第21話 佳純の真意
高彦との関係で、分かったことがある。いや、今までずっと気持ちに蓋をしてきて、見ないようにしていた。
では何故高彦のもとに戻ってきたのか。
自分は本当に高彦の事が好きだったのか?
優しいし、自分のことを好きでいてくれることは嬉しい。でも、寄り添ってはくれなかった。
心がすれ違い続けて、その不満のストレスは後戻りできないレベルにまで達してしまった。
そして、勇太郎との1ヶ月で、初めて男という生き物を比較する機会を得たことで、それをハッキリと自覚してしまったのだ。
一度気が付いてしまった不満、味わってしまった圧倒的充足感。
しかしそれでも、そこで勇太郎を選び、高彦と別れるという選択肢を、
「はぁ……私、最低だ……」
シャワーを浴びながら罪悪感に独りごちた。
本当はまだ始まっていない生理が始まったと、嘘をついて高彦とのセックスを拒んでしまった。
アレを味わってしまった以上、もう高彦とのセックスで満足することは不可能だろう。
これから努力するとは言って貰えたが、その努力が実るまでの間、また痛い思いをしなければならないのかと思うと、やはり踏み出せなくなった。
確かにあの日、高彦に熱烈に求められてするセックスは、今まで感じた事がないくらい気持ちよかった。
しかし……。
(勇太郎君とは、もっと)
そんな比較する思いが去来し、どうしても集中することができなかった。
幸せは感じる。快感も感じる。しかし、この1ヶ月で紡ぎ合ってきた彼との絆、いや、正確に言えば、
心のどこかにぽっかりと穴が空き、高彦がどれだけ埋めようとしても、広がりすぎた空虚が埋まることはもうない。
高彦の事は好きだと思う。それは多分間違いないと思っている。
いや、思っていた。
これまで一度も不満を感じたことはなかった筈なのに、勇太郎という比較対象を得たことで、そこに気が付いてしまった。
勇太郎に感じるトキめきは、それ以上の幸福感を
(あんなに優しくて気持ちの良いセックスは初めてだった。セックスって、あんなに気持ち良かったんだ……)
セックスのことだけではない。勇太郎は優しかった。
常に自分を気遣い、エスコートし、一緒にデートを楽しむための努力を沢山してくれた。
自分のためにあそこまで尽くしてくれるデートを、
思い返してみれば、高彦とのデートは、いつも高彦のやりたいことに付き合うのが日常だった。
それも楽しくないわけではない。好きな人の好きなものを好きになるのは、楽しいと思えたからだ。
でも思い返してみると、高彦は自分の好きなものは楽しんでも、私の好きなものを提供してくれたことはあっただろうか。
そこにも
今まで高彦から与えられたもので、自分が好きなもの、望んでいるものを与えられたことがほとんどなかったことに。
綺麗な服や化粧品、アクセサリーをプレゼントしてくれたのは嬉しい。
だがそれは『高彦の好みに合わせるため』のプレゼントだった。
本当はミニスカートは苦手だが、高彦がプレゼントしてくれたものを無碍にするのは悪いので、恥ずかしいのを我慢して着用していた。
でも勇太郎は
比較対象を得たが故に、気が付いていなかった、見ないようにしていた不満に気が付いてしまった。
喜びを与えようとしてくれるという点においては同じ。
しかし、それは自分を充足させるためか、相手を喜ばせる為かという絶対的な違いがあったことに、
高彦とて、
大切にしていたつもりだった。彼女を満たしたい一心で、様々なものを与えていた。
たまたまそれが彼女がまったく望んでいないものばかりだったというだけ。
自分は、勇太郎に心変わりするべきなのか、それとも、自分を好きだと言ってくれる高彦と歩み寄るべきなのか。
客観的に見るなら、相手に判断を委ねすぎていて自分の意思で決めていないと言える。
それは優柔不断というものだが、
繰り返し、
自分は高彦の事が好きだったのか?
