第48話 愛也奈ちゃんと一緒にできること【side佳純】




 それは今から二年ほど前の話。

 勇太郎君と愛也奈あやなちゃんは当時高校二年生で、何度かのデートを重ねてとうとう初めてのお泊まりデートを敢行した。


 その日は勇太郎君の誕生日であり、二人は緊張の面持ちで彼の部屋へと入っていく。


 親は仕事で遅くなり、二人きりの空間は保証されている。


 二人でケーキを食べて、楽しく会話して、やがて話題も尽きてきた頃、勇太郎君から肩を抱いた。


「ゆう君に……あげる」


 幾度目かのキス。でもその日は違っていた。

 優しく柔らかい口づけではなく、勢いと熱量を感じる激しいものだった。



 ベッドに倒れ込む二人。覆い被さってきた勇太郎君の激しい息遣いを感じ、愛也奈あやなちゃんは微かな恐怖心を感じた。


 イヤなわけじゃない。でも、いつもの優しい勇太郎君とは明らかに違う余裕のない態度に僅かばかりおののいてしまう。


 愛也奈あやなちゃんは抵抗しそうになる恐怖を払い、好きな人と繋がれる喜びを必死に感じとろうと意識を巡らせた。


 好きな人の顔。覆い被さる熱いキス。興奮の熱量。情愛に溢れた手指の感触。


 人に触らせないデリケートな部分に手が覆い被さり、いよいよセックスが始まるのだと興奮を募らせる愛也奈あやなちゃん。


 勇太郎君は、私の知っている彼よりずっと荒々しく愛也奈あやなちゃんの衣服を剥ぎ取って愛撫していた。


「すごくって訳じゃなかったけど、ちょっと痛かったと思う」


 少し痛かった。そのように愛也奈あやなちゃんは語る。


 でもそれは私の時のような、ひたすら痛みに耐える訳の分からない苦痛ではなく、好きな人が自分で興奮してくれる愛おしさだった。


 だから耐えられた。喜びの方が強かったから、と彼女は語る。



 愛也奈あやなちゃんは心の奥から溢れてくる愛おしさで痛みを打ち消す。


 感じている興奮が痛覚を凌駕し、下腹部に覚える熱い感覚に酔いしれながら勇太郎君を抱きしめる。


 キスをし、胸の愛撫を受け入れ、少しずつ衣服を脱がされていく喜びを噛み締めた。


 制服にシワができるのも構わず、勇太郎君の抱擁に熱い気持ちを抑えきれずに自らも求めた。


「キスから始まって、それからおっぱい……乳首吸われて、それから……」

「私の時とは、真逆だね」


 初めて感じる乳首を吸われる感覚。それは甘美であり、痺れるような強い感覚だった。


 私の初体験の時とは真逆。似ているようで真逆の感覚だった。


 掴まれて引っ張られるような感覚にひたすら耐えていたような気がする。


 気持ち良いのかどうかも分からず、しゃぶりついてくる高彦君の行為をぼんやり眺めていた。


 セックスにおいて大事なのが気持ちだと言うことを教えてくれるメッセージのように思える。


 愛也奈あやなちゃんのそれは、だんだんとせり上がってくる感覚が性的な快感が身についているのだと自覚させてくれたという。


 それなりの頻度でオナニーをしていた愛也奈あやなちゃんは、それが性的快楽だと知っていた。


「ゆう君、余裕なかったみたいで、でも、だんだん優しくなっていった」


 勇太郎君は初めての時も丁寧な愛撫を心がけたらしい。

 私の時は胸の後はもう入れられてたけど、身体の刺激である程度の濡れ方はしていた気がする。


 それでも入れられた時はもの凄く痛くて、でもそれを言い出せなくて耐えていた。


 愛也奈あやなちゃんも同じだったのだろうか。


 濡れた秘裂に押しつけられた亀頭を感じた瞬間、恐怖心と好奇心、そして勇太郎君への愛おしさが混じった感情があふれ出して招き入れる。


 だけど愛也奈あやなちゃんは、自身の入り口が固すぎて勇太郎君を受け入れるのに狭すぎたと語る。


「もうめちゃくちゃ痛くってさ……ウチのここ、ちょっと狭すぎたみたいで」

 

