第47話 これがウチが受ける罰なんだ【side愛也奈】後編

(嗚呼……ゆう君が……ゆう君が他の女の子とセックスしてる……辛い……辛いよぉ……)


 だけど、これこそがカスミンがもたらしてくれたチャンスなんだと自分に言い聞かせる。


 それに、私には苦しむ資格すらないんだ。


 この感情を全部自分で飲み込まなきゃ、次に進めない。

 ゆう君の前に堂々と立てない。


 先ほどまで目の前で繰り広げられていた光景を、改めて映像で見返しても、その時に感じたキツさは変わらない。


(カスミン、幸せそう……)

 そこで、ふと気が付いた。


 恍惚の表情を浮かべるカスミンの視線がカメラに向かっている。


 いや、違う、さっきと同じだ。カメラを通して私に訴えかけてる。


(カスミン……?)


『は・や・く・い・っしょ・に……しよ』


 一緒に。カスミンの唇が確かにそう動いた。

 凄い……凄いなぁカスミンは……。


 私はこんなに嫉妬してるのに……。

 彼女が見据えているのは、二人でゆう君を愛していく道だった。


 目線はずっとカメラを向いている。

 腰を振るゆう君の動きに合わせてお尻を高く上げるカスミンの艶めかしさに、同じ女なのに魅入られてしまった。


 私はいつの間にかゆう君じゃなくてカスミンを見ていた。


愛也奈あやなちゃん、辛いなら、一度休憩しようよ」

「え、あっ。だ、大丈夫。これが罰なんだもん。ちゃんと向き合わないとね」


 いつしかボロボロと泣いていた私を見かねてカスミンが気遣ってくれる。


 だけど、逃げるわけにはいかない。

 開きっぱなしになった口から漏れるのは獣のような叫び声。


 他人がやっているのを見て改めて分かる。

 ゆう君のテクニックやセックスにかける熱量の高さ。


 身体全部を使って愛してくれるゆう君のセックスが欲しくてたまらない。


「ふう、改めてみると、やっぱり俺も恥ずかしいな。大丈夫かいアヤちゃん」

「う、うん……」


 映像が終わり、動画再生アプリを閉じたゆう君が私に声を掛けてくれる。


「辛いよね。でも耐えてくれ……」

「うん。ありがとう……。大丈夫だよ」


 私はこれ以上泣き顔を見られたくなくて、袖グッと涙を拭って立ち上がった。


「さて、そんじゃあウチは部屋に戻るよ」

愛也奈あやなちゃん、泊まってってよ」

「それはやめとくよ。まだゆう君に許されたわけじゃないからさ。こういう所は分別ハッキリさせておかないとね」


「いや、それなら今日のところは俺が帰るとするよ。二人で色々と話すこともあるだろう。佳純かすみちゃん、アヤちゃんのケアをお願いできるかな」


「うん、分かった」


「ゆう君……」


「アヤちゃんが自分を許せるまでとことん付き合うから。ちゃんとケアしながらやっていこうね」

「うん、ありがとうゆう君」


 そういって、ゆう君はあの頃のままの優しい笑顔で頭を撫でてくれた。


 ゆう君が帰った後、私は二人きりになったカスミンと共に話し合う事にした。

 

◇◇◇



【side佳純かすみ


 勇太郎君が部屋から出た後、私は愛也奈あやなちゃんと二人で紅茶を飲みながらお話をしていた。


愛也奈あやなちゃん、辛くない……訳ないよね」

「うん、思った以上にキツかったよ。でもね、同時に心が救われていくんだ」

「どういうこと?」


「私はゆう君にヒドいことした。ゆう君はもう許してくれてるけど、自分自身を許すために必要な事だから、そのチャンスを与えてくれる二人の気持ちが嬉しくて、自分を許せる気がするから……」


 愛也奈あやなちゃんは優しくて、友達思いで、他人の痛みを分かってくれるとっても強い人。


 でも本当は自信がなくて傷つきやすい、とっても脆い一面がある。

 

