第4話

アイツの唯一の……そう、カーマの遺してくれた。じゃなかった奪い取った品であるこの長衣。ローブっていうらしい。これにはうっすらと魔法の匂いがするんだ。

それも一回使ってすぐ消えるタイプなんかじゃない。永久に残るやつだ。俺には分かる。簡素な刺繍が施されているんだが、その糸に込められているんだ。こりゃあ相当名のある魔法使いが使っていたに違いない。

でもって、それをカーマが餞別に受け取った……のかもな。

その魔法はズバリ「防水」!

……ってなんかセコくね? 普通こんな上質な服にただの防水……ってさ。


さて。それはいいとして。いま俺は生死に関わるピンチに立っている。

あの女に温泉とやらに入れと言われた。だが俺は前に話したとおり、水がダメなんだ。浸かったらあっという間に溶けてしまう。だが俺はこんな場所で死ぬワケにはいかない。かといってその温泉ってのも……うん。どうせ俺はいまこのローブの下はハダカだ。どうにでも誤魔化せそうな気がしてきた。

⭐︎⭐︎⭐︎

モクモクと熱く真っ白な水蒸気が立ち上っている。校舎裏にこんなすごいところがあったなんてな。

案の定、目の前には池……じゃなくつまりは熱湯の水たまりが広がっていた。なるほどこれが温泉ってやつか。ためしに人差し指でちょっと触れて……

「んがぁぁぁぁあ!」やっぱりダメだ、ちょこっとだけど溶けた!

人間ってのはこんな罠みてーな場所に好んで入りたがるのかよ。ある意味強靭なんだな。

なんて1人で感心していたら、後ろからどたどたぺたぺたとたくさんの足音が聞こえてきたんだ、この速度と歩幅からして……子供かな?

とりあえず見つかったら危険と判断して、俺は仕切りとなっている木の板の陰に身を隠すことにした。


「ふはぁ〜、すっげ気持ちいい!」

「だよなーほんと、生き返るってゆーか」

「マッセってほんとおっさんみたいなこと言うよなー」

「いいじゃねーかよ。ホントのことなんだし」

「そーいや、新しく来た先生、見た?」

「みたみたー! まほーつかいみたいな服きててね、そんで……そんで」


女の子だろうか、俺のこと見てたってあいつか!


「んーとね、すっぽんぽんだった」


水蒸気の中が一斉に爆笑に包まれた。

いや確かにそうだけど、なんか、この……これから会うであろうガキどもにここまで笑いのタネにされるのって悔しいというか。


「待って、そこに誰かいる……」そんな楽しさに割り込むかのように、子どもたちの1人……結構大人びた声が聞こえてきた。

「ウィーナじゃねーの? もしくは外から来た人?」

「ううん、なんていうか、うっすら魔力と魔獣の匂いするの」

「気のせいじゃねーの? ユウリって感覚検知鋭いのは分かるけどさ」

「黙ってて」


……このユウリって女、子供ながらもかなり冷静沈着でキツそうな性格だな。

いやいやそうじゃなくて! もしかして俺だろ! 俺見られちゃったとか⁉︎


ぴちゃん。と静寂の中に水の滴る音ひとつ。

「私は容赦しない」とブツブツ何かを唱えはじめた。

ぐんぐんユウリの方向からの魔力が高まってきている、やべぇえええ!


「水礫(ウォーターグラベル)」


ダメだよけられねええええ!

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