第4章 高彦・最高のパートナーに出会う 23話構成

第54話 何かを予感させる奇妙な出会い


 奇妙な出会いというものを経験したことがあるだろうか。


 それは俺が佳純かすみちゃんとアヤちゃん。

 二人の恋人と結ばれてしばらく経ったある日のことだった。


 高彦と佳純かすみちゃんが正式に交際関係を解消し、俺たちが新たな門出を出発してからおよそ1年と少し。



 俺は不思議な雰囲気を持った少女と出会うことになる。


 それはとても浮世離れした、まるでファンタジー世界から飛び出してきたかのような……。


 そういう類いの人種だった。


◇◇◇◇◇◇



 その日、俺は引っ越し屋のアルバイトが比較的早く終わり、佳純かすみちゃんとの約束の時間まで少しの時間を潰すことにした。


 今日の現場は比較的楽な部類だったな。


 大変な時は夜まで掛かったりしてヘトヘトになるまで時間が掛かったりする。


 その代わりに実入りがとても多く、残業代もかなりのものになる。


 週払いという学生にとっては有り難いシステムのおかげで学生生活を満喫する資金に困ることはないのだ。


 その後でジムに行って汗を流し、適当に町をぶらついている時の事だった。


「ん? あの子……」


 夕方の雑踏の中、人混みの中にひときわ目立つ小さな女の子が困った顔でスマホと辺りをキョロキョロと見回している。


 背丈は低く、140台なのは間違いない。


 着用している衣服は非常におしゃれ、というか、上品さを感じさせるコーディネートでフリルが似合っている。


 白いブラウスにフワリとしたミディアムロングのスカート。


 腰の辺りの装飾はコルセットだろうか? ゴスロリに近いが、アレはちょと違うような気がする。


 なんというか、育ちが良いお嬢様というフレーズがぴったりの清楚な美少女だった。


 まるでファンタジー世界から迷い込んできたかのような、それくらい不思議な雰囲気を持つ美少女だった。


 もっとも目を引くのは眩しく光を反射する金色の髪と、低い背丈に見合わぬ豊かなバストだった。


 それだけなら目には留まれど、それ以上はさほど気にならない程度ではあるが、その内チャラい男達に絡まれ始めたからサア大変。


 困り顔は困惑に変わり、だんだんと恐怖に変わっていくように見えた。


 知り合いが待ち合わせ場所に現れた感じではない。明らかに目的は少女をナンパしてやろうというチャラい感じの男達だった。


 なんとなくイヤな予感がした俺はさりげなく成り行きを見守っていたのだが、これは放置しては良くないと判断して助けに入ることにした。


「おーいっ! やっぱりここにいたのかっ!」

「えっ?」


「あ? なにお前」

「邪魔すんなよ」


 男達の間に割って入り、女の子の手首を掴んでアドリブの台詞を吐いた。


「待ち合わせ場所ここと反対側だってば。みんな待ってるから早く行こうぜ」


「あ、はいっ」


 幸いにして女の子はこっちの作戦に乗ってくれた。

 俺が掴んだ手を振り払うことなく足取りを合わせて走り出す。


「すみません、ツレがご迷惑を。人を待たせるのでこれで失礼します」


「ちっ、なんだよ男連れか」

「もったいねぇ」


 二人組のナンパ男達は忌々しそうに舌打ちをした。

 よかった、厄介な絡み方をする人種ではなさそうで、すんなりと諦めてくれたらしい。


 俺は彼女を引っ張りながら曲がり角まで走り、ナンパ達が見えなくなるまでその場を離れる。


 やがて完全に見えなくなった頃、少女の足がもつれた所を咄嗟に受け止めた。


「きゃっ」

「おっとっ」


 華奢な身体をした少女であるが、その真ん中のメルヘンボックスには大きなマシュマロがたっぷりと詰め込まれており、差し出した手のひらにジャストフィットしてしまう。


「ひゃんっ」

「おわっ、ご、ごめんっ」


 思わず掴んでしまった柔らかい感触から慌てて手を離し、転びそうになった身体を肩から支えた。


「はう、ビックリしましたわ」

「ご、ごめんなさい。悪気はなくて」


「い、いえ。助けていただきありがとうございます。おかげで事なきを得ましたわ」


 なんとも独特なしゃべり方をする女の子だった。

 漫画の登場キャラのような「ですわ口調」で喋る人種なんて初めて見たな。


「余計なお世話ではありませんでしたか?」


「とんでもないですわっ! 大変助かりました。あのままではわたくし、路地裏に連れ込まれて色々サレてしまうところでしたわっ。意中の殿方がいるのに、暴漢達に手籠めにされるわたくしっ! 嗚呼ッ! なんとう悲劇ッ!」


 何故か興奮気味に自身が被ろうとしていた被害を妄想し出す少女。


 なんだろう。もしかしたら関わっちゃいけない人種だったかもしれない気がして若干の後悔が募った。


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