第40話 そして新たなパートナー



「俺は、アヤちゃんを苦しめたいとは思わないけど、佳純かすみちゃんの提案を受け入れるには、このまま手放しでアヤちゃんを許すわけにはいかなくなった。まずは、辛い目に遭うことになる。耐えきれなくなったら、いつでもやめて良いからね」


 アヤちゃんはスカートの端をギュッと握って唇を噛んだ。


 辛いのだろう。それはそうだ。俺だって逆の立場なら耐えられない。


 でも、だからこそだ。それを超えたら、俺はアヤちゃんを許す大義名分を得ることができる気がする。


「だけど、佳純かすみちゃんの言いたいことも理解はできる。アヤちゃん、覚悟はあるかい? 無駄な傷を負わずに、次に進むのだって、俺は悪くないと思うよ」


 真っ当に考えるなら、そっちが正解だ。


 世間一般、大多数の感覚、99%の人が選ぶだろう常識で言うならば、佳純かすみちゃんの提案は賢いとは言いがたい。


 俺は佳純かすみちゃんの恋人であり、彼女を守っていくと誓った。


 そして、アヤちゃんの事は大好きであることに変わりはないけど、それでも過去は過去。


 もう恋人関係は終わった。彼女自身が自分で終わらせたんだ。


 それでも、佳純かすみちゃんはこのまま話を終わらせたくないようだった。


「本当は、愛也奈あやなちゃん自身の選択を奪ってしまうのかもしれない。せっかく決着がつきかけていた話を蒸し返してしまったのかもしれないと思う。愛也奈あやなちゃんも、時間が経てば飲み込めることなのかもしれない。新しい運命の人が、どこかにいるのかもしれない。だけど、このまま勇太郎君にした失敗を後悔したまま、終わって欲しくない……」


 ごめんなさい……と佳純かすみちゃんは俯く。


 それがどれだけ無茶な選択か、よく分かっているからだろう。


 一人の男を、二人の女が共有する。


 そこに嫉妬を発生させないなんて不可能だ。

 独占欲が働くに決まってる。


 荒唐無こうとうむけいで無茶にもほどがある。



 ありとあらゆる全部全部全部全部に正解を選び出すことは極めて難しい。


 しかし。


 それを選んで当たり前と思われる大多数の意見が目の前にあったとしても、たった一つの感情がそれを選ぶのを拒むことだってある。



 佳純かすみちゃんは、アヤちゃんがしてしまった過去の過ちを蒸し返して押しとどめているという見方もできてしまう。


 傷をえぐり出して、更なるダメージを与える性悪しょうわるな選択をさせようとしている、なんて穿うがった見方すらできてしまう。


 非常に愚かな選択、茨の道。滑稽で愚かで、誰にも理解されないバカな考え。


 いや、99%上手くいかないと分かる、明瞭な選択だからこそ、それを選ぶ人はいないに等しい。


 普通に考えれば、"世間一般の常識"に当てはめれば、ここできっぱりお別れしてお互いに次に進むべきだと思うし、アヤちゃんだってきっとそうするだろう。


 アヤちゃんは素敵な女の子だ。俺なんかよりいい男など選り取り見取りの筈。


 こういうのは本来、時間が解決してくれる。


 一人の人間にパートナーは一人。

 それが常識だ。なぜならそこには独占欲という感情があるからだ。


 しかし……俺はつい最近間近で、誰にも理解されない感覚に苦しんで、必死に成長しようとしているヤツがいることを思い出した。


「考えようによっては、未知への挑戦って捉え方もできるよな」


「勇太郎君」


「この問題は、本来なら時間を掛けて解決すべきことだ。ここできっぱりとお別れして、決別して、お互いに未来を見据えて行動するべきだと思う」


 だけど、と俺は付け加える。


「普通の人が絶対に選ばない選択をすることで見えてくるものもあるかもしれない」


「うん。私は、その可能性を探したい。二人で一人の彼氏を分け合うって、普通はできないけど、でも」


「互いに傷つけ合うと分かっていながらこの選択をするのは、他人から見ればヒドく滑稽だろうと思うよ」


「分かってる。それでも、選んで欲しい」


「ウチは……」


「アヤちゃんは、どうしたい?」


 人の不幸の上に成り立っている快楽だからこそ、これは選ぶべきじゃない。


 では全員が納得の上でなら? 覚悟が決まっていたら?


