第7話「探究と使命」

 この地を、テラを観測してきた者―――――。

 

 それは一体、どういう意味なのか。

 その言葉を聞いた瞬間、エレノアの中の警戒心が一気に高まった。

 

 オフィリア―――、彼女は一体何が目的なんだろう。

 

「“観測してきた”って……。もしかして、貴方は政府の人間?」

「如何にも。私は禁足域を含めた、惑星全土の「生態」と「環境」を観測する組織『生態観測局』の一員です」

「ええ、マジもんのお偉いさんじゃない、姫」


 こうして、政府の人間がわざわざ姿を見せて、自分たちの前に現れた。

 そのことに対して「単なる挨拶」が目的とは、エレノアは到底思えなかった。

 

「それで? 観測局の役員様が、私たちに何の用?」

「そんなに警戒しないでください。私は何も、貴方方に不利益を被る様な真似は致しません」

「それはどうだか……」


 一向に警戒心を解かないエレノアに対して、テラがそっと声をかける。


「エレノア、まずは一度話を伺ってみよう」


「…………」

「それに―――、先程の光。アレは星霊術式エーテル・スペルによる閃光弾だろう。つまり、彼女はボクたちの――――」

「わかった。わかったってば!」


 確かに、先程の奇襲がなければ、フレ・ゲリの群れを追い払うことは出来なかった。

 不本意ながら、この時点で目の前の彼女にはがある。


 エレノアにとっては、不本意であるが。


「それで、オフィリアだっけ? 改めて聞くけど、私たちに何の用?」

「まずは、ルティーゼさん。私は、観測局の一員として、貴方に申し上げねばならない事があります」

「何よ、今更罰則でも与えるっての?」

「いえ、そうではなく―――――」


 すると、オフィリアは深く頭を下げた。

 まるで何かを「懇願」するかのように、目を閉じてそっと頭を下げる。


「―――――お願いです。私たちの調査に、協力してください」

「はっ?」

「私たちは、長きに渡ってこの森を観測してきました。ですが、貴方の様に自由に行動し、自然と共に駆け抜ける、その様なことが出来る人材は、他にいません」

「それって…………」

「えぇ。率直に申し上げますと、貴方を正式に『調査員』として任命したいのです」

「――――――!」


 てっきり、無断で侵入を繰り返してきたツケが回ってくるのかと思えば……。

 ただしそうなれば、誰に咎められる事もなく、この禁足域の調査に専念できる。


 この先にある『船』に辿り着くのも、より現実的になるかもしれない。


 ただ、そううまい話は、世の中そう存在しない。

 そう思ったエレノアは、そのまま切り替えすように問いかける。


「で、対価はなに?」

「――――どういう、意味でしょうか」

「こんな不法侵入上等の不良学生を、そんな特別待遇するなんて、私が逆の立場なら意味が分からない」

「…………」

「そっちの目的なら、とうに見当付いてるわよ」



―――――その代わりに、“テラを引き渡せ”、と。



「違う?」

「…………それは、否定はできませんが……」

「だったら、その話はなし。貴方たちの都合なんか無視して、このまま自分達だけで調査を進めるわ」

「…………」

「気に食わないなら、退学処分なり、罰則なり、何でもすれば? そんなことで私は―――――」

「え、エレノア! 熱くなりすぎだって!」

「だって…………」


 エレノアは、思い返した。

 父親が死に至ったのは、国の為に命を賭して働いたからだ。

 そしてまた、自分も国の「道具」にされるのではないかと、直感で思った。

 

