オートノマス・アイデンティティー
タワーマンションの最上階という豪華な部屋でわたしたちを待っていたのは、喋る謎のロボット4台だった。
「ええと……何者、このロボットは……?」
「にゃはは、まぁ普通のロボットじゃないのは見ての通りだよ」
『そのとーり! ボクらをそのへんの定型行動しかできないポンコツと一緒にしてもらっちゃあ困るじゃんね!』
『でもガワは市販品と同じだけどね』
「とりあえず、荷物置いていいよ! ソファーとかも自由に座って!」
しのぶちゃんに促され、部屋の隅へ荷物を集める。しかし広いリビングだ。ここだけでわたしの自宅全域と同じくらいの空間がありそう。……ずっと後ろでロボットたちがワチャワチャしているのが気になる。
「それで、この子たちは一体?」
「自己紹介してあげて、みんな」
『自己紹介? ボクたちはただのしがない家事ロボットだよ☆』
『おいおい、さっきのボクのセリフとコンテキストが連結していないじゃんね!』
『まぁまぁ、実際ボクたちのガワが家事ロボットなのは事実じゃないか』
『それぞれの名前はキミから見て右から順にブラボー、チャーリー、アルファ、そしてボクがデルタね。覚えた? 覚えた?』
「家事ロボットって言われても……そんな流暢に喋るAI、見たことないです」
「ホントにAI……? 誰かが遠隔操縦してなきゃおかしいレベルでしょ、これ……」
『まーそう思うのも無理ないね。だってボクたち以外のAIは一定ラインで頭打ちになるよう『わーわーわーわー!』『なんでもなーいなんでもなーい!』』
「……はぁ。一応、AIによる自律稼働をしたロボットですよ。彼らは」
『おーレイチェル。髪にテープまだ付いてるよ』
『しーっ! しーっ! ボクがコッソリ後ろにくっ付けたのに! アルファはいつも喋りすぎなんだよ!』
「……全員、速やかに持ち場に戻りなさい」
『えー』
『せっかくしのぶがはじめて連れてきた友達なのにー』
「命令を聞きなさい! アルファは寝室、ブラボーはキッチン、チャーリー・デルタはベランダ!」
ちぇー、と渋りながら解散するロボットたち。みふゆは「駄々をこねてる……? AIが……?」と口が開きっぱなしだけど、わたしもバイトで
「にゃっはは。騒がしくてごめんね? とにかく、あのロボットたちは特別なの。それじゃ、何かして遊ぼ!」
不思議な気持ちは残ったままだけどしのぶちゃんにそう言われ、わたしとみふゆは持ってきたゲーム類を部屋に並べた。しのぶちゃんとうさぎちゃんがまず選んだのは、トランプ。
「トランプだけでも色々遊び方あるよね」
「だねぇ。ババ抜き、大富豪、7並べ……どうする?」
「じゃあ、ババ抜き!」
ババ抜き。シンプルだけど高度な心理戦が求められるゲームだ。うさぎちゃんがたどたどしい手つきでシャッフルし、各々手札を整理してスタート。ジョーカーはわたしじゃない。誰かな?
