第8話 “殺気”って具体的になんだと思う?……①
「確かにそうだけど……他にも色々と黒い噂が絶えないのよ。曰く試合の裏で賭博が行われてるだとか、それすらも八百長だとか……」
(裏賭博ねえ……まぁ、ありそうな話だが……)
「やけに熱心に止めてくれるけどさ……そもそもコインを賭けた正規のギャンブルはG.O.Dじゃ合法だろ? 賭博ってのは
「あくまでも噂だけど……現実の裏社会の人間が仕切ってるとか……」
フローはおどろおどろしい表情を作って闘技場の噂話を色々と話してくれたが……現時点では噂の域を出てない程度の代物だ。
「色々言われてるみたいだけど所詮は噂だろ? それとも誰か知り合いが
フローは少し顔を赤くして……
「そりゃあたしだって実際見たわけじゃ無いけど……」
俺の反応に若干不満気味な彼女……俺達は連れ立って闘技場の入場ゲートをくぐり抜け、中の観戦エリアに向かった。通路の壁には一定の間隔で対戦の告知や、オッズの詳細……各ルームマスターのプロフィールとコメント等が雑多に映されている。
「まあ、ここの奴等の戦績を見て……ヤバそうならとっとと逃げるさ。さっきの
「それは大丈夫よ。えっと誰の対戦が見たい?」
「そうだな……
「ちょっと……本気??」
――――――――――
俺は眼前のモニターに映る対戦記録を数戦確認した後……チュートリアルで貰ったなけなしのコインを支払って、ランキング7位の“myurae-@!”が公開している最新戦闘ログを“VR視点モード”で閲覧した。
「ふーん……こりゃ大したもんだ」
戦闘ログが終わってゴーグルを外すと(VRの世界で更にVRを体験するって……)、俺の口からは自然と称賛の声が出た。
「当たり前じゃない……たまたま“myurae-@!”が対戦相手を探してたからって……」
そう……今見ていたのは
「マジ感謝してる。対戦相手の選択が抽選方式とは言え……フローが
「それは……もう! お父さんが“出来る限りサポートしてあげなさい”って言うから……」
何故か俺の隣のブースでは同じ戦闘ログを観戦モードで見ていたフローが頭を抱えてた。
「どうすんの! 今のログ見たでしょ? 相手は闘技場ランキングTop10で最速を誇る女剣士“
(いや……何だその二つ名? そういうのがG.O.Dじゃ流行ってんのか?)
俺がよほど変な顔をしてたのか……フローはさっきより更に顔を赤くして口を開こうとしたが……
「まあ、待てって。確かに適当に選んだ様に見えたかも知れないけど、当然“今日対戦出来る可能性のあるプレイヤー”ってだけで選んだんじゃないさ」
俺の言葉を聞いた彼女は……今度は随分と間の抜けた表情になった。オノマトペが見えるならフローの背後に『……へ?』って浮かんでそうだな。
「まあ、見とけって。俺はゲームのテクニックはからっきしだけど……
――――――――――
「何なのよこれ……」
私は自分の観戦ブースに浮かぶコンパートメントステータス(この場合は闘技場で対戦するプレイヤーの公開情報やその日の戦闘領域設定などの情報が表示されたステータスウィンドウの事)を見て呆れた。元々この
「だからって……明らかに初心者との『対戦割り当て消化試合』になんだってこんな視聴数が……」
この試合の配信を見ている視聴者数の表示が……たった今一万人を超えた。これは試合するプレイヤー同士の評判が元々高く、更に試合迄の間にその情報が拡散されたなら解る。だが、今回は明らかに違う。試合が決定したのはほんの30分前だし、
「まさか??」
私はコンパートメントステータスを操作して“注目のカード!!”と記されたパネルをタップした。すると……
「嘘!! 何でこんな……???」
そこには……世界中の闘技場で開催している
「……君……一体何者なのよ?」
私は状況が理解でない。確かに彼は数少ない《スキッププレイヤー》だけど……それにしたって??