 そんな道を往くぐらいなら、己が選んだ道を往く。

 たとえ、二度と家に帰れなくなって、学院にも戻れなくなっても。


「エレノア」

「何よ―――――、テラ」

「君は今、主観で物事を見ている。だからこそ、やや感情的な態度になっている様子だが、よく彼女を見るんだ」

「え?」


 オフィリアの表情を、改めてよく見てみた。

 まるで、泣きだしそうな顔をして、必死になって頭を低くしていた。

 彼女は自分に対して、「対価」を求めて接触したのではない。


 それ以外の何かが、彼女の目的の本質なんだ。


 それを理解すると、エレノアは思わず目を逸らして、そっと呟いた。


「…………えっと、オフィリア」

「わかっています。私では、その資格を持たない。その価値を示せない。だから、“大いなる命”たる貴方は、彼女を選んだ―――――」

「おや、それは何故だい?」

「わかります。貴方がどれほどこの地を愛し、どれほど…………」




―――――私たちに絶望しているのか




「え、なにそれ?」

「ちょ、テラさんや。それどゆこと?」

「――――――」

「でもどうかお願いします、ルティーゼさん! テラさん!」


 深く頭を下げると、そのまま地面に膝を付けて、額を地面にこすった。

 仮にも政府の人間が、自分達に対して「土下座」をしてきた。


「ちょ、なにしてんの?!」

「私たちには、もう時間がないのです。貴方様の力がなければ、いずれ、取り返しのつかない事態に陥ってしまいます――――!」

「ちょっとテラ、どういうこと? 説明してよ!」

「ボクには分からない。これは彼女やキミらの問題だろう?」


 テラは相変わらず落ち着いた様子だ。

 しかしオフィリアからは必死さが伝わってくる。


 二人はその全貌が一切見えず、どう反応すればいいのかわからずにいた。


「はっきりと申し上げます………私を、貴方方の調査に同行させてください。そして、私に課せられた使を、共に果たしてください」





 オフィリア・ヴァレーヌ

 彼女には、どうしても自分達と共に行動したい理由があるらしい。

 ただ、それを聴いたところで、答えてくれそうもない。

 

 だからこそ、エレノアは一言だけ問う。


「一つ聞いていい? オフィリア」

「はい、何でしょう?」

「貴方は、私たちを利用してでも、何かやり遂げなければならないことがあるの?」

「否定はしません。ですが、私は貴方たちを利用する訳ではありません」

「え?」

「私は―――――、貴方たちのを見届けたいのです」

「…………りそう?」


 すると、オフィリアは一度姿勢を起こして、淡々と語り始める。

 自分がこうして、三人の前に現れた経路について。


「私たちは、かつてこの禁足域にて、ある記録を発見したのです」

「記録?」

「ええ。この地には、古に沈みし『災厄』が眠っていると。そして、それが再び目覚めた時、この星は滅びを迎える―――――」

「ちょいちょい、なにそれ!? 激ヤバじゃん!」

「禁足域に、そんなものが…………」

「私は、それが一体何なのかを、この目で確かめたいのです。そして、その為には、貴方方と同じ道を歩む必要があると、考えたのです」


 エレノアは、ふとテラの方に視線を向ける。

 すると、テラと再会した時の出来事を、再び思い返す。


(そういえば、私があの樹に触れようとした時、テラはそれを止めた。じゃあ、あの樹に何か関係が――――?)


