第2話

馬車に揺られて一日も経たなかったな。

「さあ、エイプランに到着したぞ!」って屈強な男がばしばしと俺の背中を叩いてきた。

こういう時なんて言うんだっけか。そうそう「ありがとう」だな。以前冒険者の1人に化けた時に覚えたんだ。

しかし、降りて周りを見渡してみたはいいものの……街っていうからには人間がたくさん歩いてて活気があるイメージだったんだけど。全然じゃねーかオイ。


「まあしょうがねえ。5年前の満ち潮で真っ先にやられちまったからなここは」

満ち潮……なんだそりゃ? って疑問に弓矢の女が教えてくれた。

「私たちはモンスターの出現の増減を海に例えてるんです。つまり満ち潮というのは大量に出てくるということですね」

なるほど全然分からん。つーか海も知らないし。

だがこれ以上質問を増やしたりすると逆にこいつらにウザがられそうだしな。もう一度「ありがとう」って答えておいた。


「以前はエイプランもそこそこ人がいたんだがな……」男は寂しげな顔をしてまた俺に説明してくれた。まあいいか、勉強になるし。


全裸にコート羽織った俺がついた先。そこは……うん、やっぱりお世辞にも素敵な作りとはいえないが、そこそこ大きな二階建ての家だった。岩山とかじゃない。木を組んで造られたものだ。

そして目の前のデカい門の上には、これまた巨大な剣が突き刺さっているし。なんか見るもの全て変なモンばかりだ。

俺はパーティにお礼と別れを告げて、その巨大な門を……


……めちゃくちゃ重いけど、どうにか開けた。なんかメキメキって変な音がしたけど気にしない。


目の前に広がる建物。これがカーマの手紙に書いてあった「エイプラン孤児院兼冒険者養成学校」か。

馬車の中で丸まってて痛くなってた背中をピンと伸ばす。

そうだ、思いっきり背伸びをして……えっと、まずはどこに行けばいいのかな。手紙渡さねえと。

そんなことを考えて建物の前の広場をうろついてるうちに、気持ちいい風が身体中に吹きつけてきた。すっげえ心地いい。


「あ、あの……」


ふと、後ろから女っぽい声が。さっきの弓矢とは違う人間なことは確かだ。しかしどこを見ても姿が見えない。


「えっと、その……」


よく見たら校舎の隣にでっかい木が。全然気づかなかった。

その陰からすっげえ小さな声で、なんか俺を呼んでるっぽい。


「な、なんであなた、服着てないんですか……?」


言われてみたら確かに。俺はずっとコートの下はハダカだった。さすがにカーマを埋める時にあいつから身ぐるみ取ってしまうのは気の毒に思えたんだよな。まあ別に俺はシェイプシフターだし。つまりモンスターってやつだ。生まれた時からずっとハダカだ。全然恥ずかしく……


「みんな見てますよ……」

「え?」

「だーかーら! 校舎ちゃんと見なさいってば! 生徒たちみんなあんたのすっぽんぽんな姿見ちゃってるんです! 隠してください!」


ようやく木の陰から女が出てきた。しかもなんなんだコイツ、すげえ顔真っ赤だし。悪いもんでも食ったのか?

胸まで覆ったスカートに身を包んだ女。右手には剣……じゃなくて枯れ枝を束ねた、おおよそ武器とは言えないものを握っている。

それと、秋に色づく葉っぱのような真っ赤な髪の毛。


「いいから前だけでも隠してください!」

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