第7話 デートって、こんなに楽しいんだ【side佳純】
【side
あっという間の一日だった。
勇太郎君はとてもスマートに私をエスコートしてくれて、夢中になって楽しんだデートは時間を何倍にも早く感じさせた。
私は、心のどこかでいつの間にか今日という日を楽しみにしていた。
メールのやり取り一つ取っても、その気遣いの上手さが見て取れる。
気が付けば、私はデート当日をとても楽しみにしており、着ていく服やお化粧のことをあれこれ考える夜を過ごすようになっていた。
オシャレにあまり頓着のない私は、勇太郎君はどんな格好なら喜んでくれるのか分からず、結局、高彦君が一番似合うって言ってくれたミニスカートをクローゼットから引っ張り出して着ていった。
正直ミニスカートは苦手だ。肉のつきやすい私は、足を見せるのが恥ずかしくて好きじゃない。
勇太郎君は私の好んでいるものを把握してくれて、私が1日を過ごしやすいように全部計らってくれた。
メールのやり取りの中で自然に引き出されていった会話の中で言った、さり気ない一言を全部覚えており、人生で味わったことのないくらいリラックスしたデートを楽しませてくれた。
特に嬉しかったのが、私がミニスカートで緊張していたことに気が付いて、気遣ってくれたことだ。
それも、私好みのシックな色柄のロングスカートを見繕ってくれて、しかもそれをプレゼントまでしてくれた。
彼のセンスの良さが
私は大層遠慮したけど、私が抵抗なく受け入れられるように、冗談を交えて納得させられてしまった。
凄く、嬉しかった。
思えば、高彦君とのデートはいつも緊張してて、あんまり楽しむ余裕がなかった気がする。
不満なんて感じてたわけじゃない。
それでも、どうしたって比較してしまった。
同じデートで、これだけ違うのだろうかと。
彼氏じゃないから? 多分、違う。
私は、勇太郎君の前だと、限り無く自然体に近い状態でいられるんだ。
家に戻り、勇太郎君にプレゼントしてもらったロングスカートを脱ごうとホックに手を掛ける。
(私の好み、ちゃんと分かってくれた……)
勇太郎君はとてもスマートだった。
自分の好きと、私の好きにちゃんとピントを合わせてくれる。
私を喜ばせるための演技だとしても、本当に嬉しかった。
――♪♪♪
と、デートの余韻に浸っていた意識が現実に引き戻される。
スマホの着信音が鳴り、それが本来の恋人のものである事を知らせていた。
「あ、もしもし?」
『よう、
「う、うん。今帰ってきたところ」
『そうか。じゃあ今度は俺とデートしよう。今から迎えに行くから準備してくれ』
「えっ……い、今から?」
『っていうか、あと五分で着くところまで来てるから』
高彦君はそれだけ言って電話を切ってしまった。
私の心に少しだけチクチクとしたものが沸き起こる。
そうだった。彼はいつもこんな感じだった。
彼氏の都合に合わせて、私が動く。
今までそれが当たり前だったけど、今日の余韻を壊されたような気持ちになった私は、少しだけ高彦君が恨めしかった。
――『着いた』
簡素な一言だけが添えられたメールが届き、私は着替える暇も無くマンションのエレベーターを降りる。
エントランスを出ると、見慣れた高級車がロータリーに駐車しているのが見える。
私はいつもの通り助手席のドアを開き、待っていた高彦君に挨拶をする。
「ごめん、お待たせ」
「おう、じゃあ行こうか」
正直なところ、デートで一日動き回っていて疲れていたのもあってお風呂に入りたかったのだけど、断る事を知らない私は言い出せずにドライブデートについて行く。
「どうだった、今日のデートは……」
探りを入れるような、彼にしては遠慮がちな声で尋ねられ、私は感じた事を正直に伝えた。
「うん、とっても楽しかった。勇太郎君、すごく気を遣ってくれてね」
私は今日あったことを夢中でしゃべった。
それは私が心から感じた楽しい出来事だったから、彼にもそれを共有したかったのだと思う。
そこに何か思惑があったわけじゃない。
純粋に自分が楽しかった事を伝えたかったのだけど、彼の反応を見てハッとなる。
「あ、ごめん。私ばっかりしゃべっちゃって」
「い、いやいや。楽しそうで何よりだよ。それより
高彦君が今日買ってもらったスカートを指さして尋ねる。
「あ、うん。今日勇太郎君に買ってもらったの。私がミニスカート苦手なの分かってくれたみたいで」
「え?
