第33話 幸せすぎる未経験の時間【side佳純】

【side佳純かすみ



 幸せの絶頂が流れ込んでくる。

 これでもう何度目だろうか。多くても二回しか経験したことのない連続セックス。


 勇太郎君は絶倫だった。


 私は絶倫という言葉を今回初めて知ったが、実際に経験してみると高彦君とはありとあらゆる点においてレベルが違いすぎる。


 比べるなんておこがましいと思う。でもどうしたって比べてしまう。


 身体の条件で男性を選ぶのは良いことかどうか分からないけど、セックスの仕方一つ取っても勇太郎君は明らかに彼を凌駕していた。


 私は思う。高彦君と勇太郎君の違いとは一体なんであるのか。


 それは、高彦君が突っ走って先に行き、私が追いついても再び先に行ってしまうのに対し、勇太郎君は常に歩幅を合わせて一緒に歩いてくれる。


 しかもそれが彼にとってのスタンダード。

 決して無理をせず、それが当たり前であるかのように振る舞う。


 いや、それが彼にとって当たり前だからこそ、私は安心して身を委ねることができる。


 社会的なステータスは確かに高彦君が優れているのかもしれない。


 私にとっては違ったけど、大きな男性器はオスとしての優位性を示しているのかもしれない。


 だけど、それでも私は、あらゆる点において勇太郎君に溶かされてしまった。


 高彦君と勇太郎君でどちらが男性として魅力的か。


 学内の友人に聞いてみると、顔の良さでは高彦君の方がモテている感じがする。

 

 しかし、私は知っている。勇太郎君は接してみて初めて魅力が分かるタイプだ。


 それに、イケメンかどうかの判断も微々たる差でしかない。


 勇太郎君だって十分なイケメンさんだし、私はどちらかというと安心感を覚える勇太郎君の方が好みだった。


 学内には彼を狙っている女子学生も大勢いる。


 こうやって考えると高彦君が好きだった理由が時間と共に思い出せなくなってくる。


 彼の言うとおり、私は高彦君を好きになろうと努力はすれども、それが本当の好きの感情には昇華しなかったのだろうと思う。


 高彦君だって、きっと彼なりに私と楽しく過ごすための努力をしてくれていたんだと思う。


 だけど私はそれについて行けてないことをハッキリ彼に言わなかった。言えなかった。


 そう考えるとやっぱり私の方に責任があるのだと思う。


 お互いがお互いに、向いている方向が違っていた。


 努力はしていた。でも、どちらも歩み寄ろうとはしなかった。


 いや、歩み寄るという意味では、高彦君の中ではしてくれていたのだ。


 歩み寄らなかったのは、私の方だった。


 私は卑怯だ。感じていた不満を言葉にすることもなく、察してくれた勇太郎君の方へ簡単になびいてしまった。


 それでも……もう高彦君と一緒には歩けない。


 自分の気持ちに気がついてしまったから。


 この一年の歩みで、高彦君を好きな気持ちが本当の好きかどうかが分からなくなってしまったから。


 勇太郎君のことが、どうしようもなく好きになってしまったから。


 好きという言葉を心の中で向けるだけで、高彦君とは明らかに違う温かさを感じる。


 これが本当の好きの気持ちなんだと、気がついてしまった。


 セックスだけじゃない。


 隣を歩いて、私の気持ちを全部分かってくれた彼に、私はもう夢中になってしまった。


「ふぅ……大丈夫かい佳純かすみちゃん」

「はぁ……はぁ……はぁ……うん。頭がボーッとして力が入らないや……ちょっと限界かも」

「ごめんよ。嬉しくて張り切り過ぎちゃった」


 あまりにも強すぎた快感は私の思考を鈍らせる。

 心地よい脱力感が全身を覆い、ベッドから起き上がることすら困難だった。


 勇太郎君は私に断りを入れて洗面所からタオルを持ってきて私の汗を拭いてくれる。


「汗流そうか」

「うん。先にお風呂使って。まだちょっと動けそうもないから……」

「じゃあ一緒に入ろうか。よっとっ」

「ひゃんっ」


 勇太郎君の腕が肩と膝裏を抱え、私を簡単に持ち上げる。


 その逞しさに再び身体が熱くなってしまうのを押さえられなかった。


 男の人の力強さが心地よく心臓を高鳴らせる。


「わ、わたし、重くない?」

「ん~ちょうど良いかな」

「そ、そこは重くないって言って欲しかったかも」

「いやぁ、そうは言ってもここに心地良い重量感が」


 そう言って身体を揺すり始めた勇太郎君。

 それに伴って胸に付いた脂肪の塊がたぷたぷと揺れる。


「やぁ、気にしてるのにぃ」

「男にとってはロマンの塊なのだよ」


 私の身体は軽石のようにたやすく勇太郎君にもてあそばれ、心地よい意地悪が私を温かくしてくれた。


 こんなやり取りすら嬉しくなる。

 高彦君はシャワーも浴びずに寝てしまうことが多く、私はいつも一人で身体を洗っていた。


「ごめん、ちょっと調子に乗っちゃった。全然重たくないよ。こう言う時のために鍛えてきたんだから」


 お風呂場に入った勇太郎君はゆっくりと私を下ろして肩を抱く。


 まだ力の入らない私を支えながら手際よくお風呂の準備を進めていく気遣いが嬉しかった。


 風呂椅子に座らされ、石けんを泡立てて身体を洗ってくれる。


「ごめん、全部やらせちゃって」

「なんのなんの。むしろ役得って奴だよ」


 まるで全身をマッサージするかのようにナイロンタオルで全身が綺麗になっていく。


 血流が良くなるのが分かるくらい心地よい圧力で身体に押しつけられたタオルが全身を隅々まで洗ってくれた。


 シャワーで石けんを流し終わる頃にはお風呂の湯も溜まり、私は勇太郎君の腕に抱かれて温まるのだった。

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