イメージング・フローティング

 数週間ぶり、夏休み中2度目の水着姿となった。


 だけど今回は灼熱の太陽には苦しめられない。頭上にはコンクリートの天井がある。そう、ここは室内プールだ。


「いやぁ快適快適。空調の力は偉大だねぇ」

「気温が下がれば、海も楽しいところになったはずなんですけどね」

「にしても、今回もレイチェルさんの力をお借りしちゃってすみません」

「お構いなく。東京郊外であれば混雑度も高くないというのは確かですから」


 大小さまざまな形のプールに集まっている人影は多いけど、高校生4人組がはしゃぐには十分余裕がありそうだ。気になるのは子供連れの家族が多いように見えること。というか冗談抜きにお客さんの半分くらいはチビッ子な気がする。

 理由はたぶん、〈ブレインネット〉の導入手術には年齢制限があるから。わたしも入れたのは中3の冬だったかな。懐かしいなぁ高校受験。


 そんなことを考えているとしのぶちゃんが着替え終わって合流した。ちなみに使用人のレイチェルさんはいちばん最後に更衣室へ入ったはずなのに、気づいたら誰よりも早く出口の向こうで待機していた。見えないところで高速移動しているとしか思えない。


 さてみんな揃ったのでレッツスイム。屋内とはいえけっこう広くて、流れるプールに波の出るプール、ウォータースライダーまで備えている。どれから遊ぼうかな。


「最初どこ行く? わたしウォータースライダー」

「にゃはー、アタシは波がいいな~」

「しゅわしゅわ泡プールというのが気になっています。どんなものなんでしょうか」

「ジャグジー的なのじゃない? みふゆさんは流れるプールに1票」

「見事に全員バラバラですね。ジャンケンしますか?」

「レイチェルさん! レイチェルさんはどれがいいと思いますか!」

「しのぶさんのお望みのままに」

「にゃっはは☆ じゃあ波プールだねっ♪」

「くそー! 使用人だから絶対しのぶちゃんの味方じゃーん! オッケー波行こうか! 波プールはどっちだ~!」

「そっちはウォータースライダーですゆかりさん! 未練が残っちゃってます!」


 バシャーン、バシャーンと波に揺られ。チビッ子に混じってスライダーを何往復もして。気づいたらわたしたちのは浮き輪やフロートボートを抱えていた。もしかしなくてもレイチェルさんが一瞬で用意してくれました。ホントに何者?

 そんなこんなで色々なプールを巡り、流れるプールにみんなで浮かんでいたときのこと。わたしはまだ入ってない気のするプールを見つけた。


「あそこ、何だろ?」

「学校のプールみたいな形ですね。人気も少ないです」

「その通りガチ泳ぎ用の25メートルプールみたいだね。子供連れが多いから人が少ないのもさもありなんって感じかな」

「なるほど。……泳ぐ?」

「えぇ」

「にゃは、アタシは賛成〜」

「わたしも構いませんが……みふゆさん?」

「しかしねぇみふゆさんは泳げないのだから」

「なら、泳げるようになろう」

「え? いやちょっとゆかりん!?」


 浮き輪に乗って流れてきたみふゆをキャッチし、お姫様抱っこっぽい形で25メートルプールへ運搬。みふゆが乗ってた浮き輪はさりげなくレイチェルさんが回収してくれていた。ごめんなさいありがとうございます。


 移動中チビッ子たち数人にガン見されつつ、到着したわたしはとりあえずみふゆごとプールの中へドボン。いちおうプールはわたしの足がつ、着……ギリ着かない。


「ごめん深さのこと何も考えてなかった、みふゆ大丈夫?」

「だいじょばない! 何考えてんのさゆかりん!」


 体勢はお姫様抱っこのまま、必死に掴まるみふゆを抱き返しつつ立ち泳ぎでプールの端へ。その間に他のみんなも追いついてきた。


「にゃはは♪ ゆかぴ大胆〜」

「ふふ、ごめんごめん。でもイナ高で体育に水泳あるんだし、泳げるようになって損はないでしょ?」

「ぐぬぬ、体育補習のみふゆさんには耳が痛い……」

「それに! 泳げるようになったらみんなでできる楽しいこともきっと増えるよっ☆ それじゃうさぴ、アタシたちも入ろ〜」

「意外と深いから、うさぎちゃん気をつけて」


 うさぎちゃんとしのぶちゃんも入水。それじゃあリア活部プレゼンツ・みふゆ水泳特訓大作戦開始!


「作戦っていうけどノープランですよね。最初は何から練習していけばいいのでしょうか」

「うーん、みふゆ、どう?」

「みふゆさん教わる側では……? えーとね、まずは水に浮くことから、だそうよ……えマジで浮き輪なしで?」

「にゃはは! 体を伸ばしてリラックスさせれば余裕だよ!」

「こんな感じです、みふゆさん」

「ひー。うさちゃん手つないでー」

「できてるできてる。それが行けるならもう楽勝だよ。そのままバタ足すれば実質背泳ぎじゃん」

「バタ足かぁ。イナ高だといっつもジタバタになっちゃうんだよねぇ」

「そのままわたしに掴まってください」


 そのまま代わりばんこでみふゆを補助して、足の動きや息継ぎを練習した。時間はかかったけど、ちょっとずつ上達していくみふゆの姿はなんだかこっちも嬉しくなる。やっていたら自然とうさぎちゃんが専属トレーナーと化して、わたしとしのぶちゃんがただのガヤになってたけど。


「にしてもみんなどこで泳ぎを覚えたのさ。こちとら海無し県在住だぞ」

「東京だって実質海無しみたいなもんだよ。全部港だし」

「やはり学校で学んだことが大きいのでしょうか。現実で水泳をしたのは小学生の頃以来でしたが、イナ高で泳げたらこちらでも問題なく泳げました」

「確かに。わたしも現実世界でプールとか全然行った記憶ないなぁ」

「みんなイメトレの達人かよー」

「そういうみふゆさんは仮想空間でも泳がないじゃないですか」


 だって疲れるもーん! 浮かぶだけしてたい! とみふゆがプカプカ浮かぶ。

 だけどもう、浮き輪は必要ないみたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る