そこまで言ってハッとなった。
彼はなんとも言えない表情でハンドルを握る手を落ち着きなく動かし始める。
少しだけ罪悪感を覚えつつ、勇気を出して今まで言えていなかった事を伝えてみた。
「う、うん。実はそうなんだ。今まで言えなかったんだけど、足を見せるのが苦手で……」
思えば私のコーディネートは全て高彦君に買い与えてもらったものだ。
プレゼントしてくれたものを無碍にはできなかったので今まで我慢していたのだけど、やっぱり足を見せるのは恥ずかしくて怖かった。
「そ、そうだったのか。なんか、今まで我慢させちまったんだな」
「ごめんなさい。プレゼントしてくれたものだったから、頑張って慣れようと思ったんだけど、やっぱりダメで……ごめんなさい」
「い、いや。そういうことなら仕方ないよ。勇太郎には何かお礼しなくっちゃな」
高彦君は、見たことのない半笑いを浮かべていた。
それが何なのかは良くわからなかったけど、何故か現実を思い出した。
そうだった。あと数週間後には、勇太郎君とのセックスが待っているのだった、と。
それを思い浮かべているのだと、そんな気がしていた。
「あ、あの……高彦君」
寝取らせは、やっぱりやめよう……。そう言い出そうとしたが、口はそれ以上動かなかった。
それは勇太郎君が言っていた言葉の通り、ここで私が止めたとして、この先ずっとそれを我慢できるだろうか、と。
そんな風に思ったからだ。
「流石勇太郎だぜ。あいつに頼んで正解だった」
今まで見たことのない彼氏の顔に、少しだけ怖いと思ってしまう。
もしもこれが勇太郎君じゃなかったら……?
そんな事を想像して恐ろしくなった。
「
「え、……? あっ、た、高彦君」
高彦君はいつの間にか車を止めてエンジンを切る。
そして助手席に乗っていた私に身を乗り出して顔を迫ってきた。
「んっ……んんっ」
彼の唇が押しつけられる。
いつものキス。でも何故か、いつもより力強いような気がする。
「ん、んちゅ……ん、ふっ、ちゅ」
なすがままに受け入れ、肩を抱く高彦君の腕を取る。
私は無意識に微かな抵抗を示した。
このままだとセックスに流れ込むような気がしたからだ。
「ん、あ、だ、だめだよ高彦君……」
舌が入り込んで彼の手のひらが胸にさしかかったところで、私は現実に引き戻されてハッとなる。
「勇太郎君と約束したでしょ……? セックスは、ダメ」
「っと、そうだったな。ごめんごめん。いつもの癖でつい、な」
セックスは、正直苦手だった。
それに、お外でエッチな事をするのも怖い。
だけど私はそれを言い出せない。
いつも為すがままに受け入れて、恥ずかしいのと怖いのをひたすら我慢していた。
だけど、今回は違った。勇太郎君との約束があったから。
私はなんとか事態を回避しようと彼との約束を持ち出して高彦君にストップを掛ける。
こんなことに利用してしまうことを申し訳なく思いつつ、私は彼に感謝した。
「ごめんなさい高彦君。私、今日は疲れちゃって……」
「そ、そうか。無理に連れ出して悪かったな。今日はもう帰ろう。うちに泊まっていくか?」
「ううん。提出する課題もあるし、今日はやめとく」
「分かった。じゃあ送ってくよ」
いつもの私なら、そのまま流されてお泊まりに行っていただろう。
私はこの日、初めて高彦君の申し出を真っ直ぐ目を見ながらハッキリと断ったのだった。
――――――――
後書き
ここまでの読了ありがとうございます
新連載、いかがでしたでしょうか?
本日はここまで。明日も4本投稿し、それ以降第1章終了の24話+閑話の26話まで2本ずつ投稿となります。
その日最初の1本は6:05に固定。
もう1本は色んな人に読んでいただきたいので、時間はあえてばらけてあります。
是非通知機能をご利用ください。
面白かった、先が楽しみと感じていただいた方、★★★レビュー、ご意見ご感想お待ちしてます。
面白くなかった人も、足跡だけでも残してくれたら嬉しいです。
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