勇太郎という圧倒的に自分に良くしてくれる上位存在に出会ってしまった以上、どうして今までそれを好きだと思い込んでいたのかを考えなければならなかった。
男女交際が初めてだった
それは、奇しくも、彼女の自己評価が極端に低いことと、心の壁が厚いが故に男が近寄ってこられなかった。
その壁をいともたやすくぶち破って踏み込んできたのが、偶々高彦だけだったというだけ。
本物のクズ男に引っかかったとしても、
もしもネトラセの相手に勇太郎がいなければ、
それは高彦にとっても最大の不幸。
つまり創作物ではないネトラセは確実に不幸しか生み出さないのだ。
(高彦くんのセックスは、腰を振って終わり。痛かった。気持ち良いって思えることなんて、ほとんどなかった)
言うなれば、それは
高彦は学生の身にして幾つもの企業をコンサルティングして成功に導くやり手である。
収入は普通のサラリーマンが稼ぐ月収を優に十倍は超えるほど得ている。
家賃桁違いの高級マンションに自腹で住まい、3桁万円の買い物を即決で購入できる資金力もある。
高身長であり、甘いマスクと筋肉質な体。
スポーツ万能で、女が惚れない要素がどこにもない完璧人間。
これまで女に不自由したことは一度もない。
方向はズレていても、誰かを思いやる気持ちはある。
そう、方向がズレているだけなのだ。
彼にとって不幸なのは、佳純を含めたこれまで誰一人として、高彦のそういった欠点を指摘してくれる人は現われなかったこと。
高彦は、誰もが羨むあらゆるものを手にしながら、女というものに満たされた事が一度もなかった。
だからこそ、今までになかったタイプの佳純を大切にしたかった。
尽くしてきた。
尽くして尽くして尽くして……その方向性が佳純の望んでいるものではない事に、致命的に気が付いていなかった。
気が付くことができなかった。
そしてセックス。
高彦はセックスのセンスが絶望的に悪かった。
それを指摘してくれる者が、これまで一人もいなかった。
勇太郎によって、高彦は人生で初めて、自分にセックスのセンスがないことを知ったのである。
(やっぱり私、最低だ……高彦君のところに戻っていながら、思い出すのは勇太郎君のことばっかりだった)
つい先ほどの行為も高彦が目の前にいるにも拘らず、勇太郎の優しい瞳を思い出して膣を濡らしてモジモジとしていた。
高彦の視点に立てば、それはやっぱり自分といることに幸せを感じてくれているんだ、と見えたであろう。
だが事実は真逆だった。
(もう一度会いたい。もう一度味わいたい)
一般的な感覚から言えば、パートナー以外とのセックスを望む高彦と一緒にいることは、その一般的な感覚を持って生きている
高彦と別れ、勇太郎を選んだ方が、少なくとも幸せになれる条件は整う。
しかし、高彦を切り捨てる決断のできない
だからこそ、もう一度勇太郎との時間が欲しい。
あの充足感を味わいたい。
決断する決め手が欲しい。
そう思って、もう一度寝取らせを提案したのである。
「勇太郎君……、勇太郎君……ッ」
一年間にわたる身体の記憶を、たった一回で完全に上書きされ、未だ色濃く残っている勇太郎の感触を思い出し、それだけで溢れてくる膣液のヌメリを滑らせて指を入れる。
あれほど心も身体も満たされたセックスを経験したのは初めてだった。
「勇太郎くん……会いたいよ……もう一度、私を抱いて欲しい……」
処女を失ってから今日まで、高彦では得られなかった充足感を圧倒的に埋めてくれた勇太郎のぬくもりを求めて、寂しさを指で埋めるように自慰を繰り返す。
しかし、それは空振りに終わる。
やはり本当の意味でそれを満たしてくれるのは、勇太郎の優しいセックスに他ならないからだ。
(ごめんね高彦君……ごめんね、勇太郎君……)
意志が弱いが故に、二人の男の間で揺れ動く
どちらが
言うなればそれは――
勇太郎への『好き』が【本物】で……。
高彦への『好き』が単なる【執着】であること。
それに気が付けば
それに加えて、他力本願で自分本位な意志の弱さを克服しなければ、彼女はまた流されてしまうだろう。
(勇太郎君は、こんな女、嫌いだよね……? でも、ごめんなさい……好き……好きッ、勇太郎君……私を、私を奪い取って欲しい……ッ)
それに加えて、
ここを成長させなければ、どちらにとっても未来は明るくはならないだろう。
しかし、
その結果が、二回目の寝取らせなのであった。
客観的に見れば、結局は他力本願ではないかと揶揄されるだろう。
しかし、今まで何もしてこなかった
二人の気持ちが通じ合う時がやってくるまで、まだしばらく掛かる。
――――――――
第1章、残り3話。
明日、3本更新で一気にクライマックスです。
一本目は6:05 二本目は7:05
そして第1章最後の話は17:05に投稿です。
後書き
※お知らせ※
本日より、新作投稿開始します。
【近所に住む美少女百合カップル達が何故か俺を挟もうとしてくる件】
https://kakuyomu.jp/works/16818093089343867471
百合カップルの美少女幼馴染み2人を皮切りに、ひたすら挟まれて女の子とイチャイチャするほのぼのラブストーリー。
「この子達、なんでか俺を挟もうとしてくるんだけどッ⁉」
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