 今の勇太郎君からは想像しにくいけど、その時の彼の様子は高彦君に通じるものがあった。


 相手の顔を見る余裕がなく、一気に奥まで到達されて一瞬の破ける感覚と、その後にくる強烈な圧迫感で凄まじい痛みが襲ってきた。


 勇太郎君は必死に腰を振り始める。


 でも高彦君の顔は必死ではなく、余裕すらあったけど私の事を見てはいない感じ、だった気がする。


 愛也奈あやなちゃんと繋がった勇太郎君の表情は、あまりにも必死で他のものが何も見えてない感じだったという。


 初めてを台無しにしたくない思いから圧迫感で押しつぶされそうな痛みにひたすら耐えていた愛也奈あやなちゃん。


 しかしそのあまりにも凄まじい痛みと、余裕なく必死に動こうとする勇太郎君の摩擦にとうとう耐えきれなくなり、泣き出してしまったという。


 我に返った勇太郎君が引き抜き、そこで初体験は終了。


 引かない痛みで涙が止まらず、ひたすら謝る彼に申し訳ない気持ちでいっぱいになったのだった。


……


「初めての時は、本当に申し訳なかったなぁ。自信喪失しちゃう人もいるって話しだから、それで一念発起してドンドン上手になっていったゆう君は本当に凄いと思う」


「そうだったんだ……。素敵な思い出、なんだよね?」


「うん。私のためにいっぱい努力してくれたゆう君のこと、ますます好きになるきっかけだったよ。その時は余裕なかったけど、後から振り返れば凄く素敵な思い出かな」


「そっか……羨ましいな。私の初めては、綺麗な思い出にはならなかった……って、ごめん」


「ううん。まあ高圓寺がひたすら下手くそなのは聞いてて分かるから、それが綺麗な思い出にはならないのは仕方ないよ。技術って意味ではその時のゆう君と大差ないのかもしれないけどさ、大事なのって相手に対する気持ちの表し方なんじゃないかな」


 それは確かにそうだと思う。

 比較することってなんだか気が引けるけど、どうしたって比較してしまった。


 勇太郎君にあって高彦君になかったもの、それは相手に対する思いやりなんだろうな。


 好きって気持ちを表してくれるという意味では、二人とも確かなものがあった。


 でも、それが自分のためなのか、相手のためなのかっていうのが大きな違いだった。


 そこが勇太郎君と高彦君の決定的な違いだったのだろう。


 って、ダメだ。なんでこう二人の比較ばかりをしてしまうのだろう。


 頭の中で元彼と今彼の比較ばかりしている女なんてイヤに決まってる。


「どうしたのカスミン?」

「う、うん、なんか私、高彦君と勇太郎君の比較ばっかりしちゃって、イヤなヤツだなって思っちゃってさ」


「それは仕方ないよ、ゆう君だもん。他の男が見劣りするのは自明の理だねっ!」


「え、それって」

「だってゆう君ってさ、デートの時はいつも服装褒めてくれるし、常に車道側歩いてくれる。それに――」


 勇太郎君を褒め始めると途端に饒舌になる愛也奈あやなちゃん。


 先ほどまでの消沈していた態度と真逆に立て板に水がごとくあふれ出す想いを止められないと言わんばかりに褒め言葉を並べ立てた。


 そんな愛也奈あやなちゃんを見ていると、本当に勇太郎君のことが大好きな事が伝わってきて、私自身も嬉しくなっていった。


「ふふ」

「あ、ご、ごめんカスミン。喋りまくっちゃって」

「ううん。愛也奈あやなちゃんの勇太郎君愛が凄く伝わってきて嬉しかった」

「ウザくないの? 元カノがベラベラ喋っちゃって」

愛也奈あやなちゃんだからかな。全然平気なんだ。不思議と嫌な気持ちは湧かないの。もっと聞きたいって思う。勇太郎君のこともっと知りたいし、二人の思い出も沢山知りたい」


「カスミン凄いよ。普通はイヤだよそういうの」

「他の人だったらきっとイヤだったと思う。愛也奈あやなちゃんだからだよ」


「カスミン……ありがとう」


「二人の思い出、もっと聞かせて。勇太郎君のことも愛也奈あやなちゃんのことも、もっともっと知りたいの」


 それから私達は眠る時間も忘れて二人で語り合った。


 愛也奈あやなちゃんと勇太郎君の思い出話。楽しかったこと、喧嘩しそうになったこと、仲直りの仕方。


 そして、エッチの時にどんな風だったのか。

 どんな仕方が好きなのか。


 時間を忘れて語り合い、私は愛也奈あやなちゃんのことも勇太郎君のことも、ますますに好きになったのだった。


 これで三人でやっていける。そう思わせるには十分なほどに。


 その日の夜、私達は同じベッドで眠った。

 互いに手を繋ぎ合って、二人で一緒に大好きな勇太郎君を愛していこうねと、遅くまで語り合いながら。


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