「それは、ボクにもわからない」

「ちょ、人の心の中読むな」


 テラの通心能力テレパシーには、驚きを通り越して慣れつつあった。

 そんな彼から、事実について聞かされる。


「あの大樹が何なのか、その答えはボクにはわからない。ただ、一つだけはっきりと言えることがある」

「それって?」

「あの樹には―――――、

「何かがって、じゃあそれがもしかして!?」

「じゃあ、貴方があの樹の周りに居るのって…………」

「うん。ボクはきっと、本能でその何かを恐れている。だからこそ、あの樹をずっと見守ってきたんだ。そして―――――」


 すると、テラの視線がオフィリアの方へと向けられる。


「キミたちが触れることで、ソレが目覚めないように、あの場所を見続けてきた」

「やはり、そうだったんですか…………」

「キミたちの事情は、概ね察しが付く。だが、確かにボクや彼らが認めた彷徨い人は、此処にいる彼女――――エレノアだけだ」

「テラ、貴方…………」


 エレノアだけが、純粋な気持ちを持って、この森に足を踏み入れた。

 彼女だけが、等身大で森を見渡し、森の中を駆け巡った。


 だからこそ、それ以外の者達は皆、この地に認められなかった。


「ルティーゼさん、貴方は…………」

「いや。私だって、認めて欲しくて来てた訳じゃないから。それに、私の目的は、この先、つまり北側にある遺跡なんだから」

「…………」

「つまり、貴方の目的としては、私たちと同行する事で、この地に関する明確な情報を知りたいと」

「はい――――、仰る通りです」

「なるほどね」


 はじめは、「政府の傀儡になるのでは」と心配していたエレノア。

 でも、それは杞憂だった。

 この少女、オフィリアはただ、己の課せられた「責務」を果たそうと、私たちに協力を打診しただけに過ぎなかった。

 その証拠に、彼女から為政者特有の「権力による圧」は一切なかった。


 ただ、純粋に私たちの力が借りたいだけの『女の子』だった。


「…………わかった。じゃあ、一緒に来れば?」

「は! 本当によろしいのですか?」

「言っておくけど、私の夢の邪魔だけはしないで。それ以外のことは…………」

「邪魔なんて、決して致しません!」

「―――――え?」

「貴方の様に、誇りを持って生きる人間を、私は決して侮蔑しません。寧ろ、私の方からお願いします」

「…………なによ」



―――――貴方の『夢』を、私にも見せてください



「――――――!」


 テラとメディスに次いで、こんな風に言ってくれた人間は、彼女で三人目だ。

 ずっと自分達を見てきたと言っていた。

 だからこそオフィリア、彼女はきっと知っているのだろう。



 エレノアの中に宿る、『星穹ソラ』への憧れを燈す火を―――――



「わかった、じゃあよろしくね。えっと、オフィリア」

「はい、よろしくお願いします。ルティーゼさん!」

「えっと、何か言いにくそうだし、で良いよ」

「あ……、すいません。では…………、

「ん…………」


 なんだか急に、照れくさくなってきた。

 そんな二人を眺めながら、保護者二人はぼそっと会話をしていた。


「なあ、テラさんや」

「なんだい?」

「ありゃなんだい? これから付き合うことになった男女かい?」

「男女の営みは詳しくないけど…………、先人達によると“女の友情”ってやつだね」

「ぐぬ、オフィリア……。恐ろしい子」


 なんだか、自分の立場を脅かされそうになったメディス。

 そんな彼女に対しても、オフィリアは改めて挨拶をする。


「御二人も、改めてよろしくお願いします。オデュネ…………いえ、。そして、

「あ、どうも……。よ、よろしく~」

「よろしく頼むよ、オフィリア」


 こうして、意外な人物が仲間に加わった。

 彼女の目的、いや「使命」とは一体何なのか。

 

 それはきっと、これから次第に明らかになっていくのだろう。

 

