第3話 全ては彼女の幸せのために
初恋の人にとって、俺はもっとも安心できる男。
そう言われて決心が付き、俺は2人の提案を受け入れることにした。
「そうか! やってくれるか! それならっ――」
「待て待て慌てるな。まずは具体的にどうして欲しいか聞かせてくれ。話を決めるのはそれからだ」
実際には嘘である。
俺はこの千載一遇のチャンスに全力で乗っかることにした。
俺は他人からパートナーを奪って喜ぶ趣味はない。
もしも自分が同じことをされたら、相手の男をブチ殺しても飽き足りないほど憎むだろう。
そして、そんな事で結ばれたカップルが幸せになれるとは到底思えない。
何故なら世の中は因果応報。奪い取れば奪われるのが世の常だ。
だが見たところ、高彦の拗らせ方は相当に末期的だ。
ここで俺が断ったとして、その思いを封印できるとは思えない。
性癖に関してここまで抑えの効かない人間だとは知らなかったぞ。
頭は良いくせに欲望のことになるとこれほどポンコツになるとは。
このままではお得意の押しの強さで他の男のところへ頼みに行きかねない。
そんなことになったら後悔どころの話ではない。
彼女ほどの美少女相手にそんな提案をされて断る男などいないだろう。
たとえ人の彼女になってしまった女性でも、かつて憧れた人が悲しむところを見たくはない。
だったらそういう厄介ごとの矛先は全部自分が受け止めてしまえば良い。
いや違う……。綺麗な言い方は良くない。
偽りでも良いから彼女との関係を結べるこのチャンスを逃す手はなかった。
みすみすそのチャンスを他の男に渡してなるものか。
もっと言うなら、
「具体的には、
俺は
高彦が出した寝取らせの条件。
①
②コンドームは必ず付けること。
③本気にならないこと。
大雑把にはこの三つだった。
奴は俺の気も知らないで自分の欲望をツラツラと並べ立てやがる。
そこに
だが、そこで彼女を本気で寝取ってやろう等と考えるほど倒錯してはいない。
俺は寝取りも寝取られも嫌いだ。ましてや寝取らせなんてのは論外にもほどがある。
さっきも言ったが、創作媒体の趣向として楽しむなら問題はないだろう。
しかし、それを現実に持ち出してしまうとなれば話は別だ。
だが、一応とはいえ当事者全員が合意の上でならどうだろうか。
もはや考えるだけ無駄だろう。
どっちにしろ俺が断ったら高彦は他の男に頼みにいく可能性が極めて高い。
だから倫理観などの細かいことを考えるのはやめ、こちらからもいくつか提案、いや、条件を出すことにして、この提案が他にいかないように取り計らう必要があった。
綺麗事を言うならば、
曲がりなりにも俺のことを最も信頼できる男性と認識して貰えているのであれば、その期待には応えたいと思っている。
「分かった。他ならぬ二人の頼みだ。引き受けよう。このままじゃ高彦はどこの誰とも知れぬ男に
「ありがとう!! ありがとう勇太郎!! じゃあ早速ッ」
「待て待て慌てるな。実行するに当たってこちらもいくつか条件を提示させて欲しい」
早速と言ったあたりで目が血走ってやがった。
こいつどんだけ自分の女を寝取らせたいんだろうか。
「お、おう……無茶な頼みを聞いて貰えるんだ。なんでも言ってくれ」
気軽に「なんでも」なんて言うべきではないが、そこは重要ではないのでスルーしよう。
「まず俺にも色々と準備期間がいる。実行は1ヶ月後とさせてほしい」
「い、1ヶ月?」
「もちろん単にインターバルを設けるわけじゃない。どうせ寝取らせるなら思い切り気分を盛り上げてみないか」
「ど、どういう事だ?」
俺が提案したのは1ヶ月のあいだ、彼女とのエッチをなくして禁欲すること。
週に一回、俺と
勿論そのあいだは互いに決して性的な接触はしない。手を繋ぐこと位は許してもらいたいところだが。
「お、おう……な、なるほど……いやしかしそれでは……本当に情が移ってしまうのでは……単にセックスをする間柄の方が後腐れないじゃないか」
他の男とセックスしろと言っておきながら気にするのはそこなのか?
配慮に欠ける発言をする高彦にため息が漏れる。
「あのなぁ……。
「勇太郎くん……」
「お、おう……それは、確かに……」
大方、知っている人間が出演したエロ動画を見たい、くらいに考えていたのだろうが……これほど性癖を拗らせた人間がその程度で満足するとは思えない。
「お前はズリネタが手に入ればそれで良いかもしれないが、一番大変なのは当の本人の
「お前、本当に良い奴だなっ!! 俺はお前が親友でよかったぞ!!」
「勇太郎くん、ありがとう……本当に、ありがとう。勇太郎くんを選んで、本当に、良かったよ……」
涙目で訴える
この様子を見る限り、相当に悩んでいたことは間違いない。
まったく。大事な彼女を泣くほど悩ませてどうするんだ。
「か、
無茶ばっかり言いやがって。ちょっと本気で寝取ってやろうって気になってくるじゃないか。
「そう思うなら
端的に言って、高彦がこの一回で満足するとは到底思えなかった。
だったら二回目、三回目の寝取らせも全部俺が引き受ければいい。
そうなることを見越しての受け入れでもあったのだ。
「そ、そうだな。そのとおりだ」
「そうだぞ。だいたい、本気になる
俺は友人を諭しつつ、しかし考えが変わらないうちに細かい条件を詰めていく。
なんぼ綺麗事を並べたところで、
だが、
そのせいで高彦との関係が破綻すれば良いと思えるほど、歪んでもいないつもりだし、自分本位にはなれない。
高彦との関係が破綻すれば俺にもチャンスは巡ってくるのかもしれない。
ひょっとしたらそれ自体が
しかし、その場合は俺と高彦との友人関係は破綻するだろう。
俺は高彦にも
このあまりにも身勝手な性癖の持ち主とこのまま恋人関係を継続させて、彼女が不幸になるのはなんとしてでも回避したい。
しかし一方で、
親友の高彦にも幸せであってほしい。それが
まるで真逆のことを言っている自覚はある。
しかし、どれも俺の本音なのだ。だからこそのインターバルだった。
言うなればこれは、俺たち三人の関係をできるだけ拗らせないようにしつつ、この度し難いほどに歪んだ性癖を持った親友にお灸を据える意味も含まれている。
そして何より重要なのは、この一件で大変傷ついているはずの
高彦が寝取り気分を盛り上げるための熟成期間。
俺の意見として言い換えれば、佳純ちゃんが極力傷付かない為の準備期間。
俺は次の話題として、それを最大限に効果的にするために、インターバルで何をするのかを提案した。
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