半分パニックになっていた私の事などお構い無しに……闘技場に彼とアンジェロス王国闘技場最速の剣士“フレームジャンパー”が現れた。
――――――――――
今日、抽選システムが最後の試合に選んだのは……明らかに初心者装備のローブと杖を持った若い男だった。この試合はルームマスターに課せられた規定試合数を満たす為の物なので、挑戦者については特に制限せずに募集を掛けたのだが……
「………貴方?? 累積プレイタイムは?」
「ん? えっと……多分一時間半くらいだと思うぜ」
私は思わず絶句する。
「……悪い事は言わない。試合開始直後に
「おっ? 随分親切じゃんか? まあ、気にせずに序列7位の実力を見せてくれよ。こっちの事は構わないでさ? な??」
私は、彼にもう一度降参を促そうと思ったのだが……無情にも私達の半ばに位置する空間に戦闘開始を告げる文字が浮かび上がる。
― ROUND 1 READY?? ―
「仕方ない……」
私はベルトのブレードフォルダから愛用の短剣を引き抜くと両手で感触を確かめた。
― FIGHT!!! ―
「この部屋の対戦システムは最大三回戦の二戦先取。このラウンドで私の実力を見たら……次はサレンダーするといい」
私は、二度ほど爪先でバトルフィールドを叩いて感触を確かめてから……
(彼の装備は明らかに魔法使い系のジョブ……ならば攻撃魔法スキルが発動する前!)
初っ端から全力でフィールドを蹴り、対戦相手に向かって踏み込む。対戦相手のステータスは知らないが相手はどう見ても初心者……一撃で終わらせる!
― ヒュパッ ―
「?!」
「へぇ……凄ぇな……
私は……何が起きたのか分からずその場から飛び退いた。確かに……私は確かに彼の背後を取って頸椎を薙いだ筈???
だが、私が放った渾身の一撃は彼の
(まさか……間合いを見誤った??)
――――――――――
「??? 私は何を見たの?」
今眼前で起こったのは……認識出来た事実だけを言葉にすれば“猛烈な踏み込みで迫ったmyurae-@!が彼の前で一瞬消えたかと思うと、次の瞬間には彼の背後に現れて
私は断言するが……
そして……その直後、彼が何か言葉を発したと同時に彼女はその場から更に背後に飛び退き……試合開始から彼は初めて動き出した。と、言ってもその場で彼女の方に向き直っただけだけど……
「何なのよ? 訳が分からない??
――――――――――
「今のは何? ユニークスキル??」
私は自分の戦闘テクニックには絶対の自身がある。絶対に……今起こった事はミスでは無い!
「おいおい……そんなの説明する訳ねぇーじゃん。逆に、ちょっと聞きたいんだけどさ? 闘技場に上がったプレイヤー同士って
なんなのこの男?
「いや……お喋りはここまで」
私は今度こそ彼を仕留めるべくもう一度全力の踏み込みを掛けた。彼は私の方を見てはいるが……その視線は戦闘の緊張感とはまるで無縁で……
「……なめるな」
私は、彼の前でさっきの踏み込みより更に早く、しかも緩急とフェイントを織り交ぜて……
― ガンッ ―
「ガアァッッ」
突然……私の脳天にダメージ判定が響いた。ゲームの設定で痛みは最小限にしてあるがエフェクトが身体の自由と視界を奪い……私はその場に膝をついて蹲ってしまった。
(何?? 何をされた??)
一瞬後に視界が戻り、身体の自由も回復したが……
「まだやるか??」
蹲った私の首筋には……背後から彼の杖が添えられていた。
「甘い!!」
私は……蹲ったまま彼が居るであろう背後に向かって右手の短剣を振り抜いた!
(妙な術を使うが……背後を取ったからといって油断は命取り!)
首筋に添えられた彼の杖から考えれば、この攻撃は間違い無く彼に届く。もし、届かなかったとしても攻撃を躱すには間合いを取るしか無いハ……
― ガンッ ―
……さっきと同じ衝撃を頭頂部に受けた瞬間……今度は、私が振り向いた先に確かに彼は居た。
ただし……
「あんたさ……確かに速いけど……
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