第6話 最初のデート
時間はあっという間に過ぎ、最初のデートの日がやってきた。
親友から彼女を寝取って欲しいという珍提案を受けた俺は、この一週間で可能な限り
趣味の話題から好きな食べ物まで、とにかく彼女の好みをリサーチした。
友人としての期間が長いのでそれなりに知ってはいるものの、やはり友人の範囲を超えない表面的なものでしかない。
だから映画の好みや食べ物の趣向。
好きな芸能人やら趣味の話など、二人の会話を盛り上げつつ、実際にデートをする際に彼女に喜んでもらうには何が必要かを徹底的に聞き出した。
あくまでも会話の延長でするのがポイントだ。露骨に聞き続けると尋問みたいになってしまうからな。
「あの、お待たせ、勇太郎君……」
鈴の音を転がしたような可憐な声。
振り返るとそこには女神がいた。
清楚な薄紫のシャツとミニスカートを着て、夏らしいレースのカーディガンを着た可憐な女の子。
それは憧れた、かつて恋い焦がれてやまなかった柳沼
「綺麗だ……」
「は、恥ずかしいよ……そんなにストレートに褒めないで……」
「いやぁ、ご、ごめん……女の子を褒める言葉ってあんまりバリエーション持ってなくてさ……」
「あはは……そっか。でも、持って回った言い方されるより、素直に嬉しいかも。ありがとう勇太郎君」
「どういたしまして。そ、それじゃあ行こうか」
「う、うん……」
ここはできるだけエスコートしてスマートな男を演じなければ。
スマートやらエスコートなんて俺みたいなのとはもっとも縁遠い言葉であるが、彼女を寝取るという役目を仰せつかった以上、できない事でもできるようにするのだ。
「一応デートプランは考えてきたけど、どこか行きたいところあったらリクエストしてね」
「ありがとう。まずは、お任せしてもいいかな」
「OK。とは言っても、俺もあんまりデートというものに慣れているわけじゃないから、あんまり凝ったプランは考えられてないんだけどね」
「あはは。全然いいよ。一杯考えてくれただけで、凄く嬉しい」
その言葉は何よりの労いになる。
まだ始まったばかりだというのに舞い上がってしまいそうだ。
「よし、じゃあまずはウィンドウショッピングから行こう。見て回るだけでも楽しいよ」
「うん、じゃあ行こう」
ハッキリ言って女の子とのデートで何をしたら喜んで貰えるかの正解なんてものは存在しないだろう。
この一週間で気が付いたのは、彼女がとても家庭的で派手なことが苦手であること。
恐らくは元々外に出かけるのは得意ではないのだろう。
こちらも学生の身なので予算にも限りがある。
本当はケチ臭いことは言わず糸目を付けないで行きたいところだが、無い袖は振れぬのが現実だ。
気持ちがあっても先立つものが物理的にないのではどうしようもない。
◇◇◇
1日目のデートは順調に進んでいった。
ウィンドウショッピングをしながら色んな店を見て回り、リサーチしておいたスイーツのお店で舌鼓を打つ。
「そうそう
「うん、なに?」
「俺とのデートでは、無理してミニスカート履いてくれなくても大丈夫だからね」
「え?」
シロップのたっぷり掛かったパンケーキを切っている彼女に、先ほどから気になっていた事を問いかけた。
「実はミニスカート苦手なんじゃない? いや、本当によく似合ってるとは思うけど、いつも凄く恥ずかしそうだったから。もしかして高彦の好みに合わせて無理してるんじゃないか?」
最初は
「う、うん。実は、足を見せるの苦手で……あんまり自信が無いし、お肉が付きやすくて恥ずかしくて。でも高彦君が好きだから」
「うん。好みに合わせてくれるのは、彼氏にとっては凄く嬉しいことだと思うけど、俺の場合はあまり無理はしないで欲しいかな。恥ずかしくてデートに集中できないんじゃ楽しんで貰えないからね」
むっちり太もものミニスカートはハッキリいって眼福のひと言だが、本人が嫌がってるのに履かせ続けるのはNGだ。
高彦の奴、そういう所には気が付かないのだろうか?
「あ、ありがとう……正直、ちょっと気が楽になるよ」
「ロングスカートでも見に行こうか。それともパンツスタイルの方が楽かな?」
「勇太郎君は、どっちが好み?」
「うーん、正直俺はスカートの方が好きだけど、
「ありがとう。そうだね。私もロングスカートの方が好き」
実際全体の雰囲気は清楚だし、ミニスカートではっちゃけるよりは、ロングでシックに落ち着いた雰囲気のコーディネートの方がしっくり来るのは事実だ。
「じゃあ今から買いに行こうか」
「え?」
「せっかくのデートなんだから、リラックスして臨んで欲しいしね。ついでに落ち着く服をチョイスしに行こうよ」
「ウン……そう、だね。そうしよう!」
「よし、次の行き先は決まりだね」
スイーツのお店を出て、ショッピングモールへと戻っていく。
ということで、それなりにリーズナブルでオシャレなお店をチョイスし、ロングスカートを見繕った。
「可愛いよ。やっぱり
「ありがとう勇太郎君」
「ついでにこのまま着ていこう。その方が気が楽でしょ?」
「いいの? じゃあそうしようかな」
「俺の選んだ奴だけど、大丈夫かい?」
「うん、大きさも丁度良いし、色柄も落ち着いてて好きだよ」
「じゃあこいつは俺からプレゼントさせてくれない?」
「え、そんなっ、悪いよッ」
「頼むよ。ここは俺の顔を立ててさ。無理にとはいわないけど、だってほら」
俺は小声で彼女に語りかける。
「これは寝取りだから。高彦のとは真逆の趣味に染まるのがセオリーなのさ☆」
「え、あ、そっか、そうなんだね!」
冗談だと分かって気が楽になったのか、俺からのプレゼントを受け取ってくれた
映画を見て、二人で感動して、ペットショップで子犬や子猫と戯れて。
楽しい時間はあっという間に終わり、家の前まで送っていき、その日のデートは終わりを告げる。
「ありがとう……今日は楽しかった」
「ああ。俺もだよ。最高の時間だった。じゃあ、また連絡するから」
「う、うん……それじゃあ、お休みなさい」
結局、デートを楽しんではいたが、手を繋いだり、ましてやキスをしたりなど、恋人らしいことをしたわけじゃない。
まだまだ、俺達の心の壁には隔たりがある。
慌てずゆっくりと、彼女の心を解きほぐしていこう。
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