あきはばら・ぶるーず Arc()

観光都市Akihabara

『――The next station is Akihabara』


 そう電車のアナウンスが響く。数駅前から車内は満員気味だ。少なくない数の人が大きいリュックやキャリーバッグを携えている。

 わたしたち4人も固まって停車を待つ。目の前にいる人は『侍』という文字に手裏剣を持った人の描かれたTシャツを着ていた。うん、たぶんそれ忍者だと思う。


 ドアが開かれると同時、ドッと大移動が起こる。わたしたちもその流れに乗って電車の外へ。いったん落ち着ける場所を探して、駅看板の下で集まった。


「んひー、こんなに人がたくさんいるとは」

「もともと世界有数の観光地な上に、祝日ですからね」

「いや悪いねぇ、個人的なお出かけなのに」

「ぜんぜん! 思い出の地を探すなんて、最高に『リア活』じゃん☆」


 駅看板にはアルファベットで大きくAKIHABARA秋葉原と刻まれている。

 そう、わたしたちが今日訪れたのは秋葉原。国内外から多くの人が訪れる、アニメとゲームと漫画の街。だけどわたしたちのお目当てはそれらじゃない。


「……で、ここからは地道なローラー作戦って感じか」

「ストリートビューでアタリが付けられればよかったんだけどねぇ。なにせまだ小学1年とかそこらへんの記憶なもんで」


 みふゆが小さい頃に行ったらしい思い出の店。それを探すのが今日のミッションだ。分かっていることはたったひとつ、小さな『電子部品屋』だったということだけ。


 さて、改札へと向かう人の列が落ち着いてきたところで、わたしたちも出発。階段を降りるとすぐに『Welcome to Akihabara!!』と書かれた壁に迎えられ、通路を挟むものスゴい量のカプセルトイマシーンが待ち構える。

 そこを抜けて改札を出ると、目の前には超大きな電子看板サイネージ。〈QuShiBoクシーボ〉の広告でよく見かけるゲームのキャラクターが目まぐるしく動き回る。どうやらそこのオフィシャルショップみたい。5階建てのお店が駅を貫いていた。


「スゴい……ここだけで1日過ごせそう」

「ひとつひとつが大規模ですね。ほら、あそこのビルとか、一面まるまる使ってプロジェクションマッピングをしていますよ」

「パッと見た感じ、みふぴが言ってたような電子部品屋さんなんてなさそうだね」

「あたしもビックリだよ。下調べしてきたつもりなんだけど、情報古かったかなぁ」

「それで、右と左、どっちから行こっか~?」

「メインストリートは左っぽいね」


 ということでまずは左――東口から攻めることに。駅を少し離れただけで人混みはあっという間に濃くなってしまった。みんな決まった方向に歩いていて、わたしたちもその流れに誘導されてしまう。

 頭上から声がしたので振り向くと、街頭ビジョンで『バーチャルアイドル』を名乗るキャラクターがウネウネ動きながら喋っていた。反対側ではアイドルが踊っているホログラムがデカデカと上映されている。


「うわわ、流石に人が多いね……ちょっとどこかのお店入ってみる?」

「さんせい~。ちょっと流されちゃってる~」


 そう言ってなんとか人混みの端っこまで脱出したら、目の前には忍装束を来た女の子。うん? フリルが付いてる。手にはチラシ……。


「ニンニンハロー! ウィーアーニンジャメイドカフェ! プリーズカム!」

「忍者の……メイド?」

「ニーハオ。我女騎士女僕……クッコロセ!」

「こっちは騎士メイドさんです!?」


 ビルの壁際にはズラッとメイドさんが並んでいた。普通のメイドさんが希少なレベルで、軍隊メイドやらサイボーグメイドやら魔改造メイドの見本市。上を見ると並んでいた看板は、全部メイドカフェ!?


「うえぇ何これ、みふゆー!」

「ちょっと待って! いま『カフェ』って地図検索しただけでそこら中ピンだらけになった!」

「「「ウェルカムバッ~ク、マイマスター♡」」」

「え!? いやいや入店しないです!」

「みんな~こっちこっち!」


 しのぶちゃんに手を引かれて、交差点の角にいたおまわりさんの背後へ脱出した。流石におまわりさんの前でまで勧誘してくるメイドさんはいない。いかついゴーグル型サイボーグ眼が頼もしい。


「にゃはは、スッゴいたくさんメイドさんいたねー……思ってたのとちょっと違ったけど」

「ね。ざっと見た感じ、お土産屋さんとメイドカフェとアニメショップばっかりだったけど……みふゆ、ホントにここに電子部品屋なんてあるの?」

「あるんだよー。っていうか、秋葉原はずっと昔電気街だったらしいし」

「みふぴ、地図アプリに『電子部品』でピン刺してみたら?」

「やってはいるんだけどね。最寄りでもやっぱこの流れを越えないといけないんだよねぇ」

「うーマジか。なんか、店から店へ渡り歩いていく感じのルート取りとかできないかな?」

「それいいかもゆかりん。ちょっと待ってちょ。店内マップは地図アプリからだと見れないから……」


 そう言ってみふゆはアゴに手を当て、うんうんルートを考え始めた。

 ピー、ピーとホイッスルの音が遠くから聞こえてくる。目の前のおまわりさんもホイッスルを身につけていた。この人だかりじゃ、おまわりさんもきっと大忙しだ。


「うん、なんとかなりそう。2つ先のビルが『CarteSouple』っていう中古ショップなんだけど、そこを通ってビル同士の連絡通路から進むよ」

「おっけー☆ ……あれ、ところでうさぴは?」

「えっ」


 あれ本当だ。うさぎちゃんがいない。まさか人混みに流されちゃった? 〈ImagineTalkイマトーク〉で通話かけてみたけど、出ない。ちょっと不安になってきた……そう思いながら通話をかけ直すと、3回目で繋がった。


「あっ、うさぎちゃん! 大丈夫? 今どこ?」

『ゆ、ゆかりさん! あのっ――――ですから違います! わたしはコスプレイヤーじゃないです!』

「コスプレ……? うさぎちゃん?」

『助けてくださいゆかりさん! わたし、囲まれてっ……写真撮られそうになってます!』


 何か、事件の予感。

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