第28話 もしも相性の良い女がいたのなら
話が終われば後は普通だ。この性癖の事を除けば俺たちは良き友人である。
悪友とも言うが、適当な談義に花を咲かせながら駅に向かって歩いていった。
とはいえ、やはり話題の中心はこいつの性癖のお悩みに関する事にならざるを得ない。
「ある意味、お前のことを世界で一番愛して、絶対に心変わりしないけど、他の男に寝取られることに興奮を覚える女が恋人になれば万事解決ってことになるんだろうな」
「ははは、そんな女がいてくれたら良いんだろうけどな……。奇跡に近いレベルだと思うよ」
「読み物で知ったんだが、本来は戻ってきた恋人にどういう風に寝取られたか報告セックスされるのが一番興奮するってのは本当か?」
「あ、ああ。俺は実際に体験したことはないが、そうなったら最高だろうな……。愛する女が他の男とのセックス体験を赤裸々に語りながら……たまんねぇぜ」
「お前本当に極まってるな……」
俺は苦笑するしかなかった。そんな奇跡みたいな女が実際にいれば万々歳だが、まあほぼ不可能だろう。
「だがよ、それもやり方次第と思うぜ?」
「やり方次第? どういう事だ?」
「お互いを愛しているからこそ、ネトラセっていうのは成立するもんじゃないのか? 互いの利益が一致して、お互いのことを本当の意味で愛しているからこそ、他の男に抱かれても戻ってこれる」
「な、なるほど。それは確かに」
「それは、お前が
まあ
「お前は自分の欲望の事しか頭になく、
「俺と
「ああ。まあ、本来はネトラセなんてやるべきじゃない。それは他者の不幸の上に成り立つ快楽だと俺は思うよ」
「そうだな。普通は不幸になる未来しかない」
「でも、もしもまだ見ぬその女性が、お前の事を本当の意味で理解してネトラセに乗っかってくれるか、もしくはネトラセの願望を有していながら、それでも世界で一番お前を愛し続けられる人であるなら、お前の性癖は初めて肯定されることになる」
「ははは、夢のような話だな」
「まあ、事実上不可能なのは間違いない。だから、今回のことを最後に、次にできる恋人には誠心誠意向き合うように努力してみたら良いんじゃないか」
「そうだな。今回のことで学ばせてもらったよ」
「とはいえ、俺だって自分じゃどうしようもない理由でフラれちまった男だ。お前に偉そうに説教できる立場なんかじゃ、本来はない」
「"アイツ"か。俺に言わせれば、アレは勇太郎に不満があるって感じじゃなかったぞ。自分に自信が無いから離れたってんだろ? それだって、ほんの少しの意識の違いでしかないんじゃないか?」
「そうかもしれない。彼女は、俺といることが辛いと言った。自分が惨めで仕方ないとも。だから俺は彼女の気持ちを汲んで追いかけるような事はしなかった……今でも、本当はどうするのが正解だったのか、分からないままだ」
「なんなら子飼いの探偵に調べさせようか。今まではお前の気持ちを汲んで敢えて動かなかったが」
「よせよせ。彼女のことだ。きっと俺なんかよりずっと良い奴捕まえて幸せになってるよ」
「そうかなぁ。あんだけお前にベタ惚れだったし、お前ほどアイツとウマが合う男なんざそうそういないだろう」
「お前俺を買いかぶりすぎだぞ。ま、とにかく、今は
俺は高彦と雑談をしながら適当な所で別れた。
「じゃあまたな」
「おう」
俺は高彦と反対方向に向かって歩き出し、早速
――『もしもし……』
「やあ
――『うん……また、お願いできないかな?』
「実はそのことで話があるんだ。今から会えないかな?」
――『お願いします。私の家まで来て貰えませんか? 直接お話ししたいです』
「分かった。今から会える?」
――『はい、待ってます。あ、出来れば17時以降にして貰えると助かります』
「大丈夫。今高彦と会ってたんだけど、二回目の寝取らせについて聞かされたよ。
――『あはは……もう言っちゃったんだ。えっと、具体的に言うと、私、もう高彦君とお付き合いするのは無理そうです。その事を含めて相談させてください』
「分かった。17時過ぎにそっちに到着するようにするね」
――『お願いします』
……と、こんな感じだ。
図らずも高彦の言ったことが現実になった訳だが、俺はそのことを敢えて黙っていることにした。
◇◇◇
約束の時間までまだ数時間ある。
俺は時間を潰すために駅前の書店に足を運ぶことにした。
ここで、ほんの少しだけ先の未来で重要な意味を持つことになる出会いの話をしておこうと思う。
出会いと言っても、俺は顔も見ていないし、声だけ認識しただけで、今日を境にそんな出来事のことは誰にも話さずに忘れてしまう。
だけど俺に……いや、俺達にとって重要な意味を持つ人物がその書店にいたのだ。
「寝取られモノの同人誌はどこですか⁉ 私、探しておりますのっ!」
「で、ですからお客様、当店では同人誌の扱いはございませんので、専門店でお求めください」
(なんだなんだ? 大声で凄い事いってる人がいるな)
数時間の暇つぶしの後、そろそろ佳純ちゃんの元へ向かおうかと言うとき、レジの前で騒いでいる女の声がした。
だけどその時の俺は既に佳純ちゃんの方へ意識が向かっており、大して重要な事ではないと判断してその場を後にした。
絶対ヤバい人種なので関わりたくないというのもあった。
『彼女』とは、後に重要な出会いをすることになるのだが、それを語るのはしばらく後になるだろう。
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