第8話 心の距離は着実に……

――ピコン♪

『昨日のデート、とっても楽しかったです♪ 来週も楽しみにしてますね☆』


 佳純かすみちゃんから送られてきたメールの文面を見て、俺はデートの成功を確信する。


 1回目のデートは大成功。


 俺は引き続き平日は大学の講義。終わったらバイト。それが終わったらジムでシェイプアップと、忙しい日々を送っていた。


 段々と身体が引き締まってきたのを感じる。


 力こぶの充実度が徐々に増してきており、お腹もへこんでシックスパックが形成されつつあった。


 もちろんまだ一時的なものなので、本当に定着するには時間が掛かる。


 筋肉痛が辛いが、トレーナーの指示に従って規則正しい生活を送っているのでここが頑張りどころだ。





 次の週、俺達はメールでやり取りを続け、親密度を徐々に上げながら2回目のデートを迎える。


 今回は水族館に遊びに行った。


「おまたせ勇太郎君、あれ、なんか引き締まったんじゃない?」


「そうかい? 最近ちょっとジム通いしててね」

「そうなんだっ! 鍛えてる男の人って、格好いいね」


 この頃になると佳純かすみちゃんとの心の距離は徐々に近くなり、一緒に歩いたり食事したり、二人きりでいることに緊張を覚えなくなっていた。


 俺たちは高彦と共に大学でも一緒にいることが多いので会話の機会は多いのだ。


 ここでも心の距離を親密にできる機会が多かった。


「入場料、私も出すよ」

 

 佳純かすみちゃんからそんな事を言われた。

 水族館のチケットは予めネットで購入していたこともあり、ゲートを通るだけでよかった。


 しかし彼女が申し訳なさそうにはにかんでいるのを見て、デート代を男に出されっぱなしが居心地が悪いのだと判断した。


「そうかい? じゃあお願いしようかな」

「うん。じゃあ」


 そういって自分の分のチケット代を受け取る。


 男としてはデート代くらいは全額負担することなどまったく厭わないが、佳純かすみちゃん自身がそれでは居心地が悪いのだ。


 ここは佳純かすみちゃんの気持ちを優先させることにした。


 夏の季節なのでイルカショーもやっており、深海生物コーナーを回ってからシャチやイルカ、アザラシなどを見て回った。


 カッパを購入して最前列に並んだ俺たちは、特等席でのショーを楽しんだ。


 佳純かすみちゃんが特に気に入ったのはアザラシで、昔からゴマフアザラシが可愛くて大好きだったらしい。


 お土産に真っ白なゴマフアザラシのぬいぐるみをプレゼントすると、遠慮しながらも大変喜んでくれた。


「ひゃうぅ、か、可愛い……♡ ホントに買ってもらって良いの? 結構高かったよね?」

「値段は気にしなくてもいいよ。喜んでくれればそれでいい。それに、たまに奮発するくらいなら良いだろ?」

「なんだか悪いよ。先週も服もらったし……入場料も割り勘したのに」


「そんなことは関係ないさ。俺だって佳純かすみちゃんとのデートを心から楽しんでるんだ。そのお礼だと思って欲しいかな。それとも、俺とのデートは楽しくないかい?」

「そ、そんなことないっ! すごく楽しいよッ! なんていうか、本当にカップルでデートしてるみたい……」


 普段高彦とはどんなデートをしているのだろうか。


 まあ聞きたくもないし、仮に満足のいくデートが出来ていなかったとしたら、それはそれで彼女の気分転換にもなるだろう。



 次の週……今日は3回目のデートだ。


 この日は少し遠出をしようと思い、レンタカーを借りてサファリパークへ訪れた。


 この日も費用は割り勘だった。 

 その方が佳純かすみちゃん的には気が楽であるようだ。俺はそこに気がついて費用の折半をお願いした。


 園内では間近にベンガル虎が迫ってきた時には本気でビビってる姿が可愛かった。


 レンタカーで車の中で二人きりの空間。


 動物たちを眺めながらおしゃべりを楽しんだ。


 乗馬体験や赤ちゃんライオンの抱っこ撮影会。

 猛獣の餌やり体験など、珍しいイベントが盛りだくさんであった。


 お散歩コースの途中でにわか雨に見舞われ、二人してずぶ濡れになってしまうトラブルもあったが、それも含めて良い思い出になった。


 この頃になると、俺達は自然と手を繋ぐようになっていた。


 彼女の手は柔らかくてスベスベで、とても温かかった。


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