 そんな弱さを持った彼女だから、一緒に勇太郎君を愛していこうと思った。


 私一人で出来ない事でも、二人でならやっていけると思ったから。


「凄いよね勇太郎君。あんなに優しくて大きい心持ってる人、多分他にいないよ」


「うん、本当にそう思う。ゆう君に、どうやったら恩返しできるだろう……」


「多分だけど、勇太郎君は恩返しとかそういうのは望んでない気がする」


「どういうこと?」

「勇太郎君が求めてるのは、本当に日常的な幸せ……。なんでもないような、当たり前に過ごす恋人としての幸せを求めてるんだと思う」


「そう、だよね」

「普通じゃない結ばれ方をした私達だけど、勇太郎君が求めているのはあくまでそういうこと。だから、私達が恩返しできるとしたら、二人で彼を当たり前のように愛していける状態を作っていく事だと思う」


「当たり前、か……。そうだね。三人で一緒に暮らして、デートもして……」


「二人で勇太郎君にご奉仕して、ね」

「ふ、二人で……それってありなのかな」

「三人で付き合っていくってことは、そういうこともあるんじゃないかな。ずっとローテーションって訳にもいかないだろうし」

「そ、そうだね」


「それにさ、勇太郎君も男の子だし、やっぱりそういうシチュエーションに憧れもあるんじゃないかな」


「あ、それはあるかも。ゆう君の持ってるエッチな動画でハーレムものあったし」

「そ、そうなんだ。勇太郎君ってどんなエッチが好きなのかな」


 考えてみれば、私はずっと勇太郎君にリードしてもらってばかりで自分から何かをしようとすることはまだ少なかった。


 それは彼がどんなことをされたら喜ぶのか、その知識が少ないことも原因に挙げられる。


 私はそのことをずっと彼と経験してきた愛也奈あやなちゃんに聞きたいと思った。


「カスミンって付き合って3日なのにゆう君の理解深すぎるよ。すごいなぁ。やっぱりウチより全然相性いいんだと思う」

「そ、そうかな。でもまだ付き合って日も浅いし、リードされてばかりだから」


 普通は、彼氏の過去を知りたがるというのは忌避することだろうか。


 人にもよるのだろうけど、私は彼がどんな事で喜ぶのか……それを知っている愛也奈あやなちゃんから知りたいと思った。


 たぶん、それはきっと"愛也奈あやなちゃんだから"。


 他の人だったらきっと知りたいとは思わなかった気がする。

 

 独占欲が先行して自分だけの彼でいて欲しい。

 過去は気にしない。未来だけを見ていたい。

 そう思ったに違いない。だけど、愛也奈あやなちゃんの過去なら知りたい。


 勇太郎君が好きなこと、喜ぶこと、愛也奈あやなちゃんはどんな風に努力してきたのか。それも知りたかった。


「そっか……じゃあ、私がカスミンをプロデュースするよ。ゆう君が好きなシチュエーションとか」


「あ、それ知りたい。勇太郎君、どんなことすれば喜んでくれるかな」


 愛也奈あやなちゃんから聞かされたのは、勇太郎君と重ねてきた思い出の話。


 私が知らない過去の勇太郎君の話だった。


 性癖から、どんなことが好きなのかとか、色々なことを聞かせてくれたけど、ふと気になることがあった。


「ねえ愛也奈あやなちゃん」

「なに?」


愛也奈あやなちゃんと勇太郎君って、初めての時はどんな風だったの?」

「え、は、初めての時……? う、うーん。そうだね、ウチにとっては最高の思い出だけど、ゆう君には結構負担掛けちゃったかな」


「泣いちゃったって聞いたけど」

「うん、あんまり聞いて楽しい話じゃないけど」

「聞かせて。勇太郎君のこと、もっと知りたいから」


「わ、分かった……えっと……」


 私は愛也奈あやなちゃんの口から語られる二人の初めてに聞き入った。



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