第43話 だからこそ、俺達はウマが合う

 高彦と出かけたバニーガールが給仕するレストランで遭遇したのはまさかのアヤちゃんだった。


 友達に頼まれて緊急でヘルプに入ったというアヤちゃんのバニーガール姿はもの凄い破壊力で、思わず見入ってしまうほどだった。


 出待ちをしている間、高彦はずっとブツブツ文句を言っていたが、こいつが怒っているのは当時の理不尽とも言える逃げ方に対してだった。


 確かにあの時のアヤちゃんの行動は褒められたものじゃなかった。


 そのことに関してはわだかまりを解いておく必要があるだろう。


 アレに関しては確かにアヤちゃんの行動は誠実とは言いがたいのは事実だしな。


「二人とも、お待たせ」


「やっと来やがったか」

「まあまあ高彦」


「えっと、高圓寺、さっきはごめん。私に色々言いたいことあるよね……」


「なんだ。急にしおらしいじゃねぇか。勇太郎が散々怒るなっていうから話を聞いてやるが、俺はお前の事まったく許してねぇぞ」

「高彦、ちょっといいか」


「なんだよ勇太郎」


「実はここ数日で色々あってな。そのことを話そうかどうか迷っていたんだが、ここまで来たら全部話しておこうと思う」


 迷った結果、俺はアヤちゃんと再会した経緯を話すことにした。


 ◇◇◇◇◇◇


「あの時は、本当にごめんなさい……。私がバカだったんです」


 俺は高彦、アヤちゃんと共に近くのファミレスに入って話すことにした。


「高彦、実はな……。俺たち昨日再会したんだ」


「な、なんだと?」

「本当に偶然だったんだ。それでな、あの時俺が振られた理由について改めて話し合って、俺たちの中で心の決着がある程度ついた。そういう経緯があるから、俺はもうアヤちゃんについてわだかまりはもっていない。このことを先に事実として伝えておく」


 俺はアヤちゃんと再会した経緯を説明した。


 アヤちゃんの口から説明させなかったのは、その方が高彦も感情を暴走させずに済むと思ったからだ。


 まあはっきり言って俺自身ですら「なんだそりゃ」と思ってしまう理由だっただけに、犬猿の仲だった彼女の口からは説明させない方が良いと、さっき隙を見て予めメールで打ち合わせしておいた。


 高彦は説明を聞くたびに何度も激高しそうになり、そのたびに俺が抑えるという問答が続いた。


 そして全てが説明し終わった頃、ようやく高彦の感情も落ち着きを取り戻した。


「なるほどな……お前のバカさ加減はよく分かった」

「うん、まあ、本当にバカだったんだよ私……。そのことで高圓寺も色々声を掛けてくれたよな。あの時は、本当にごめん」


 アヤちゃんは高彦に対して平謝りで頭を下げる。


「自分の劣等感で離れたくなったとか、それならまず当の本人にちゃんと相談しろよ。言いにくかったら俺に言っても良かったんだぞ」


「う……」

「いやまあ、あの頃のお前らの関係を考えたらそれは無茶だろう。それに納得……いや、話し合った上での別れだったんだからな」


 高彦とアヤちゃんはことあるごとに口げんかの絶えない犬猿の仲だった。


 本当に嫌い合っている訳ではなかったろうが、気楽に相談できる相手でもなかっただろうな。


「まあ相談されたとしても俺の答えは変わらんがな。勇太郎がどんだけ三戸部にベタ惚れだったか、一晩中だって語り続けられるほどだぞ」


「おい高彦。恥ずかしいこと言うなって」


「俺がお前の惚気話のろけばなしにどれだけ付き合わされたと思ってるんだ。人生初彼女が嬉しいのは分かるが、カラオケボックスに四時間も籠もって延々と初デートやらの話を聞かされるこっちの身にもなれってんだ」


「ゆう君そんなことしてたんだ」

「お恥ずかしい限りだ」


 アヤちゃんは照れ笑いを浮かべながら嬉しそうにモジモジし始めた。

 やっぱりこういう仕草が可愛い所も変わってない。


 俺も顔が熱くなってきた。


「まあ、俺も人の事は言えん。お互い様だ。だからよ、まあどういう風になるか分からんが、もしも勇太郎とよりを戻すなら……、いや、これは俺から言うことじゃないな」


 俺は佳純かすみちゃんとの事で高彦から後を託されている。


 そこら辺を今後どうしていくかも、タイミングを見て話しておく必要があるだろうな。


「俺としてはまだまだ文句は言い足りねぇ……が、当の本人の勇太郎が許してるんじゃ、それ以上は何も言えねぇわな」


「俺のために怒ってくれてるお前の気持ちは嬉しいさ。だからさ、アヤちゃんもそのことを凄く後悔してて、あれからずっと苦悩していた。そして俺はその理由を聞いて、飲み込んで、許した。そういうことだ」


「そうかよ。分かった。じゃあ俺も許すぜ。ところでよ、お前らどこで再会したんだ? 確かパティシエの専門校に行ってたんだよな?」


 アヤちゃんは助けを求めるように視線を送ってくる。


 佳純かすみちゃんとの事があるのでどこまで説明して良いか迷っているのだろう。


 俺はそのアイコンタクトを受けて、事の経緯を説明することにした。


「実はな、アヤちゃん、佳純かすみちゃんのマンションの隣部屋だったんだ」


「……えっ!? はっ!? ま、まじかよっ!?」


「私、実は去年の春にカスミンと出会って、意気投合して親友になったんだよ」


「か、佳純かすみと親友ッ……。俺、あの部屋何度も行ったんだぞ」

「そうなんだよな。それでよく遭遇しなかったもんだ」

「本当にね。ニアミスはしてたかもしれないね」


 高彦いわく、佳純かすみちゃんとのデートはいつも外デートからの高彦のマンションというコースがお決まりだったらしく、佳純かすみちゃんの部屋に行ったのはほんの数回ということだ。


「世間っていうのは本当に狭いもんだな。まさかそんな近くにいたなんて」


 それは本当にその通りだ。

 

 まさか初恋の人の隣に元カノがいるなんて考えもしなかった。


 さて、話題は次に移る。


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