ファイヤーワークス・りあるでいず
カーテンを勢いよく開けると、陽光に照らされるのどかな田畑が目に入った。窓を開ければ爽やかな風が部屋に吹き込む。
「んん、ん……っ。いい朝だなぁ」
そう呟きながら伸びをして振り返ると、わたし以外の3人が塊になって眠っていた。おーい朝だよ。起きろー。
「んん……おはようございます……」
「んにゃ……すぴー」
「あと5分……ぐぅ」
起きたのはうさぎちゃんだけでした。最高の朝なのに。
「そうは言っても……まだ朝5時半じゃないですか……すぅ」
「あぁうさぎちゃんまで2度寝しちゃった……仕方ない、朝風呂ってやつをしてこよう」
盛岡市滞在2日目。今日はいよいよ、残存する数少ない現実世界の夏祭りだ。
◆◆◆
ひとっ風呂浴びてホカホカ湯気を出しつつ部屋に戻ると、ようやくみんな起床していた。ちなみにレイチェルさんがひとり先客でいたんだけどこの話は割愛ね。
日中は盛岡観光を楽しんで、日も傾いてきたところでお祭りの会場へ移動。浴衣は持ってないからラフな感じの私服で。
辿り着いた川沿いの広場では、道なりに小さな屋台が並んでいた。
「じゃあリアルでも、まずは屋台巡りから始めようか」
「射的、ボールすくい……こちらもこちらで、種類は色々ありますね」
「昨日も射的からスタートしたし、せっかくだから今日も同じでどうよ?」
「いいね♪ れっつごー☆」
温かみのあるランプで照らされ、大きく『射的』と書かれたお店へ。奥にはひな壇にオモチャやお面やお菓子が並べられていて、手前の台には木とブリキで出来た銃が3丁ほど置かれている。店番のおじいちゃんにお金を渡すと、円柱形の小さなコルクを6個もらった。
おじいちゃんに説明してもらいつつコルクを装填。よーく狙いを定めて……発射! ポフッ、となんとも間抜けな音と共に飛んでいったコルク弾は、狙いよりも下に行ってしまった。
「むむ……外れた……」
「放物線を描いているのでしょうか」
「いいよーゆかりんそのまま撃ってってー。法則がきっとあるハズ」
「わたしを犠牲にデータを集めようとしているな? みふゆより先に景品ゲットしてみせるから」
ポフッ。ポフッ。ポフッ。何これ全然当たらないんだけど!? 何もゲットできずに終わってしまった。
「よーしみふゆさんのスナイピングをご覧に入れてさしあげよう」
そう言ってみふゆはカッコよく銃を構え――ガシャガシャガシャとサイボーグ眼を展開! そのままズバッと山なりに飛んだコルク弾がお菓子を撃ち落とした!
「はーっはっはっは! データ通り!」
「いやそれはズルじゃなーい? サイボーグ眼はさぁー」
「当たればいいんだ当たれば! 次お面狙うよ!」
リザルトは6発中5発命中、ゲットした景品は3つ。謎の力で倒れず「あたしのデータにないぞ!?」と叫んだひょっとこお面はわたしがブン捕って装備した。
「楽しかった。シンプルだけど、それがいいね」
「店番の方がいるのも、温かみがありますね。仮想空間では説明ウィンドウと音声ガイドでしたから」
「次はどうしようかな」
「にゃはは、遊ぶのもいいけど……アタシはこれ! 食べたいな!」
しのぶちゃんが指さしたのは『焼きそば』と書かれた屋台。あぁ、そっか。食べ物の屋台って仮想空間には存在できないんだ。
「いただきまーす♪」
「どう?」
「はふ、はふっ、アツアツだ! 野菜おっきい! 美味しい~☆」
「焼きたてですからね。目の前で作っているのを見られるのって、なんだか新鮮です」
「確かにね。それに空の下で立って食べるとかさ、こういうシチュエーションも面白いね」
他にも食べ物の屋台がたくさん並んでいる。せっかくなので全部食べたいよね。そういうわけで焼きそばは1パックを4人で分け合いっこ。お次はチョコバナナ、リンゴ飴、わたあめにエビ風せんべいに……気づいたら両手に串を持ったわんぱくガールと化していた。子供にめっちゃ見られてる。あげないぞ?
さてそろそろ花火も始まる頃合いだし、と川沿いの仮設席へ並んで腰かける。周りを見渡すと、まばらに集まる老若男女と、土手を駆け上がって遊ぶ子供たち。
「やっぱり人の数は仮想空間のほうが圧倒的だねぇ」
「だね。だけどその分なんか時間がゆっくりな気がする」
「確かにそうですね。仮想空間だと、ここまで『間』を感じることは少ない気がします」
「仮想空間だと待ち時間なんてないもんね~。それに屋台の遊びも全然違うね」
「何かさ……『パーティ』と『お祭り』の違い、って感じしない? 伝わる?」
「あぁー、言わんとしてることは分かるかも。仮想空間のはイケイケでエンジョイするパーティだね」
「みなさんは、どちらがお好きですか? 『パーティ』と『お祭り』なら」
「アタシはどっちも好きかな☆ 全然別物だもん、どっちも楽しい!」
「ふふ。わたしもそう思う」
しばらくして、川辺に置かれたスピーカーから『――お待たせしました。間もなく花火の打ち上げです』と年老いた女性の声でアナウンスされる。それを聞いて仮説席にはゆっくりと人が集まってきた。それでも集団同士に適度な隙間が作られるくらいには空いた状態で、会場は静かに明かりが消えていく。
そして、スローテンポなクラシック音楽と共に1発目の花火が打ち上がる。
――ヒュウウウウ、ドッッッッ……。
星々の輝く空へ、黄金色の花が咲く。音楽に合わせて次々と色彩は入れ替わり、消えていく。
「あ……」
わたしは無意識のうちに、持っていたわたあめを空へ掲げていた。力強い光がピンク色の砂糖雲を照らす。あむっ。
「何してんのゆかりん?」
「……食べた。花火を」
「はい?」
「みふゆもやってみる? こうしてさ――」
「――ははぁ、なるほどねん。わたあめに花火が
わたしたちも他のお客さんも、
その色は。その輝きは。その形は。仮想空間の完璧な演算に負けないくらい雄大に夜空で弾けた。
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