 アヤちゃんが過去の自分を許すためのきっかけ作りにはなるかもしれない。


「ウチは、ゆう君と一緒にいられるチャンスにしがみ付きたい。ゆう君に、負担を掛けちゃうかもしれない。でも、苦しめていい。ヒドいことしてもいい。ぞんざいに扱っていいから、そばに、いさせてください」


「分かった。もう一つ言っておくなら、俺は君を恨んじゃいない。そのことはもう決着がついた。これからの選択は、無駄な傷を増やすだけ。それでも良いんだね?」


「はい」


「全てが終わったら、その時にまた考えよう。三人一緒に付き合うかどうかは、一旦保留にしよう」


「それは」


「アヤちゃんが気が変わることもあるかもしれない。その時になって、今取り決めた事が縛りになってはいけないからね」


「ゆう君……」


「だけど、誰も選ばない大間違いを、俺たちで正解に変える努力だってできる筈だ……。つい最近ネトラセなんて無茶な願いを聞いたばかりだ。二人同時に愛するくらい、やってみせるさ」


「うん、ありがとう……ゆう君」

「ありがとう勇太郎君」


「あくまでも暫定だ。全てが終わった後、アヤちゃんが次に進みたいというなら、その時はきっぱり終わりにしよう」


 こうして、俺たちの奇妙な関係は新たな展開を迎える事になったのだった。


 どうにかして、全員が不幸にならない未知の道を模索しなくっちゃな。


 アヤちゃんだって、俺にとっては大切な人。


 傷ついたままお別れっていうのは、とっても寂しい。


 三人で付き合う? 


 現実が見えていない愚か者の選択をしたと揶揄やゆされるだろう。


 将来は? 親御さんになんて説明する?

 周りはどうやって納得させる? 


 結婚は? 子供は? 家庭は? 家族関係は? 仕事は? 収入は? 住む場所は? 世間体は? 将来は? 


 仮に現時点で上手くいったとして、将来生まれてくる子供達にはなんと説明する?


 普通じゃない選択をして生まれてきた子供が、世間からどんな奇異の目で見られるのか。


 少ない脳みそがちょっと考えるだけでこんなに障害が浮かんでくる。


 それでも、誰も不幸にならない未来を、つかみ取る覚悟が必要だ。


 俺は、佳純かすみちゃんもアヤちゃんも、同じくらい大切にしたい。


 佳純かすみちゃんの方を優先して大事にしたいっていうのは、常識に当てはめた場合の判断だ。


 俺の本当の本当の本当の本当の、本音の本音の本音の本音を吐露するならば、二人とも、同じくらい愛してる。愛したい人たちなのだから。


 アヤちゃんは身勝手な理由で無理やり別れた?


 そんなの許しちゃいけない?

 許すべきじゃない?

 そんな女を愛するのは愚か?


【だからどうした】


 変わらない気持ちだってあるんだ。


 彼女なりに苦悩したことを俺は理解した。

 だからこそ、俺はもう彼女を許している。


 他人から見てアヤちゃんが許されるべきじゃない事をしたと言われても、俺には関係ない。


 


 未来を、かならず勝ち取ってみせる。


 俺の挑戦は、まだ終わらない。


【第二章 完】



――――――――


※後書き※

第2章、これにて終了。「寝取らせ関係ないやんけっ!」って思ったそこのあなたっ! 分かるよ。そう思うのも無理はないです。

ただし、物語はようやく半分終わったところですぞっ!


まだまだ続く彼らの奮闘記、ぜひ見守ってくだされ!


★★★レビュー、ご意見ご感想お待ちしてます


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