第56話 あれから一年数ヶ月(最終回じゃないよ!)
俺はかつて恋した女の子と結ばれた。
青春というものが始まりを告げる中学入りたての頃に出会った初恋の女の子、
恋というものも、男女の付き合いというものもよく分かってなかったガキの頃に憧れた一人の女の子は、中学卒業から3年という時を経て、美しい女性へと成長を遂げて俺の前に現れた。
しかして、俺はその再会に大きな後悔を募らせる。
再会した彼女には既に恋人がいた。それも我が親友たる男、高圓寺高彦が、俺よりもほんの少しだけ早いタイミングで再会したが故の交際だ。
もちろん、それに恨み言を言うつもりはない。悔しくはあったが、高彦が良い奴であることを知っていた俺は自分の思いを押し殺して祝福した。
涙をのんだ一年間。くすぶる思いを胸に秘めて彼女の幸せを願ったが、それは適わなかった。
親友である高彦は、自分の恋人を他の男に抱かせる事に強い興奮を覚えるという、中々に業の深い性癖をもっていた。
お互いが了承の上でなら許容もできるが、彼女は非常に苦しんでいた。
見かねた俺は彼女に救いの手を差し伸べた。
かくして、運命の皮肉か悪戯か、俺と彼女はそのおかげで結ばれることになった。
そんな折だ。俺には初恋の女の子と会えない間、恋に落ちた女の子がいた。
俺の人生で初めての恋人、
俺に愛されすぎて相応しくないから離れた。
あまりにも身勝手かつ理不尽な理由で一方的に別れを告げた彼女は、なんという皮肉な巡り合わせなのか、
俺とカスミちゃんが互いの想いを伝え合い、結ばれたまさにその日、俺とアヤちゃんは再会してしまう。
紆余曲折を経て、当時の思いと苦悩を知った俺は、改めて話し合った末、和解することになった。
俺にだって原因の一端があったわけだ。だから俺は許し、次に進もうとした。
だけど、それを止めたのが新しく恋人になった
一年半の時間の中、アヤちゃんが抱えていた"弱さ故の苦悩"、そしてそれが誰にも擁護できない身勝手なものである事を知った彼女は、自分と同じ弱さを持っているアヤちゃんを見捨てることができなかった。
そしてもたらされた答えが、"二人の女性を同時に恋人にする"事であった。
経緯はどうあれ、親友から恋人を奪いとった俺が、その上で元カノまで取り込んで交際することなど許されるのだろうか?
倫理的にも常識的にも、世間はそれを許してはくれない。
それを受け入れるには俺の心は弱すぎた。
だけど、その背中を押してくれたのは、他ならぬ親友の高彦だった。
【別に一人の男が二人同時に愛したっていいじゃねぇか】
大富豪の御曹司として育った高彦にとって、正妻と愛人を同時に愛することなど常識外れでもなんでもなく、単に覚悟の問題なのだということを教えてくれた。
だからこそ、俺は覚悟を決めて二人を愛する誓いを立てる決断をすることができたのだった。
かくして、俺は
それに伴って高彦と
それから約一年数ヶ月。
高彦は自分を磨くことに没頭し、大学の成績もさることながら、学生身分で経営者やコンサルタントとしての実績も積み重ね、人間的にも更なる成長を遂げるようになっていた。
まさしく超ハイスペック男というに相応しい。
本来なら飛び級で卒業することも可能であるが、彼は学生時代にしかできない事もあると、敢えてしなかった。
俺も長年の親友が側にいることは嬉しくあり、そんな親友を誇らしく思っていた。
デリカシーのなかった自分を反省し、人間的に大きく成長した高彦は、本当に尊敬できる人物になっていた。
そんなハイスペック男子を女学生達が放っておく筈がなく、多くの女性から交際を申し込まれていた。
しかし高彦はそれら一切を許諾することはなかった。
昔は割と女の子をとっかえひっかえしていた所のあるプレイボーイだったのだが、俺たちの一件以降の彼は驚くほど身持ちの堅い男になっていた。
【
酒を飲める年になった俺は、時折バーでそんな話を高彦からされる。
彼が交際関係を結ぶ女性は、ほとんどが財産目当てであり、高彦の条件に惹かれてやってくる。
高彦もそれを分かっているから真剣に交際しない。
彼の女性に対するデリカシーの無さは、そんな心理背景から来ていたのかもしれない。
だからと言ってそれまでの行いが正当化されるわけでもないが、相手を本気で好きになる前に現実が見えてしまって入れ込めないところがあったのだろうと思う。
高彦にとって、
結果としてそれはお互いがお互いの方に向き合えないすれ違いの交際となってしまったのだが、ほんの少しだけきっかけが違っていたら、二人はきっと良いカップルになれていたことだろう。
そして、自分から相手に歩み寄らなければ理解しあえない事も学んだ。
そんな高彦だからこの一年で恋人ができることはなかった。
季節は秋。
来月にはもうクリスマスがある冬間近の11月のこと。
自分を磨き続けていた高彦に、とうとう心の春がやってくることになる。
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