千葉を訪ねて埼玉へ
「――まさか現実世界でうさぎちゃんと会うなんて」
「ええ、しかもそんな近いところに住んでいたなんて……信じられないです」
ふたりでめいっぱい驚いたあと、改めてうさぎちゃんの話を聞いた。なんとうさぎちゃんは、わたしの住んでいるところから数駅程度で行ける距離に住んでいるらしい。
イナ高は仮想空間上にあるから、日本全国から人が通っている。そんな中でクラスメイトがこんなに近くにいた。奇跡みたいな――いや絶対に奇跡だよ。なんだかテンションが上がって、思わずうさぎちゃんの顔をじっと見つめてしまう。
「……ゆかりさん?」
「んぇ? あっ、ごめん。現実のうさぎちゃん、スゴい可愛いなって」
「か……可愛い!? ですか!?」
「うん。そのツートーンの髪とかオシャレだよ? 顔もちっちゃくて、それに目の色イナ高よりずっときれい」
「あ、あうぅ……そっ、そろそろ、修理も終わる頃だと思うので! 行きましょう!」
「もう30分経っちゃったんだ、ふたりでいると早いね」
ということで、ミレノを出て再び呉機械院へ。自分のロボットと再会したうさぎちゃんは、愛おしそうにロボットを抱いていた。
お会計はレジに2次元コードが表示され、それをうさぎちゃんが覗き込むだけで完了。
わたしはそのまま出ようとしたけど、うさぎちゃんが「もうちょっとだけ……ここの拡張腕ユニットの棚だけ見せてください」という様子だったので付き合った。やっぱりうさぎちゃん、機械系が好きみたい。
もうお互いの目的は達成したけれど、わたしたちはその後も自然と一緒にショッピングモールを巡った。結局日が暮れるまで一緒に過ごして、その日は解散。
次の日、イナ高に
「おはよ! うさぎちゃん!」
「おはようございます。昨日はありがとうございました」
「こっちこそー! あの子はちゃんと直った?」
「ええ、おかげさまで夜ご飯も無事に」
そこへもう1人、会話に混ざってきた。茶色い髪をお団子にまとめ、眼が全く見えないほど真っ白いレンズの丸眼鏡をかけた子――みふゆちゃんだ。
「おはよん~ゆかりん、そしてうさぎちゃん」
「お、おはようございます……?」
「あたしは
「あぁ、そうだったんですね。涼風うさぎです」
「聞いてよみふゆ、昨日通話してたときにぶつかった子がさ――」
「うさぎちゃんだったわけでしょ? いやースゴいよね。リアルワールドでご対面しちゃうなんて」
「えぇ!? よく分かったね?」
「ふっふっふ~、だってずっと通話繋いだままだったじゃん」
「へぇあ!? 切り忘れてたぁ!?」
「いやしかしみふゆさんはジェントルですからね? ゆかりんがうさぎちゃんを口説き始めたあたりでそっと通話を切ってあげたわけですよ?」
「え? 口説いた? いつのこと?」
「まさか無自覚なのかアレはッッ!?」
わいのわいの言っていたらさらにもう1人、「なんか楽しそうな話してるね~」とやってきた。うさぎちゃんの席周りは観測史上最高の人口密度になっている。
「昨日現実世界でラブコメしてたふたりだよね~? 風のウワサで聞いちゃった☆」
「しののん、いつの間にあたしの背後に」
「にゃは、いきなり混ざってごめんね? 藤田しのぶだよ。みふぴと同じクラス」
ぬるりと混ざってきたしのぶちゃんは、フワッとウェーブのかかったツインテールが印象的な子だ。髪の色はミルキーホワイトっていうのかな? 少し黄色がかった白で、瞳の中が宝石みたいに輝いている。昔の時代だと『ギャル』って呼ばれてそうな雰囲気。
「それで~、実際現実で会ってどうだったの? うさぴ?」
「うさぴ? わ、わたしですか?」
「そそ! みふぴのコトは『みふぴ』だから、ふたりも『うさぴ』と『ゆかぴ』!」
「なるほど……? えっと、実際会ってみて……とても驚きましたが、会えて嬉しかったです。現実だとよく、ひとりでいることが多かったので」
「わたしも楽しかった! 一緒にミレノ飲んだり、隣でホログラム見たりできてさ」
