第4話 徹底した準備

 高彦が寝取り気分を盛り上げるための熟成期間。

 それを最大限に効果的にするために、インターバルで何をするのかを提案した。


 まずは俺と佳純かすみちゃんが親密になること。


 これは、好きでもない男に抱かれなきゃいけない佳純かすみちゃんの精神的負担を少しでも軽くしたいという思いが第一にある。 


 言い方は悪いが身体を重ね合うのを平然と許容できるくらいの信頼関係は結んでおきたい。


 下心がないとは言わない。しかし、傷付いて欲しくないのは心からの本音だ。


 セックスにおける最大の負担は一体なんだ?


 それは恋人ではない俺との距離感にあると言える。


 俺だって好きでもない女性とセックスしたいとは思わない。


 愛のないセックスは嫌いなのだ。


 まずは心の距離を縮めるために積極的にお互いを知る必要がある。


 そのためには絶妙なバランス調整が必要だ。

 佳純かすみちゃんが俺ごときを好きになると自惚うぬぼれるつもりはないが、これだけの事をされて他の男に心が動く事も十分にあり得る。


 だから万が一の事態になったとき、彼女の受け皿になる男が必要だ。


 これは俺の願望でもあるが、積極的に寝取りにいかないように配慮する必要がある。


 俺はあくまで紳士的に、彼女にとって安心できる男であることをもっと知ってもらう必要がある。


 そのためにいつも使っているSNSで新しいグループを作り、そこで二人の仲を深めるやり取りをしていく。


「まずは盛り上げの準備期間だ。俺も多少の知識はあるが、寝取らせというのはカップル公認のものだろう。だからやりとりは全てオープンにする」


 二人のやり取りは全て高彦が監視できる状況にするため、三人でトークグループを組んだ。


 デートの約束から日常の会話まで。

 このグループで行われているやり取りには高彦は口出ししないことを条件にして管理体制を整えた。


 どうせなら最高の素材を撮影しよう。


 そのために擬似的に彼女が寝取られていく状況をメッセージアプリで監視して気分を盛り上げて欲しい。


 そういう趣旨で提案している。


 繰り返しになるが、これには佳純かすみちゃん自身も俺とのセックスに少しでも抵抗が少なくなるように配慮した結果だ。


 まずは1ヶ月で俺の為人ひととなりを知ってもらい、心の距離を縮める。


 デートを重ね、親密になって俺を身体を重ねても良い相手として認識してもらう。


 最後の一日でホテルにお泊まりしてセックスを撮影する。


 そのあいだ俺達は出来るだけ親密にならなければならない。


 つまり彼女に知ってもらうのは友人としての俺ではなく、男としての俺なのだ。


 纏めると、俺が提示した条件は以下の通りになる。


 ①撮影実行日は今日から1ヶ月後

 ②場所は都心にあるオシャレで有名なホテル。費用は高彦持ち。

 ③メッセージアプリでグループを組んで恋人として二人はやり取りをする

 ④その際に高彦はその会話に口を挟まない。見ているだけ。

 ⑤週に一回、実際にデートをする。この時は性的な接触は一切しないことを約束する。ただし、二人で盛り上がり、合意の上でならキスまでは許容してもらう。(ここは佳純かすみちゃんも承諾してくれた)

 ⑥撮影までの1ヶ月間、高彦と佳純かすみちゃんはセックスをしないこと。それ以外は普通の恋人としていつも通りに過ごす。




「そうそう、さっきも聞いたけどそこが分からんのだが……なんで俺達がセックスしちゃいけないんだ?」

「言っただろ? 気分を盛り上げるためだよ。佳純かすみちゃんにはこっちに集中して欲しいからね」

「な、なるほど。分かるような分からんような……」


 高彦に分かってもらう必要はない。なぜならこれは建前だ。


 本音はこれからセックスする女の子に、例え親友といえども他の男の手垢を感じたくはない。


 そのための垢落としの期間だ。まあ俺の気分の問題だな。


「うん、私もそれでいい。そういうのは必要だと思う」

「そ、そうか……分かった。佳純かすみがそう言うなら、1ヶ月は我慢するよ」


「ああ。せいぜい禁欲しておくことだ。最高に気持ち良くなりたいんだろ?」

「お、おおそうだな。確かにオナ禁した方が最高の射精ができそうだっ」


 あくまでこいつの頭には寝取り動画でヌクことしかないらしい。


 別にオナニーくらい好きにすれば良いと思うが、どうでも良いので追求はしないでおく。


「まあそれは二人の努力目標でいい。二人の問題だからそこは自分達で決めてくれ。それ以外は普段通りの彼氏彼女を続けてもらって構わない。横入りするのはこっちなんだから恋人とは普通に過ごせば良いさ」


