第18話 交錯する想い【side佳純】
勇太郎君を見送り、私は自分の部屋へと戻ってくる。
『キミの幸せを願ってる。高彦と良い関係を続けてくれ』
その言葉は嬉しくもあり、少しだけ寂しくもあった。
昨日のことは、正直記憶が曖昧になってる部分が多い。
あまりにも幸せな感情が溢れてしまい、記憶のほとんどを吹き飛ばしてしまった。
勇太郎君から、何か大事な問いかけをされていたような気がする。
それは今の私にとって凄く大事な、自分がしっかりと考えなきゃいけない何かだったような。
そんな予感。
借りていたレンタカーを返しにその場を去って行く勇太郎君を引き留めて、もう一度あの感覚を味わってみたいと考える。
「ダメダメ。これ以上は勇太郎君に迷惑が掛かっちゃう」
高彦君は、これで満足してくれるだろうか。
いっそのこと、私が寝取らせを楽しめるように変われば……。
積極的に他人とのセックスを楽しめる女になれば……。
そこまで考えて、やっぱり自分にはできそうもないと首を振る。
……。
(勇太郎君……)
本当は、引き留めて欲しかった。
そんな風に考えてしまう。
『このまま俺と一緒になろうよ』
心のどこかで、そう言ってもらいたいという気持ちと、これで高彦君と分かり合えるかもしれないという気持ち。
二つの感情がぶつかり合い、私の気持ちは徐々に混乱してくる。
セックスだけじゃない。勇太郎君はいつも素敵だった。
優しくて、思いやりがあって、いつも私を気遣ってくれる。
それはきっと、別に私のことが好きだからじゃない。
親友との約束を守るため。そして私を守るため。
二人の関係を正常なものに修正するため。
全部私達二人のためにやってくれたことで、きっと私自身に特別な感情はない。
勇太郎君は優しいから。私みたいなのにも本当の恋人のように接してくれたに違いない。
(勘違いしちゃ、いけないよね)
もしかしたら、勇太郎君にも私への特別な想いがあったのかも、なんて期待している。
私は高彦君の彼女なんだから、そんな事は考えちゃいけない。
(でも、でも……もしも高彦君が次を提案してきたら……?)
もう一度、勇太郎君に……。
そこでふと思い立った。
もう一度、あの感覚を思い出したい。
部屋に戻った私は、鞄にしまい込んだSDカードを取り出し、自分のパソコンのスロットに差しこんで動画ファイルを読み込む。
『高彦君……私、今からセックスするよ。高彦君が好きだよって言ってくれた私の――――、他の男の人の―――――』
「やだっ。私、こんな顔してるの?」
あまりにも恥ずかしくて直視できなかった。
カメラの画角は私を中心に捉えており、私が見たかったものがあまりハッキリとは映っていない。
カメラが揺れて正面から横に移動したときに時折映り込む勇太郎君の顔に注視しながら、改めてあの時感じた事を思い出す。
『ぁあ、奥まで……入っちゃった……高彦くん以外の男の人、全部、受け入れちゃったよ、これでもう、高彦くんだけの
そう、それが本音だった。
恋人以外の誰かを受け入れてしまった自分。
それはきっと普通は許されないことなんじゃないか。
やっぱり恋人以外の誰かに抱かれるパートナーに喜ぶ感覚は理解できそうもない。
そして、そんな事に私を巻き込んだ高彦君が、少しだけ恨めしかった。
「勇太郎君、こんな顔してるんだ。あんなにスマートだったのに、セックスしてる時は余裕なさそう……」
場面は進み、私の快感が徐々に高まっていく場面が映し出される。
正常位から、経験したことのない体位になり、私と勇太郎君の顔が同じ画面に映り込む。
あれだけ私を手のひらで転がしていたように見えた勇太郎君の表情は、私の絶頂に合わせて射精を必死に我慢しているように見える。
男の人は入れると気持ち良い。
それは勇太郎君だって同じはず。
高彦君はいつでも私の気持ちお構いなしに腰を振る。
でも勇太郎君は違った。
私の反応を見ながら強弱を付けたり、痛くなりすぎないように身体をしっかり支えてくれる。
『――――――ッ、――ッ!』
よく見れば勇太郎君の額には玉のような汗がびっしりと溢れ出ていた。
私の身体を抱えながら腰を突き上げるのだって相当大変な筈なのに、カメラを見ている私にはそれに気がつく余裕がない。
この辺りからの記憶は既に曖昧で、どんな事を話したのかハッキリしなかった。
「勇太郎君、勇太郎君……」
時折映り込む勇太郎君の顔を見ながら、あの時感じた興奮を思い出して身体を熱くする。
「勇太郎君……もう一度……」
私は動画を止め、紙袋に入ったワンピースを取り出す。
衣服を脱ぎ散らかし、勇太郎君のぬくもりが残ったプレゼントを抱きしめる。
「はあ、はあ、勇太郎君……♡」
切ない気持ちが溢れて息が漏れる。
オナニーなんて行為としては知っていても、なんとなく罪悪感を感じていた。
だけど、私の身体はかつて無いほど熱くなっていた。
勇太郎君の手、勇太郎君の唇、抱きしめられた時に感じた腕の逞しさ。
私の中に入ってきた彼の熱量。スキン一枚隔てた感触が、もどかしいとすら感じてしまった。
いっその事、外して直接感じてしまいたいとも。
全てが私の身体を熱くする。
「――――――――――――♡」
登り詰めた絶頂と共にやってくる充足感。
そのすぐ後で、そこに勇太郎君のぬくもりがないことにむなしさと寂しさを覚えた。
もう一度味わいたい。あの果てしない絶頂感と、全身を痺れさせるような、息をするのも忘れてしまいそうな幸福感を。
そして彼のぬくもりを……。
「……何考えてるのよ私……」
そこでハッと我に返る。
私は高彦君の彼女なのに……。
このまま勇太郎君を求めてばかりで、本当に良いのだろうか。
確かに高彦君には思うところはある。
今の私は、勇太郎君に言い知れぬ気持ちを抱きつつある。
「でも……私、何も努力してない」
私は、高彦君に好きでいてもらおうとするあまり、あるいは嫌われて傷つきたくないが故に、自分の意見を主張することから逃げていた気がする。
不満を感じていながら、こう言うものだと自分を納得させて言い出せなかったストレスが、確かにあったのだ。
私は、高彦君の気持ちになって考えた事はない。
いつもいつも自分のことばかりだった気がする。
私はスマホを手に取って高彦君をコールする。
『もしもし……
電話の主は、少しだけ声が震えていた。
『終わったのか?』
「うん。ちゃんと、して来たよ……」
『そ、そうか……どうだった?』
「うん。凄かったよ。ちゃんと動画に撮ってあるから」
『……ッ!』
そこには隠しきれない興奮を、高彦君の息遣いから感じ取った。
私は息を吸い込み、少し整えて声を出す。
「明日、会わない? 私と勇太郎君がセックスしてるところ、一緒に見ようよ」
私は、これまでの自分では考えられないくらい勇気を出して決断した。
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