」


「だけど??」


「プレイヤー人口の飽和が進み過ぎたせいで“初心者支援と訓練”を支えるシステムが、そのまま“強者のシステムに対する寄生”にすり替わっちゃったのよ」


 へぇ……彼女が知ってるって事は、パナケイア様が言ってた事は本当らしいな。まぁ、俺を騙す必要なんて無いんだから当然だけど……ウマい話には裏があるのが当然だからな。用心に越した事は無いだろうさ。


「具体的にどんな事になってるのか……フローは知ってるのか?」


 俺はプレイヤーである彼女がどこまで知ってるのか気になって訪ねてみた。彼女は盛大にため息をつきながら、


「そりゃあプレイ開始一時間のレン君は知らなくて当然だけど……ここは全部で100個の部屋があって、それぞれにルームマスターが居るの。本来なら実力の近い部屋のマスターに戦いを挑んで、勝てば双方が掛けたコインと“ルームマスターの権利”を獲得出来るんだけど……今じゃ一番実力が低いって言われてる部屋のマスターですら初心者ニュービーとはステータスが違い過ぎて……“闘技場に挑戦するために必要な訓練をフィールドでする”羽目になってるんだから!」


「ふーん……でもさ?? なんでみんなそんなのに挑戦するんだよ? その……ルームマスターってのになったら何か得でもあんのか?」

  

 正直、今聞いた内容だけじゃ“プレイヤー同士の対戦P v Pを斡旋する”こと以外にメリットなんぞ無さそうだが??


「それがね……あるのよ。レン君はゲームの配信動画とか見る方?」


「いや、ゲー厶のに関係無い動画はあんまり興味無くてさ……もしかして動画配信の……」


 配信の収益が高いってのか? でも……そんな話聞いた事ねぇぞ??


「そう……まあG.O.D全体から見たら似たようなコンテンツが沢山あるから。ただ、この“闘技場”の動画って、ルームマスターにしか配信の権利が無いのよ。つまり……配信で発生した収益は全てコインとして


 そこでフローは周りを見渡してから……小声で囁いた。


「実はね……今までかなりの数の初心者プレイヤーがこの“闘技場”で痛い目にあってるの。例えば、“初心者向けのコンテンツ”だって聞かされたプレイヤーが“なぶり殺し”の目に合う……とかね」


 ふむ……それは確かにキナ臭いな。だけど……


「まあ、彼我の実力差も測れずに、無謀な相手に挑んだ挙げ句にやられたから……って、文句言うのもどうかと思うけどな」


「確かにそうだけど……他にも色々と黒い噂が耐えないのよ。曰く試合の裏で賭博が行われてるだとか、それすらも八百長だとか……」




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