「おう、分かった」


「ああそうそう、佳純かすみちゃんの方から高彦とセックスしたくなったらその限りじゃない。あくまで縛りを設けるのは高彦だけだ」


 本当はそれも嫌なのだが、あくまで佳純かすみちゃんの自由意志は尊重すべきだろう。


「うん、分かった……」


「それから最後に一つ。一番重要な条件を付けさせてもらう」

「お、おう……」



 ⑦期間中に約束を破ったり佳純かすみちゃんを悲しませる行動を取ったら二人は別れてもらうこと


 ある意味で、これは既に佳純かすみちゃんを悲しませるような提案をしている高彦へのペナルティーだ。


 今のところこの寝取らせには佳純かすみちゃんにとってデメリットしかない。


 俺はあえて「高彦と別れて俺と付き合う事」とは言わなかった。


 それを言ってしまえば彼女にとって精神的な負担になると思ったからだ。


 本気の恋慕れんぼを向けた相手と寝取らせセックスなんて彼女にとって危険でしかない。絶対に心が安まらないだろう。


 俺は今でも彼女のことが好きだ。


 好きだからこそ、彼女に余計な負担を掛けて不安にさせたくないのだ。


 だから俺はあくまでフラットな立場でこの提案を受け入れた紳士的な男だと認識してもらわなければならない。


「お、おうっ、もちろんだッ! 俺の性癖は歪んでいるが、佳純かすみは大切な恋人だ。絶対に失いたくないッ。必ず約束は守る」


 だったら己の歪んだ欲望を律しろよな。


 大切な人を失うリスクの大きい提案なぞしなければ良いのに、とは言わなかった。


 話が振り出しに戻るだけだからな。



 その日はメッセージアプリのグループを新たに作成し、最初のデート日だけ決めて解散となった。



 ◇◇◇◇◇


 さて、1ヶ月を準備期間としたが、俺にもやることは沢山ある。


 まずは身体作りだ。器の小さい男の見栄と笑ってくれて構わない。


 一時は諦めたとはいえ、かつて恋した女の子との熱い夜にみっともなくたるんだ身体を見せる訳にはいかない。


 たった1ヶ月しかないのでどれだけの事が出来るか分からんが、少なくとも薄く割れた腹筋くらいは確保したいところだ。


 早速ジムに行き、最短で細マッチョの見栄えするボディを作る為のシェイプアッププランを申し込んだ。


 まあまあの金額を消耗することになったが、最高の夜を演出する投資と思えば安いものである。


 幸いにして元々それなりに筋肉は付いているのに加えて、俺は割と筋肉が付きやすい体質であるからここは問題ないだろう。


 次に食事管理だ。


 筋肉を付けつつ精力を高めなければならない。


 出来るだけ脂肪分が少なく、高タンパク、且つ精の付く食べ物をチョイスしてメニューを組み上げる。


 青魚や牡蠣、ほうれん草など、ネットで情報を集めながら一日の食事メニューを考えた。


 もう一つは資金調達だ。デート代金を高彦の野郎に請求することも考えたが、俺自身が佳純かすみちゃんに心から楽しんで欲しいという思いである以上、他人の金でそれをするのはダメだろう。


 コンビニで無料の求人冊子を手に取り、出来るだけ給料が高くて短期で稼げるバイトを探した。


 早いサイクルで給料が支給されるように、短期のバイトが好ましい。


 そこで俺は週払いが可能になっているバイトを選んだ。


 丁度引っ越し屋の定員に空きがあった。相当にキツいバイトであるが、筋肉も付くし一石二鳥だろう。


 ジムではパンプアップを中心に鍛え、引っ越し屋の体力業務で筋肉を鍛えつつ、余計な肉をそぎ落とす。


 講義が少ない日や休みの平日は積極的に入れるようにした。


 そして次は実務方面だ。

 早速佳純かすみちゃんと組んだグループにメールを入れて挨拶をする。


『なんか変なことになっちゃったけど、取りあえずこれからよろしくね。出来るだけ佳純かすみちゃんが楽しんで貰えるように努力させてもらうから!』


 ちょっとクサいだろうか。文面一つ送るのに十数分悩み、勇気を持って決断し送信ボタンをタップする。


 すると数秒で既読が付き、向こうが文章を入力中である待機画面が表示される。


 ――ピコン


 早速佳純かすみちゃんから返事が返ってきた。

 それだけで何ともいえない昂揚感に包まれてしまう。


『うん。なんていうか、ちょっと緊張しちゃうけど、勇太郎くんを選んで本当に良かったです。色々と迷惑掛けちゃいそうですけど、これからよろしくお願いします』


「んぅう……んんぅうううううっ!!!!」


 変な声が出てしまう。俺は中学生の童貞か?


 ほとんど初恋と言ってもいいくらいの、思春期真っ只中に惚れた女の子と、いびつな形とはいえ親密な関係になれたことに興奮と昂揚を隠しきれないでいる。


 返ってきたメールを眺めながらニヨニヨしている俺はさぞかし不審者のオーラを醸し出していたことだろう。


「よぉおおしっ!! 頑張るぞっ!!」


 周りから奇異と哀れみの目を向けられることも厭わず、俺はテンションマックスで精の付く食材の買い出しに出かけたのだった。


――――――――


 ~後書き

お読みくださりありがとうございます!

初恋の女の子と思いを遂げることができるのか⁉


親友と初恋の人。2人の大切な友人の為に奮闘する主人公の活躍にご期待ください。


夕方の更新は16:05 と 17:05、18:05です

 

 是非とも応援たのんますっ!

★★★レビュー、応援メッセージ、お待ちしております。

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