第49話 好きな人のために頑張った愛也奈
夏休み初旬。
恋人関係になった
俺はいつものようにジムで汗を流し、
今日は早朝から夕方頃までバイトだったこともあり、良い感じに筋肉を刺激できた。
引っ越し屋を始めてそろそろ一ヶ月だ。
作業にも慣れて体力にも余裕が出てきた。キツいことには変わりないが、実入りも良いし一石二鳥である。
ジムのトレーニングも功を奏してシックスパックの腹筋もかなり定着してきている。
誰かのために努力することは楽しい。
恋人の前でみっともない肉体は見せられないので、身体作りのためのジム通いは継続している。
最近ジムの中で知り合った社会人の男性からボクシングジムに誘われていることもあり、今度見学に行く予定だ。
殴り合いをしたいとは思わないが、二人も恋人がいる以上、
それに、単に身体を鍛えるよりも度胸がつきそうだし、その方が社会人になった時にメンタル的に有利に働きそうだとも思う。
そんな事を考えながら、そろそろ通い慣れてきた
『はーい。待ってたよ、入って』
通い慣れたはずの場所でも、いまだに恋人の部屋にいくというのはワクワクしてしまうな。
それに、今日はアヤちゃんと一緒にご飯を食べる予定だ。
セックスにおいては罰を与えると言ったが、普段の関係までギクシャクする必要はない。
どっちにしても三人一緒に恋人になることを決意しているのだ。
少しずつ普段の関係性も構築していくべきだろう。
その方がアヤちゃんも自分を許せる日が早くなる気がする。
「お帰りなさい勇太郎君。ご飯で来てるよ。先にお風呂入る?」
「ジムに行ってシャワーは浴びてきたんだ。ご飯頂けるかな」
「うん、分かったっ」
開口一番
なんとも心地よいものだ。
部屋の扉を開けるとキッチンに立っていたのはアヤちゃんで、エプロンを着けて料理を運んでいるところだった。
「あ、お帰りなさい、ゆう君……」
遠慮がちに声を掛けるアヤちゃん。まだ緊張しているように見える。
俺は安心感を与えたくて努めて明るく返事をした。
「ただいまアヤちゃん。もしかして、今日はアヤちゃんが作ってくれたの?」
「う、うん。あの頃に比べればお料理上手になったけど、お口に合えば……」
「もちろん頂くよ。懐かしのダークマターがまた食べられるのかな?」
「ちゃ、ちゃんと上手になったからっ! もうあんなのは作らないから安心してねっ!」
冗談で言った俺の言葉に顔を真っ赤にして照れるアヤちゃん。
かつての彼女は料理が非常に苦手だった。
一度張り切って作ろうとしたオムライスの名を冠したお焦げスクランブルエッグが懐かしい。
アヤちゃんの手に乗った皿には綺麗に整えられたオムライスが添えられており、その見た目はお店レベルと言って遜色なかった。
「今日は
「そっか。それは楽しみだね」
「え、えっと……ゆう君に、食べて欲しくて」
「ありがとうアヤちゃん。有り難く頂くよ」
それは昔とは比べものにならないくらい美味しいオムライスだった。
味もさることながら、別れてから二年弱の間にしたであろう彼女の努力がそこに垣間見える。
それに、俺が好きだった粉バジルが多めに振りかけてある。
不器用で料理下手でも彼氏の好みをしっかり把握して上達しようとしているアヤちゃんの料理は、愛しいとすら思う。
「うん、美味しい、美味しいよアヤちゃん。料理上手になったね。俺の好きなものも覚えててくれたの、嬉しいよ」
「良かったぁ……ありがとうゆう君……」
見せないようにしていたが彼女の目尻には薄らと涙が浮かんでいる。
よほど嬉しかったのだろう。俺も嬉しい。
久しぶりにアヤちゃんの手料理を食べることができたのもそうだが、彼女が俺のために一生懸命になってくれた事が何より嬉しかった。
「良かったね
「うん。ありがとうカスミン」
「もしかして、
「うん、
「そうなんだね。ありがとう
今日の晩ご飯はアヤちゃんがメインで
二人の合作ということになる。
最後まで美味しく頂き、アヤちゃんとの心の距離はグッと近くなった気がした。
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