「ほほーぅ。いいねぇおふたりとも」
「にゃはは、みふぴも会っちゃえばいいじゃ~ん」
「お、いいねいいね! ちょっと遠くても計画立ててさ!」
「えっ!? いや、東京住みのおふたりとはそう遠くないところではあるけども……」
と、いうわけで。
土曜日、わたしとうさぎちゃんは埼玉県の浦和駅にいた。
「着いた~! 待ってろ~千葉なのに埼玉住み~!」
「まさか隣の県だと知ったら即座に計画を実行するとは思いませんでした……でも、東京の外に出たのは久しぶりです」
みふゆ曰く「流石にマイハウスは人を呼ぶ想定してない!」とのことだったので、駅で待ち合わせ。ちなみにしのぶちゃんも「行けたら行くね~☆」って言っていた。これは来ないやつじゃ? まぁスゴい遠くなのかもしれないし、無理でもしょうがない。
『みふゆー? 駅着いたよ。西口』
〈
『ゆかりん、大事なことに今気づいちゃったよ。あたしたち、お互いに現実の姿を知らない』
『だね、土曜だから人もちょい多いし……〈視界共有〉する?』
りょ、とみふゆが返すと、わたしの視界に『Mifuyu さんと視界を共有しますか?』 というポップアップが浮かぶ。OKと念じたら、わたしの頭には自分の眼と違う景色が見えてくる。
『共有したはいいもののここはどこわたしはだれ』
『じゃあたしが動こう。うさちゃん、右手上げるとかしてくれる?』
景色だけがずんずん動いて、わたしとうさぎちゃんが写り込む。わたしがわたしを見つめてる……なんか不思議な感覚。
「やあやあ。ほうこれがリアルゆかりんとリアルうさちゃんかぁ」
脳内ではなく耳に声が届いたので、視界共有を停止した。目の前にいたのは、抹茶色のパーカーに明るい茶色のお団子頭、そして――眼の部分を完全に覆う、ひと昔前のVRゴーグルのような機械を付けた女の子。
なるほど、イナ高のアバターで『絶対に中が見えないメガネ』をしている理由が分かった。現実世界のみふゆは両目をサイボーグ化していたのだ。
「み、みふゆさん……! その眼って……!」
「お、よくぞ聞いてくれました。なんとこちら、縁が約1680万色に光っちゃいま〜す!」
「わぁ……! スゴいです! あ、ここもしかして展開できるんですか!」
「そう、そうなのよ……って待って待ってそんなジロジロ見られ慣れてないんで……陰オブ陰の人なので……」
「ふふっ。でも確かに、カッコいいね」
「ゆかりんまで……! というかゆかりん、イナ高とほとんど変わらないんだね」
「うん。アバターそんな弄ってないし、サイボーグ化も〈ブレインネット〉だけだね」
そこへ新しい声が頭に響く。
『やっほー☆ みんな合流したのん?』
『しのぶちゃん!? まさかしのぶちゃんも来る?』
『そのまさかー!』
なんとなんと、しのぶちゃんは『行けたら行く』で来るタイプの子でした。ビックリ。
『駅着いたけど、みんなどこかなぁ? 〈視界共有〉してもいい?』
『ん、しのぶちゃんがする? おっけー、じゃあみんなでしのぶちゃんのとこに向かおうか』
そう言ってしのぶちゃんの視界を受け入れた、次の瞬間――飛び込んできたのは超ドアップのわたしの顔!
「うおぁぁぁぁぁ!?」
「にゃはははは! 驚いた~?」
バーンと現れたのは、金色ベースにたくさんの色が入ったカラフルツインテールで、モコモコっとしたトップスを身に着けた背の高いギャルっ子。その手には双眼鏡があった……これのせいか!
「あぁ……びっくりした……」
「にゃはは~ごめんごめん。でも面白かったでしょ?」
「あなたが……しのぶさん?」
「マジすか、仮想空間より現実のほうが派手なパターンなんてあるんだね!」
「リアルしのぶだよ~♪ リアルみふぴ、リアルゆかぴ、リアルうさぴ! 会いたかったよ!」
何はともあれ、わたしたち4人は現実世界で一堂に会することができた。
さぁ、せっかくだし今日は思い切り遊ぼう!
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