 今はただ、自分を認めてくれた数少ない人物を、此方も認めていきたい。

 ずっと孤独だった少女エレノアは、そう思っていた。


「じゃあ、仲間になるのは良いけど…………」

「はい?」

「もう少し、詳しく聞かせて。オフィリア、貴方のことを―――」

「はい、畏まりました」


 そうやって会話をしていた頃。

 すっかり日が暮れてしまい、夜が近づいていた。




◇ ◆ ◇


「着きました」

「おぉ~、こりゃ凄い!」

「なるほど。この手が合ったか」


 最初、エレノアは「野宿をする」と意気込んでいたが、オフィリアの「提案」により却下となった。

 そのオフィリアの提案とは―――――。


「それにしても良かったです。こちらの拠点小屋ベースキャンプがまだ残ってて」

「これなら、雨風凌げて、ぐっすり眠れますな~! 流石、オフィリア嬢!」

「メディスさん、は止めましょう?」

「この様子だと、定期的に整備もされているみたいだ。となると―――」

「テラさん! そういえば、暖炉に使う薪が足りません! ほんの少しで良いので、調達して来て貰えませんか?」

「うん、わかったよ」


 野宿を回避したことで、安心仕切ったメディス。

 そして、何かに勘付くも、敢えて触れないようにしようと誓ったテラ。


 そんな二人とは打って変わって、浮かない顔のエレノアが居た。


「エレノア……さん?」

「なんか、ズルイ」

「は、はぁ…………」

「こっちは、野営の準備までして来たってのに、なんか肩透かしっていうか…………」

「おいおい、姫。な~に拗ねてるんだよ? ホントは、またオフィリア嬢に借りが出来て悔しいんだろ?」

「別に、そんなんじゃ…………」


 オフィリアの心構えは認めた。

 だが、彼女の素性に関しては、まだまだ油断できない。

 先程の質問に対しても、オフィリアは「落ち着いた場所で話す」と言って、話を後回しにした。

 やはり、彼女には何か決定的な「秘密」がある。


 それが明らかになるまでは、やはり彼女を完全には信用できない。


「さてと、じゃあオフィリア。早速だけど…………」

「はい、ご飯にしましょう!」

「いや、なんでよ!」


 すると、オフィリアは食糧庫と思われる場所から、色々と取り出した。

 この森で採取したであろう野菜や果実、それに茸。

 それと、何故か「カエル」や「トカゲ」まで食材として並んでいた。


「えーっと、これは……」

「なるほど。この地の食材をふんだんに使おうってことだね」

「いやいや、を食えと!? だったらこのまま野垂れ死んでやる!」

「申し訳ありません……。私も、こういったは不得意で…………」

「観測局の人間が、それで良いの?」

「え、あぁ、えーっと…………」


 個性あふれる食材を前に、動揺する一同。

 そんな中、エレノアだけが淡々と食材を選んで、そのまま何かの準備に取り掛かる。

 

「ひ、姫?」

「大丈夫よ、メディス。このトカゲとか、尻尾と腹の部分が美味しいってことで、央都でも評判なんだから。それにこの茸、良い出汁が出るのよ」

「おぉ~、そういえば我が姫のは!」

「―――――料理、するのかい?」

「ま、もうちょいちゃんと食べれる程度にね。言っておくけど、味はあんまり期待しないでよ」

 



 今回の食材をおさらいすると、使えそうなのはこの辺りの……なんか、色んな草。

 そして、禁足域に生息するとされる蜥蜴「ゲルグド」の尻尾、といった所だろう


 工程は至ってシンプルである。

 ゲルグドの尾は骨の関節ごとに輪切りにし、潰した多年草の球根と一緒に鍋で軽く炒めた後、水でじっくり煮込むだけ。煮込むと当然水分が飛ぶため、適度に足しながらあとは待つのみである。

 森は天然の香辛料の幸であるため、ありったけの香辛料もブッ込もう。肉の獣臭さはこれで隠せる。


 本当は主食類も用意したいが、なんでかエレノアは粉を忘れた。うっかりウッカリ。

 しかし肉がこの大きさであるから、人と一人なら量としては充分だろう、とエレノアは内心言い訳する。



「さて、こんなもんか」


 そう、こんなもんで良いの、マジで。

 野外料理なんだから。


「お~! なんだか、美味しそうに見えてきた!」


 ほらね。


 大胆・イズ・正義。


「流石だね、エレノア。自然を知るからこそ、それを食する術も持ち合わせている」

「まあね。じゃ、とっとと食べちゃって」


 盛られた器を覗くと、湯気と香りの猛襲。

 濃厚な色ととろみに肉の断面が包まれている。

 刻まれた多年草が青みとして汁と肉を彩っている。

 肉は繊維がほぐれ、フォークを刺すと骨からずれ落ちる。

 

「あの、エレノアさん……」

「なに?」

「―――――い、頂きます!」


 誰よりも真っ先に、オフィリアがスープを飲んだ。

 その第一声は―――――。


「お、美味しい!」

「マジか! じゃあ、アタシもた~べよ!」


 そうやって、女子三人は絶品のゲテモノ料理を、ありがたく頂戴するのであった。

 ただ一人、テラだけは一切料理に手を触れていなかった。



「あれ、テラ? 食べないの?」

「僕は―――、食事を必要としないんだ。強いて言えば、水と光があれば、必要な栄養が取れるのさ」

「いや、光合成かよ」


 よくわからない相棒の生態は置いておいて。

 今は取り敢えず、エレノアは食事に集中する事にした。


 ちなみにだが、エレノアの料理上手は母親からで、同時に薬師である為か、簡単な調合なども行えるのだという。


(まったく、なんでこんなことに…………)


 たった一度のから、こんなへと繋がった。

 人生って、もっと決められて、不変的で、定まったものだと思っていた。




 だけどこれが―――――エレノアの現実だ。


「んー、もうちょい味濃ゆくしても良かったかな…………」




◇ ◆ ◇

 

