わたしたちはリア活部!
まずみんなで訪れたのは、駅から数分のところにある小さな喫茶店。やっぱりお出かけするときはその場所にしかないところに行ってみたい。ここもチェーン展開はやっていない、ここにしかないお店だ。
ガラス扉を開けて店に入ると、カランカランとドアベルが音を鳴らす。すると奥から細身のロボットがやってきて『いらっしゃいませ。4名様ですか?』と聞いてきたので答え、わたしたちはテーブル席に案内された。
「さてさて、何にしよっかな」
しのぶちゃんが備え付けの注文用タブレットを取ってポチポチ操作する。「あ、〈
「ちょい早めだけど、ついでにここでランチもしちゃおっか。わたしサンドイッチ頼むね」
「コーヒーの種類って色々ありますよね……どれが良いか迷います」
「説明しよーぅ! まずブレンドコーヒーというのは複数のコーヒー豆をブレンドして作られたコーヒーのこと。バランスがいいから間違いはないね。アメリカンは薄めに淹れてあるのが特徴。逆にエスプレッソは濃厚な味わいだね。ウィンナーコーヒーはコーヒーの上にホイップが乗ってる。ウィンナーは乗ってないよ! あとカフェオレ、カフェラテ、カフェモカなんだけど、カフェオレとカフェラテはどっちも
「あー。わたしが教えたかったのにー」
「ふっふっふ、このみふゆさんに解説させる隙を与えちゃいけないよ」
そんなこんなで注文を済ませ、しばらくすると円柱形の
『あついのできをつけてください』
「はーい、ありがとうございます」
わたしが頼んだのはブレンドコーヒーと野菜サンド。コーヒーはブラック。お隣うさぎちゃんはメープルトーストにカフェラテ、みふゆは
「「「「いただきます」」」」
まずはコーヒーから。カップを顔に近づけると、焙煎された豆の香りがフワッと広がってくる。うんうん、コーヒーはこの香りも大好きなんだ。湯気ののぼる表面にそっと息を吹いてひと口。酸味は少し控えめで、ちょうど良い苦みと深いコクがとても美味しい。野菜サンドとの相性もバッチリだ。やったね。
「この後はどこへ行きましょう?」
「お買い物する? ここなら百貨店もショッピングセンターもあるし」
「いいね。時間もたっぷりあるし渡り歩いちゃおう。あ、うさぎちゃんのメープルトーストも美味しそうだね。ひと口交換こしない?」
「ふぇぇ!? わたしの食べかけに、なっちゃいます、けど!?」
「まーったくゆかりんってばナチュラルにそういうことするー」
「にゃはは! ゆかぴアタシのもいる~? はいあーん」
みんなでひと口ずつ分け合って心も体も大満足。その後はみふゆの案内で百貨店へ。洋服コーナーでお互いに選びあってみたり、雑貨コーナーで帽子やらカバンやらをとっかえひっかえ持って来て鏡の前に立ってみたり。
物色中、「見て見て! これどう?」としのぶちゃんが言うので振り返ると、付けていたのは星型のサングラス。しのぶちゃんが付けていると不思議と似合ってて可愛い。
「おお……派手サングラスをそれ以上の派手さで抑え込んでいる……流石だ……」
「ちなみにサイボーグの人用にこんなのもあるよん☆ 超大型単眼星サングラス☆」
「それは流石にしのぶちゃんでも無理だぁ! ダッッッッサ!」
洋服雑貨の次はメカ好きうさぎちゃんのターン。家電屋で目をキラキラさせていた。みふゆもゲーミング製品コーナーで物理的にゴーグルがキラキラした。虹色に。
4人で一緒に行動するとどんなところへもズイズイ行けちゃう気がした。
どれくらい歩いたか分からないくらい店という店を歩き回って、いろんなものを見て聞いて食べて、たまたま見つけた変なフリスビーを勢いで買っちゃって公園で遊んじゃうなんてこともした。
そんな楽しい時間も、気づけば終わりに近づいていた。
空が赤く染まり始めてきた頃、「最後にここ行きたいな」と言うしのぶに連れられて、わたしたちはとあるビル屋上の展望台にやってきた。
そこから見えたのは、夕焼けの中にそびえ立つ山脈。コンクリートと金属とネオンでできた山脈。暗くなる空に反抗するみたいに、人工光がギラギラと光り出す。
「外から見ると、東京ってこんなに大きかったんですね」
「中はギュウギュウだもんね。わたしも意外とちゃんと全体を見たのって、動画越しでしかなかったかも」
しばらく4人で横並びになって景色を眺めていた。そしてみんなで太陽が沈むのを見届けたあと、みふゆの提案で記念写真を撮ることになった。「ドローン用意するからちょい待ってねー」と、みふゆがリュックを降ろす。
「あっという間でしたね。今日1日」
「だね。仮想空間でなら簡単に会えるのに、みんなで待ち合わせして、現実世界で同じところに集まって……でもその分、何倍も楽しかった。不思議だね」
「リア活、だね」
「リア活?」
「今考えた。リアルを楽しく満喫する活動、でリア活!」
「お待たせー。リア活、いいね。あたしたちだけの合言葉って感じ」
みふゆの手から小さなドローンが飛び立つ。カメラに収まるように立ち位置を調整して、前段にわたしとうさぎちゃん、後段にみふゆとしのぶちゃんがギュッと体を寄せる。
「じゃあ、わたしたちはリア活同盟だ」
「あたしたち高校生なんだし、『リア活部』ってどうでしょ? 部活動みたいな感じで!」
「いいね☆ アタシはリア活部に賛成~」
「わたしも良いと思います。今日から活動開始ですね」
ドローンのカメラ横に付いた赤いLEDがチカチカ点滅する。もうすぐシャッターが切られるのだ。
「よっし、それでは記念すべきリア活部の活動第1回目として――――はい、ピース!」
◆◆◆
ゴトン、ゴトン、と静かに揺れる自動運転の電車の中で、わたしは〈
わたしたち4人のグループチャットは、さっそく名前が『リア活部』に変えられている。
車窓からの景色はだんだんとネオンに染まっていく。
隣ではうさぎちゃんが眼を閉じて、すぅ、すぅ、と小さく寝息を立てていた。電車の揺れでうさぎちゃんの体がわたしのほうに傾いて、頭がわたしの肩に当たる。確かに今日はたくさん動き回ったもんね。わたしも重ねるように、体をゆっくりとうさぎちゃんのほうに傾けた。
次はみんなで何をしようかな。そんなことを思いながら、わたしも眼を閉じた。
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