第52話 許しの時


 アヤちゃんは変わっていなかった。

 自分自身で触れる所以外の感度は変わっておらず、それは計らずも彼女が誰にも触れられて居ない証拠となっている。


愛也奈あやなを、愛して……ください」


 その言葉には大変な勇気が必要だったのだろう。

 自分が庇いようのないほど愚かな行為をしたのだと分かっているだけに、その瞳は恐怖で支配されていた。


 だから意識のタガを外してやれば、あとはもう積極的だった。


 会えない間ずっと募らせてきた思いの丈を全部ぶつけるつもりで、何度も何度もキスをしていくうちにアヤちゃんの遠慮もなくなってくる。


 ベッドの上で事後の余韻に浸るアヤちゃんと佳純ちゃんを抱きしめながら、彼女のこれまでを訪ねてみる。


「誰とも、付き合わなかったの?」

「無理だよ……ゆう君よりカッコいい人なんていなかった。そりゃ誘われたりはしたけど……、私にはゆう君しかいないって、ずっと思ってたから……」


 だったらなんで別れようなんて思ったのか。

 最悪すぐに謝ればそれで済んだのに、と数日前なら思っていただろう。


 俺は敢えて意地悪く笑顔を浮かべて唇に指を当てる。


「じゃあ、この唇にキスしたのは?」

「ゆう君だけ」

「おっぱいを触ったのは?」

「ゆう君だけだよ」


「ここも?」

「うんっ。唇も、おっぱいも、髪の毛も指先も、口の中も、中身も、全部全部、今も昔もゆう君だけのもの。愛也奈あやなの身体も……心の中まで全部、井之上勇太郎君にしか触らせてないから」


「そうか、嬉しいよアヤちゃん。受け入れる腹づもりではいたけど、正直な感想を言えばすごく安心してる。君が他の男のものになっていたら、こんなに穏やかではいられなかったかもしれない。俺は弱い男だよ」


「そんなことないよ。ゆう君は、とっても強い人。優しくて、愛が深い人。ウチ、ゆう君の愛を受け止められるようになるから、だから」


 アヤちゃんは息を整え、潤んだ瞳で真っ直ぐに俺を見つめながらハッキリと言葉にした。


 その言葉を聞いて、俺の心に途轍もない安堵が訪れる。


 そんな事関係ないと言っておきながらこのていたらくだ。


 アヤちゃんが、他の男のものになっていなかったことに、強い安心感を感じてしまった。


「アヤちゃん、嬉しいよ。前よりずっと綺麗になった君が、もの凄く愛おしい。君の全部は俺のもの。他の人には絶対渡さないって約束できる?」

「します。絶対に、他の人になびいたりなんてしません。今まで一度も、したことありませんっ」


「ありがとうアヤちゃん。そんなに愛してくれて、俺は幸せ者だ」


 褒めるとすぐに照れて赤くなる癖も変わっていない。



「嬉しい、嬉しいよぉ……」


 アヤちゃんの両腕に抱き締められておっぱいに顔を埋める。


「アヤちゃん……本当に綺麗だよ。益々綺麗になった」


 久しぶりに感じる愛しい人の感触はますますボリューム感に富むようになっていた。



「アヤちゃん、下の毛、綺麗に剃られてるね。もしかして、俺のため?」

「そう、だよ……あれからずっと、綺麗にしてて……えへへ、脱毛しちゃった。もうあんまり生えてこないんだ」

「すごいな。そこまでしてくれたんだ」


 別れている間も俺の好みの状態を維持し続けてくれたことが何より嬉しかった。


「愛也奈ちゃん、やっぱり勇太郎君と凄くお似合いだよ。私も負けていられないや」


 右側にアヤちゃん。左側に佳純ちゃん。


 美女2人を両脇に抱えるこの構図は、俺の支配欲を限り無く満たしてくれる。


「ゆう君……いままで、本当にごめんなさい」

「うん。もう良いんだ。お仕置きは今日で終わり。いっぱい苦しかったんだね。それも今日で終わりだ。今夜一晩、目一杯苦しんで、いっぱい泣いて、いっぱい後悔して、それで終わりだよ。明日からは、また前のように愛しあおうね」


「うん♡ ありがとうゆう君、愛也奈あやなに、いっぱいお仕置きしてくれて♡」


 手加減無しに愛しまくった結果、アヤちゃんはぐったりと脱力して絡みついてくる。


愛也奈あやなちゃん……良かったね、本当に良かった、んっ」


 佳純かすみちゃんは俺たち二人の手を取って重ね、祈りを捧げるように包み込む。


「アヤちゃん……佳純かすみちゃんと一緒に、ちゃんと愛していくからね」

「うん♡ ウチも、いっぱい愛しちゃうから」

愛也奈あやなちゃん」

「カスミン、本当にありがとう……、カスミンと会えて、本当によかった」


 佳純かすみちゃんとアヤちゃん。二人は頬を寄せ合って笑顔を向ける。


 それはまるで姉妹のように、俺の二人の恋人はほほえみ合っているのだった。



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