 食事を終えた三人と、食事を見届けた一人。

 彼らは改めて、今後の方針について考えていた。


「改めてだけど、私たちが目指してるのは、禁足域の最北端。このペースだと、あと一日もあれば到着するはず」

「そうだね。ボクも少しずつだけど、この辺りのことを思い出してきた。もうそれほど、遠くじゃないことだけは、保証しよう」

「さて、ここで一つ問題なんだけど…………」

「どした、姫?」

「もし仮に、船を無事に発見できたとして、どうやって持って帰ろう?」

「あー、それは…………」


 非力なエレノアとメディスには、その為の手段がない。

 一方で、テラの見解はというと。


「大きさによるけど……、最悪の場合はボクが運ぼうか」

「いや、それは流石に―――――」


 テラの曇りない瞳を見て、それが本音マジであると伝わった。

 こんな眼、宝眼わたしたちでも滅多にしないだろう。


「それに付きましては、私に提案があります」

「提案って、今度は何企んでるの?」

「皆さんもご存知の通り、私は星霊術式エーテル・スペルを幾つか会得しています」

「ああ、あの時の『光』?」

「それって、妖耳だけが使える秘術で、確か昔は“魔法”って呼ばれてたんだっけ?」

「ええ。その中に、があります」

「なっ!?」


 エーテル・スペルについては、妖耳以外が詳細を知る事はない。

 何故なら、いくら情報を得たところで、実際に使うことはまず不可能だからだ。

 だからこそ、こうしてオフィリアの口から実態を聴くのは、ある意味興味深いことでもあった。


「正確には、“一時的に設定した座標”にある物体を、“中心となる座標”へと移動させるというものです」

「ほほう! つまりつまり――――!」

「はい。私たちがこうして、各地に拠点を設けているのも、その術式を用いたからこそです。ただ、術式の発動には少しだけ工程が―――――」


 この調子なら、船を無事に回収できる。

 そうやって楽観的に考えるメディスとテラに対して、エレノアは口を挟む。


「待った」

「なにか?」

「あなたね、さっきから随分と協力的だけど、まだ私は完全にアンタを信用した訳じゃないから」

「ん…………」

「エレノア、ここに来て何言って………」

「私たちの問題は、私たちで何とかするから。アンタはただ、必要以上に関わってこないで!」

「――――――」


 オフィリアは、無言でうつむいた。

 メディスはエレノアに対して「言い過ぎでしょ」と宥める。

 テラは相変わらず、見守る様な目で皆の様子を伺っていた。


 その様子がどうも気になり、エレノアは話を振った。


「テラ、あなたは誰の味方なの?」

「勿論、キミの味方さ」

「なら、あなたからも何か言ってよ」

「何を?」

「なにって、これは私たちの問題であって……」

「キミは彼女の何が信用出来ないんだ?」


 その場のエレノア以外全員を代弁したような、素朴な疑問だった。


「それは……その、この女は観測局の人間で、国の偉い身分だか……」


 その答えにメディスはようやく納得した様子を露わにするが、テラは相変わらず質問をやめない。


「国の偉い人間だと、怪しいのかい?」

「だって、こいつらは私の父さんを……私たちの夢を邪魔する国の人間なんだから……」

「それは"過去に印象付いた誰かと同一人物"だからかい?

 それとも"国の人間"というカテゴライズに則った印象論かい?」

「……………」


 テラの問いのようで追い詰められていく実感を覚える。

 自分の論理が「道理に見せかけた"己の好き嫌い"」に過ぎない事を暴かれるようで、エレノアの中で情けなさと嫌気が募る。


「そうですね。差し出がましいことを申し上げてしまい、誠に申し訳ございません」

「え、ちょ…………」

「ですが、私に出来ることがあれば、何でも仰ってください!」


 言い返すどころか、寧ろ謝られてしまった。

 これでは完全に自分が悪者だと、エレノアは少し自己嫌悪に陥っていた。


「あーもう、そういうの良いから!」

「―――――」

「とにかく、アンタはアンタの使命って奴を果たして。私の夢は、私が叶えるから」

「はい――――、わかりました」


 これでは、オフィリアの素性についても聞きにくい。

 完全に場の空気を悪くしてしまい、エレノアは不貞腐れて外へ向かう。


「ちょ、エレノア! 何処行くの?!」

「ちょっと風に当たって来る。―――――来ないで」


 そうして、一人小屋を後にするエレノア。

 そんな彼女になんとと声を掛ければ良いのか、メディスとオフィリアは下を向いていた。

 ただ一人―――――、彼だけは迷わず後を追った。


「大丈夫だ、二人共」


「テラ…………」

「テラさん……?」


「ちょっと―――――、話をしてくるよ」








 その夜は、少しだけ長い夜だった。


 エレノアとテラ、二人の心が通う為の、大切な時間―――――。

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