第3話

「なんか、事前に来たメールと違うんですけど?」

って校長室に向かう時、この女……じゃなくてウィーナが俺に聞いてきた。

「メールってなんだ?」

「それも」と女は胸元のエプロンのポケットから、白い鳥の羽を取り出したんだ。

「ナールハルトさんから頂いたメールです」

いや全く知らなかった。例のカーマのとこの村長だっけか。俺が来る前にメッセージをここに送ってたんだそうだ。

魔力を鳥の羽に付与して送ってくる、それがメール。

ウィーナはボソボソつぶやくと、その羽を軽く、俺の鼻先で振った。

すると……


光った! つーか羽から光る粉がふわりと落ちて、そいつがキラキラと文字の形を成したんだ。

「16歳。男性、髪は天然ボサボサ剛毛……」

そこまではいいとして。ってウィーナは突然俺の髪に手を突っ込んできたんだ! いててて!

「メールには秋の木の実に似た濃い茶色。と記載されてますけど」

え、そうなのか? と俺は光るメール文字を上から下へ……


し く じ っ た !!!


このサーマ、一生の不覚!

完全に相手の姿へと化けられる力を持っている俺様が、よりによってアイツの髪の色を思いっきり失念していたんだ!

つまり、今の俺の髪は……そう、シェイプシフターの地毛というか、深い青と緑を足して少し白を加えたようなちょっと複雑な色だ。ちなみに夜になるとまたキレイに輝くんだ。いや問題はそうじゃない!

えええい! こーなったら!


「じ、実は染めたんだ……いわゆるイメージチェンジってやつ?」

「え⁉︎」ウィーナが不思議そうな目で俺の顔をのぞき込む。これはウソじゃねーかと思ってる目つきだろ! いや確かに俺はウソついてるんだが。

「故郷でも結構言われちゃってね。特にお祖父さんに。街に出るならその地毛の色だとバカにされるぞって。なもんで村を出る前にいろいろな草木染めで試してたら、こんな変な色になっちゃって、おまけに落ちなくなっちまって」


「え……そんな事情が⁉︎」よし、うまいこと騙せたっぽい。トドメだ!

「おそらく他にもメールとは違う事項があるとは思う。ただ今の姿はあくまでここでのウケ狙い……ってのかな? 故郷じゃそういう派手なことはできなかったしな」

だから……と俺は最後に一言。

「もしニセモノだとか疑うってのなら、ここを出るよ」

小さな声でボソリと。俺はくるりとまた校門へと向かった。


「あ、その、えっ……ごめんなさい」

背中で思わずよし! と言いそうになっちまった。フハハ大成功だ!

「そういった事情があったとは知らなくって……ですよね。ちょっと特徴的な髪型はメールに載っているものと相違ないので。それは謝ります」


また振り返った俺の手を、ウィーナはぎゅっと握りしめた。

え? え⁉︎ なんだすげえ暖かい! 人間の手ってこれほどまでにあたたかいのか、逆に俺の方がビビっちまった。


「ようこそエイプランへ。えっと……いろいろ不便なところもあるかも知れませんが、私たちは歓迎します!」

彼女の目の端にちょっと水が浮かんでた。涙か? 俺は死んでないぞ?


わだかまりが解けたのだろうか、ウィーナは急に笑顔で俺の手を引っ張って……

「父さんのところから合いそうな服を用意してきますね、カーマさんは校舎裏の温泉に入って身体を洗っててください! ずっとすっぽんぽんだったから身体も汚れてるんじゃないですか?」

「え、おんせん……?」

「はい、天然のお湯が湧いてるんです。旅の疲れもすぐに溶け落ちちゃいますよ!」



やめろ、溶けるのは疲れじゃなく俺の方だ!!

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