第12話 誰かが言った【男が女に服をプレゼントするのは、脱がせたいからだ】と
1ヶ月後、俺達は順調にデートを重ね、いよいよセックス撮影当日がやってきた。
今日は事前にレンタカーを借りてドライブデートをしており、夏の海を眺めたりドライブ観光スポットを見て回ったりした。
この日に至っては
そして段々と夕日も沈み、いよいよ予約したホテルへと向かい始める時間となる。
彼女の
「ここだ」
「綺麗……凄いホテルだね……」
「ああ。一番良い部屋をとってくれたみたいだよ」
ある意味で、アイツなりの誠意の見せ方なのかもしれないな。
気合いが入っているともとれるけど……。
ホテルに向かうために車を走らせ、入り口から駐車場へと入っていく。
「緊張してる?」
「う、うん……」
「そうだね。俺もだ。なあ
「うん、なに?」
「俺はここでやめてもいいと思ってる」
「え?」
「もう十分だろう。ここから先は俺も引き返せなくなる。やはり自分の彼女を好きでもない男とセックスさせるなんて間違ってるよ。いや、本当に今更だけどさ」
「うん……優しいね、勇太郎くんって」
いや、そうじゃない。俺は単に彼女に最終確認をしているだけだ。
優しさではなく後ろめたさだ。
彼女が嫌々付き合っているわけではないことを認識させたい最終確認。
彼女自身の意思で、俺を受け入れて欲しいという、俺自身の願望だ。
「アイツも性癖はこじらせてるし、少々頭の良くないところはあるし、デリカシーがなくてやっかいだ。けど根は良い奴だし、これからゆっくり説得すれば、思い直してくれると思う。まあ性癖を満足させるために、エッチな動画くらいは許容してもらうことになるかもしれないけどね」
「あはは……そう、かもね……」
実際、あいつの女性に対するデリカシーの無さはちょっと問題にしないといけないレベルかもしれない。
だが本人の人格は比較的まともだと思うから、酷い奴ではないと信じたい。
言葉ではやめておこうと言いながら、期待している言葉はその真逆。
浅ましい根性だが、俺も彼女との時間を諦めたいわけじゃない。
期待と不安が入り交じるなか、喉がカラカラに乾いているのを自覚しながら、彼女の答えを待つ。
「ううん。大丈夫。ここまでしてくれたんだもの。やっぱりちょっと怖いけど……それでも」
それは、一体どういう真意が込められているのだろうか。
ズキリと心臓が痛んだのを自覚する。
そうまでしてアイツに惚れ込んでいるのか?
他の男に抱かれてでも、喜ばせてあげたいくらい、好きなんだろうか……。
少しだけ恨めしい気持ちになった。
「高彦は果報者だな」
俺はそれ以上彼女の真意を追究することをやめた。
これまで一生懸命に自分を律してきたが、ここに来て綺麗事を抜かす浅ましさが情けなくなったからだ。
理性的な思いと、欲望に従いたい思いが入り交じり、俺自身も何が正しい選択なのか分からなくなってきた。
そうまでして高彦に惚れ込む理由はなんだろう。
本当に分からない。だが、ここまで来たら止まれない。
「じゃあ、行こうか」
「うん、お願いします」
そうして、二人でホテルのチェックインを済ませ、静かな廊下を通って部屋へと入っていく。
自動でスイッチが入る部屋の灯りが妙に艶めかしく感じる。
お互いの心臓の音がうるさく聞こえ始め、俺達は自然と顔を紅潮させていた。
「じゃあ、先にシャワー浴びてくるね……」
「ああ」
……
…
シャワーの水音が扉の向こうから聞こえてくる。
心臓の音が途轍もなくうるさい。
いよいよ俺は彼女とセックスする。
ここに来てそれを自覚し、現実味を帯びた感覚が痛いほど分身を勃起させる。
壁一面に張られた巨大な鏡が興奮を更に強めてくれる。
このホテルは随分と凝った造りをしているらしい。
「いかん……まだ興奮しすぎるのは早いぞ……」
今日に至るまで精の付く食べ物を積極的に取り、早く終わってしまわぬように分身を鍛えてきた。