「じゃーんけーん、ぽん。そんじゃみふゆさんから時計回りでいいかな?」
「はい。わたしから1枚引いてください」
「まぁ序盤だしジョーカーは気にせずサクサク引いちゃうよん」
わたしの手番が回ってきて、しのぶちゃんから1枚引く。ダイヤの4。ペアが揃ったので捨てる。そうして順調にみんな枚数を減らしていくけど、ババ抜きの本番はここからだ。
「次はわたしか。そろそろ上がる人とか出てきそうだね……しのぶちゃん?」
「ん~~~? にゃ~にぃ~?」
「……なんか、すっごいフニャフニャしてる気がするんだけど」
「にゃはぁ~? そうかにゃ~?」
「さてはジョーカー持ってるな? どれだー? これ?」
「……にゃ」
「あっ反応した! じゃあこっちが安全だ!」
そう言ってカードゲームアニメの主人公並に強気なドロー! 私の手に握られていたのは……。
「……んんっ!?」
「これは……ゆかりさん引きましたね」
「絶対引いたね」
「つ、次はみふゆだね! はい、引いて!」
「ゆかりん……これだよね? ジョーカー?」
「はぁー!? なんのことー!? ってあっ待って…………ふふん」
「何ィ!?」
「みふゆさん……」
「……」
「黙ってしまいました……」
「……」
「サイボーグ眼のせいで表情が見えない……!? で、ではこれにします! ……ひんっ」
「にゃはははは! もしかして全員ジョーカー引いてるの!?」
「……ドウゾ、シノブサン」
「うさぎちゃんがロボットになっちゃった……」
「にゃは、じゃあ~これ! ……ふにゃあ~」
「「嘘でしょ」」
なんということでしょう。わたしたちはこの流れをあと3周繰り返しました。
◆◆◆
その後もボードゲームやらユウテンドーRealでパーティゲームやらで遊んでいたら、大きな窓の外はキレイな夕焼けに変わっていた。ちょうどわたしたちも遊び疲れてお腹がすいてきた頃合いだ。
夜ご飯はみんなで料理する計画。そのためにわたしは家から4人分のエプロンを持ってきた。喜んでもらえて嬉しい。
キッチンに向かうと例のロボットの1台が待ち構えていた。どうやら設備とか調味料の場所を教えてくれるみたい。
『――んで、ここに砂糖と塩。実はラベル逆にしてあるのはレイチェルに内緒ね☆』
「逆なの!?」
『古典的なギャグ展開にならないよう気を付けてねー☆ それで、ここが包丁、木べらとかね。これでひと通り説明したよ』
「あっはい、ありがとうございます……ええと、その、名前……」
『さて問題ボクは誰でしょう?』
「……デルタ、さん?」
『ぶっぶー外れー』
『デルタはボクじゃんね。こっちはブラボー。それでこいつがアルファであいつがチャーリー。見た目で判別できるよ』
「あわわ、全員集合してしまいました」
「……正直全員同じにしか見えない」
『なぬーっ! 全然違うよー!』
『これだから素人はダメだ! もっとよく見ろ!』
「理不尽だ……」
「にゃはは、ほらみんな困らせないで。それじゃー料理はじめよっ」
『調味料の場所ちゃんと覚えたー? もう説明しないよー?』
「うん、一応分かった」
『いよーし☆ それじゃボクたちユウテンドーRealで遊んでるから! モルオカートやろうぜー☆』
『『『ヤッフゥー!』』』
「あなたたちー! 何サボってるんですかー!」
ドドドド……と嵐のように去っていくロボットたちと、遠くから聞こえるレイチェルさんの声。相変わらず謎だ。ロボットがゲームで遊ぶってどういうことだ。何も分からない。
ともかく、冷蔵庫から具材を取り出して調理開始。作るのはカレーライスとポテトサラダ、それとデザート。
だがしかし。開始してものの数分で、とんでもないことになった。
「た、玉ねぎが、うまく切れません」
「うさぎちゃんその左手は危ないね? 猫の手、猫の手!」
「ゆかぴ、じゃがいもの皮剥きたいんだけど……これどうやって使うの……?」
「ピーラーは! こう使うッ!」
「ゆかりん、これ砂糖と塩どっちだろうか……?」
「それは……あのロボットが悪いね!」
おや? みんな料理経験が怪しいぞ? 一応聞いてみた。
「料理はその……くっくんミニに任せきりで」
「にゃはは。アタシも実は、いつもロボットたちに作ってもらってて」
「ゲームの中ででっかい肉焼いたことなら……」
うん、なるほど。
わたしはそっと、リア活部のやりたいことリストに『みんなで料理修行』を追加した。
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