第6話 ゲームシステム

「おいおい……俺はこれでも古流剣術と古武術を伝える一族の伝承者なんだぜ?? なのに……どうして俺のジョブが“魔法使い”なんだよ???」


 そう……ステータスウインドゥの職業ジョブは、はっきりと“ウィザード魔法使い”と表示されている。自分で言うのもなんだが、俺は同年代の人間からすればかなり身体能力は高い方だと思う。必然……事前に収集してた情報から考えれば近接職が充てがわれる物と思いこんでいたんだが……??


「へぇ……どれどれ??」


 俺の不服申し立てに女神事務員はやっと書類から視線を上げ……俺は、そこで初めて彼女の近くにもステータスウインドゥが開いている事に気付いた。彼女の態度からすると、おそらく俺のウインドゥと同じ内容がアレに表示されているのだろう。


「ああ……なるほど。これは確かに珍しいね。ジョブもそうだけど1stスキル女神の加護が“変換コンパイル”とは……きみ


 ???


「意味が分かんねぇ……これチュートリアルで説明してくれるんすか?」


「もちろんだよ。まずはこの世界にヒットポイントやマジックポイント、スキルポイント等……ゲームにはお馴染みののは知っているかな」


「ああ……G.O.Dの根幹を支えるシステム……“資本主義キャピタリズム”ってやつだろ?」


「ハハハハ、本来はそんな名前では無かったんだけどね……まあ言い得て妙ではあるんだけど」


 そう……このG.O.Dの世界は自分のアバターの状態を表すステータスは存在するが……それはレベルアップによって上昇する様な物では無い。例えばモンスターに襲われた時……ステータスにある防御力DEFは相手の攻撃力ATKとの比較で受けるダメージを算出する目安だが、その攻撃は『腕で受ければ問題無い攻撃だったとしても頭に喰らうとあっけなく死んでしまう』のだ。そしてダメージを受けると……


「ゲーム内通貨……通称“コイン”や“アイテム”がダメージの比率によってロストするんだよな?」


その通り!イグザクトリー ちなみに新たなスキルの獲得や、ダメージを受けたアバターの治療、そしてアクティブスキルやマジックスキルを使う為のリソースとしても“コイン”は使われる。つまりG.O.Dにおける“コイン”とは『ゲー厶内の通貨』であるだけでなく“M Pマジックポイント”であり“S Pスキルポイント”であり“E X P経験値”でもあるわけだ。ただし大量にコインを保持していても当たりどころによってはあっけなくデスペナルティーを喰らうから“H Pヒットポイント”にはなり得ないがね」


「それは勿論知ってる。だからG.O.Dでは現実世界での身体能力や技術が大きな比重を占める事になるんだろ?」


「然り! だが逆もまた真なり……だ。これは既知の情報かも知れないが“修行や訓練によって上昇する各種のパラメータ”は……実は、条件を満たしさえすれば『コインで買える』んだ。そしてそれは大多数のスキルも例外ではない。つまり……G.O.Dでは実力やステータスの格差を概念的に“レベルが違う”と表現する事はあっても、数値的な“レベルの差”は存在し得ない! そして……このシステムを上手く運用出来れば先行プレイヤーとのプレイ時間による格差は“資産”によって埋める事が可能なんだ。つまり、全てのプレイヤーにはが用意されているって事だね。ただし……どんなプレイヤーにとっても“たった一度しか与えられない機会”も在る……」


 そう……特異な形式を採用するG.O.Dのゲームシステムの中でも、全てのプレイヤーに与えられる特典が2つだけ存在する。それは俺も、そしてG.O.Dに挑戦を続ける無数の先人達も当然知っているし……ある意味G.O.Dを始める前に知るべき必須科目でもある。


「ジョブと1stスキル……」


 彼女の語るシステム説明に対して……俺は無意識に呟いた。


「その通りだよ。その2つが“どういう物になるか?”は、機密に属する情報なので詳細は明かせない。大まかにはプレイヤーの提供してくれるリアルタイムの身体情報とDNA情報、そして脳と神経細胞から取得出来る“その人物の人生経験”によって初回ログインボーナスがされる。それが“女神の祝福”と呼ばれる“職業ジョブ”と“1stスキル加護”なんだ」


―――――――――


「少し待ってくれよパナケイア様……ちょっと俺の頭の出来じゃ理解しきれねぇんだけど……今の話の内容からすると、余計に俺のジョブが“魔法使い”なのが不思議なんだが??」 


 いつの間にか……デスマーチ残業地獄に目が死にかけていた女神様は、空中に在ったステータスウインドゥをタブレットの如く振り回しながら椅子にふんぞり返って足をバタバタしていた。


(何をそんなにはしゃいでるんだ?)


「おっと、まずはそのを解消するのが先だな。君のジョブである“ウィザード”だが、使。これはどちらかと言うと高いの俗称だね……つまり、私の本体メインフレームは君から取得した情報を精査した結果……君がそして……」


「ちょちょ……ちょっと待ってくれよ。俺が情報処理に長けてる??」 


 学校の定期テストじゃ、毎回一夜漬け三昧で、なんとか赤点を回避するのが常のこの俺が??


「何を驚いているんだい?? それよりも君の持つ1stスキル“変換コンパイル”だが……これはG.O.Dでも初めて発現し、今の所唯一無二のユニークスキルだ。その能力は……『コインを任意の事象に変換する能力』だ。おめでとう……これ程のレアスキルは、このG.O.Dが始まって以来初めてかも知れないよ」


(はぁ?? なんだそれ?? そんなスキルがあったらコインさえ手にいれれば、どんな事でもやりたい放題になってゲームバランスが崩壊するだろう??)


 スキルの説明を聞いた俺の顔がよほど困惑していたのだろうか……俺の不信に気付いた女神パナケイア様は更に俺のスキルについて補足してくれた。


「ああ……心配はもっともだが、君のスキルも他のプレイヤーのスキルと同様、使用条件については幾つかの制約があるんだ……まあ、それはプレイしながらおいおい確認してくれ。おっと……詳しい使い方を探るのもこのゲームの醍醐味だし、他のプレイヤーも同様に試行錯誤してスキルを運用しているんだ。これ以上は私の口からは言えないよ」


「それが普通だってんなら俺に不服はないっす……じゃあ、これでチュートリアルは終わりっすか?」


 俺は目的だったジョブと1stスキルの取得が出来たのでチュートリアルが終了したと思ったのだが……


「おっと、そう慌てるな。さっきも言ったろう? 私は所詮人工知能が擬似人格を形成してるに過ぎない存在だが……これでもお喋りは好きな方なんだ。君は久し振りのスキップスターターなんだし……もう少し情報収集していってもバチは当たらんのじゃないかね?」


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