たった1ヶ月でどれだけ効果が出るか分からないが、禁欲生活も同時に行ったため回数でカバーするしかないかもしれない。
「お待たせ……」
「ああ。じゃあ、俺もシャワー浴びてくるよ」
そして……。
「じゃあいよいよだね」
「う、うん……よろしくお願いします……ッ」
顔を赤らめる
「一つ、お願いがあるんだけど」
「な、なにかな……?」
「今日のデートでプレゼントしたワンピース、着てみてくれないか」
「え……あ、うん。分かった……えっと、着替えるあいだは、後ろを向いてて貰える、かな」
「お、おう……」
シュル……シュル……
バスローブが床に落ちる音。着用する衣服の布地が擦れる音が、妙にリアルで艶めかしい(リアルなんだから当たり前だが)。
そっと目を開けて鏡越しに裸身を眺めたい欲望を必死に押さえ込む。
想像すればするほどに、欲望と興奮が、どんどん高まった。
【男が女に服をプレゼントするのは、脱がせたいからだ】
昔のエラい人は随分と真理をついたことを言ったものだ。
アレはピカソだったか、アインシュタインだったかもしれない。モーツアルトだったような気もする。まあどうでも良い。
胸の空いたドレスを君にプレゼントするのは淫らに脱がせたいからだ、なんて歌ったアーティストもいたな。
元カノのあの子が好きだったバンドだ。一緒にライブを見に行って、夜にはその事で盛り上がって激しく燃え上がったのが懐かしい。
男の心理とは今も昔も変わらないのかもしれん。
「お待たせ……」
「綺麗だ……やっぱり
「あ、ありがとう……」
清楚で可憐。その言葉が良く似合う彼女に着せた、真っ白なワンピース。
俺は今からこのワンピースを脱がせ、その女神のように美しい裸体を好きなだけ堪能できる権利を手に入れた。
股間がズキズキと痛むほど勃起しているのが分かる。
しかし、そうでありながらもチラチラとこちらを見ているのが分かる。
「それじゃぁ、始めようか」
「うん。お願い、します……」
「本当に、良いんだね?」
「はい……。覚悟は出来ています。勇太郎君になら……」
俺はすぐにでも抱き締めたくなる興奮をなんとか律してこれが寝取り動画の撮影であることを思い出す。
目の前にいるのは、初恋の人。
ここはホテルのベッドの上。今、俺は焦がれてやまなかった初恋の人と睦み合う関係になろうとしている。
頬を赤らめ、瞳は潤み、プクッと厚みのあるピンク色の唇が半開きになっている彼女を見つめ、俺は興奮を必死に押さえ込んだ。
彼女は俺の恋人ではない。
むしろ人の恋人。つまり俺は他人のパートナーと性交渉に及ぼうとしているのだ。
ではそれは浮気なのか?
否であった。俺は彼女と付き合っている彼氏公認のもと、この関係を結んでいる。
「それじゃあ、カメラに向かって宣言しようか。今から、誰と、何を、どうするのか」
「はい」
愁いを帯び、少しおびえた表情に覚悟が宿る。
この日のために様々な準備をしてきた俺。
決して心から歓迎していた状況ではなかったが、求めてやまなかった女性と了承の上で睦み合うことができるこの状況に感謝している。
彼女は意を決してベッドの前に設置されている三脚ビデオカメラに向かって宣言をした。
これより始まるのは"寝取らせセックス"。
俺は『寝取る側』。
彼女は『寝取られる側』。
そして親友は『寝取らせる側』。
俺は他人のものになってしまった初恋の人と、彼氏公認の寝取らせセックスに及ぼうとしていた。
本来なら
他人のパートナーを奪う行為。
絶対にやってはいけない事。
この世界でもっともやるべきではない愚かな行為。
だが、俺はそれを望まれている。
彼女が発する言葉が、それを物語っていた。
半笑いでそう宣言する彼女を後ろから抱きしめ、カメラに見せつけるように乳房に手を掛けた。
覚悟を決めたのだろう。
リモコンでビデオカメラの録画ボタンを押して俺達の偽りの時間が真の始まりを告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます