忍 IN TOTEM Arc()
TOTEM TOTEM
いつもより多めの荷物を持って家を出た。お母さんに見送られながらエレベーターで1階まで降り、マンションの出入口まで向かう。そこには既に大きく黒い車が1台停まっていた。
「にゃっほーゆかぴ!」
「おはよーみんな。レイチェルさんも、今日はよろしくお願いします」
「ええ、よろしくお願いします。〈デイヴィー〉、出発してください」
『承知しました。レイチェル様』
車の中にはしのぶちゃん、みふゆ、うさぎちゃんが全員揃っていた。
夏休みに入ってから何度かしのぶちゃん家の車に出動してもらっているけど、今日は特別だ。なんと目的地は他ならぬしのぶちゃんのおうち。1泊2日のお泊り会、それが今回の活動内容。
「確かしのぶさんのおうちは茨城県でしたよね」
「そう☆ 茨城県のつくば市」
「つくばって言うと、学園都市ツクバが有名だよね。人口の7割近くが学生とか中高校生の、名前通りの学園の街だそうよ」
「聞いたことあるかも。近いの?」
「同じ市の中だから近いよ~。感覚的には違う市って感じだけど」
以前にみふゆの家へ遊びに行ってから、また誰かの家に集まりたいという話はしていた。それが夏休みの計画立てでお泊り会と結びついたとき、真っ先に「うちに来て欲しい!」と声を上げたのはしのぶちゃんだった。
詳しいことは知らないけど、しのぶちゃんの家庭はいわゆるお金持ち、だと思う。そんな彼女のおうちっていったいどんなところなんだろう。ワクワクドキドキ半分半分で、車は長いトンネルに入っていった。
「せっかくのお泊り会ってことで、みふゆさんは色々持ってきたのよ。リバーシとかトランプとか、物理ゲーム系ね」
「ありゃみふゆもトランプ持って来てた? わたしも持ってきちゃった。でもクラシック将棋は被ってないでしょ」
「流石ですね。わたしってそういう現実世界で人と遊べるもの、何も持っていなくて」
「まぁ確かにこういうのってほとんど出番ないもんねぇ。ゲームも〈ブレインネット〉で事足りちゃうし」
「アタシの家も、そういうのってユーテンドーRealくらいしかなかったかも。色々持って来てくれてありがとっ☆」
トンネルをしばらく進むと、天井部分が青空に変わった。看板上では茨城県に入ったらしい。地下を抜けた直後はまだ両側の壁が残っていて景色がよく分からなかったけど、しだいに道路の高さが周りと同じになっていく。
「あ、見えてきたよ。あそこらへんがつくば」としのぶちゃんが外を指さす。ドローンの飛び交う広大な農地やソーラーパネルに覆われた山々に囲まれたその都市は、東京とは全くの別物だった。
いちばんの違いは全体的に建物が曲線的なこと。街の半分には半透明のチューブに包まれた線路や、楕円っぽいシルエットのビルが目立つ。東京はもっと直線的でゴチャゴチャしている。真逆な雰囲気だ。そして、街のもう半分は大きな壁で周りが覆われていた。
「スゴい景色ですね……」
「なんだろう、『昔の人が考えた未来の街』って雰囲気がする。あの壁は何なの?」
「あの壁の向こうが、学園都市ツクバ――同じ市内だけど、独立した自治権のある別世界だよ」
「なんか怪しい世界観になっている気がするんだけども……」
「にゃはは、そうだよね☆ 実際このへんってずっと昔から『悪の組織』? とか言われてたくらいだし」
「何だそりゃ」
車は高速を降り、果てしなく続く農地に挟まれた1本道を進んでいく。田んぼの中に人の姿は見当たらない。トラクターも自動運転みたいだ。
つくば市内への入り口には看板が立っていた。かろうじて『いつか来る近未来のまち つくば』と読めるその看板は、もう何十年もそこにあるみたいにボロボロだった。
「さっきゆかりさんが言っていたみたいに、『昔の人が考えた未来の街』って感じですよね」
「言い得て妙だねぇ。形もそうなんだけど、色も関係あるのかな。ほらあそこのロボットとか」
「にゃはぁ、だいぶ真っ赤っかだね~。目玉はクリクリしてて割と可愛いかも?」
「何かのキャラクターみたいですね。東京じゃ見かけないロボットです」
市内を通って、少し離れたところにあるマンションの密集地へ。しのぶちゃんの家は、その中でもいちばん高いタワーマンションらしかった。複数の円柱が重なったような独特なデザインは、やっぱり東京じゃ見かけない形状だ。
マンションの足元から地下の駐車場に入って、車は停まった。だいぶ広々とした駐車場だ。
「なんかもう既にスゴそうな予感」
「今更だけど、ホントにわたしたちお邪魔しちゃっていいの……?」
「もっちろん! みんななら――みんなだから、来て欲しかったの」
わたしたちを乗せたエレベーターはどんどん上へと昇っていく。あの、ちょっと昇りすぎな気が。もう最上階だと思うんですけど。
『40階です。ドアが開きます』
「ってホントに最上階!?」
しのぶちゃんに先導され、高級感のある廊下を通ってひとつのドアの前へ。レイチェルさんが指紋やら虹彩やら色々認証をしていく。流石はタワマン最上階、セキュリティーも普通じゃない。
「ねねね、みんなにひとつだけお願いしていい?」
「えっ、うん。でもテーブルマナーとかはホントに何も分からないよ?」
「にゃはは、そういうことじゃないから大丈夫♪ ――――今から何を見ても、わたしたち4人だけの秘密! ね?」
最後のセキュリティーが解除され、レイチェルさんがドアを開けた。
直後、パンパパンパン! と破裂音がして、レイチェルさんが紙テープまみれになった。
『ようこそー! ってあれれ?』
『おぉい! これレイチェルじゃんね! タイミング間違えただろ!』
『マッズイ☆ 逃げろぉぉぉ☆』
『あー! 敵前逃亡だ! 逃亡兵1名ー!』
そこにいたのは……4台のロボット?
みんなわたしの腰くらいの高さで4本足。タルのようなボディからアームを伸ばして、パーティクラッカーを掴んでいた。バイトで指揮している汎用型ロボットと似たような姿だ。
と、紙束まみれのレイチェルさんがプルプル震えたと思うと、大声で叫んだ。
「……あーなーたーたーち~~~~~~!!!!」
『わー逃げろ逃げろー! 総員撤退ー!』
「……えっと、これは」
「にゃはは~……まぁとりあえず入って入って」
ロボットを追うレイチェルさんに続いて、しのぶちゃんを先頭にわたしたちもドアをくぐる。わたしたちを迎えたのは予想してたよりもずっとキレイで広くて整ったリビングルーム。そこへ先ほどのロボット4台とレイチェルさんが戻ってきた。
「にゃはは、ようこそ。アタシのおうちへ。ほらみんなも挨拶して」
『おっとゴメンゴメン。改めてようこそー! しのぶのお友達ー!』
『しのぶがついに友達を連れて来たー!』
『わーわーぱちぱちー☆』
『皆の衆! もう1個クラッカーあったぞ! 発砲許可? 発砲許可?』
ええと。豪華なお部屋に謎のロボット4台に。どれからリアクションすればいいんだろう。
わたしたちの不思議なお泊り会は、こうして幕を開けた。
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