第二章 第1話
ー エイプラン孤児院兼冒険者養成学校 ー
つまり、だ。ここは親のいない子供たちを育てる施設と冒険者を育てる学校が組み合わさった場所ってことになる。
街自体はそれほど大きいってモンでもない。日ごろ俺が走り回ってた故郷の野原と同じくらいか? いやもっと大きいか?
そこそこ歴史はあるみたいだ。この街出身の……えっと名前忘れた。まあとにかくたくさんの俺の仲間を退治して名を上げた戦士ってのが有り余った金でこの学校を立てたって話だ。
その証拠に校門には俺の背丈の倍近くある巨大な剣……じゃなくて、剣の形をした像がブッ刺さっている。話によるとその戦士が愛用していた剣を記念に模したんだそうだ。
「せんせー! お昼食べたら次なにやるの?」
メシ食う時間が終わって、早速ガキ連中がうるさくまとわりついてきやがったし。
つーかこの学校……先生が俺ひとりしかいないんだ。
現在に至るまで、ここはリタイアして街に移り住んだ、いわゆる元冒険者が先生の代わりに教えているんだ。しかしそれじゃ荒くれ者しか育たないんじゃないか? ってことで、魔法使って各地に先生募集の手紙を出した。
……今の俺の元になったカーマ。そいつの済む村にも手紙が来て、村長はあいつを送り出すことにしたんだ。
ンで、なぜ先生が俺ひとりかって?
実は、給料……要はもらえるカネが相当安かったんだ。
わざわざこんな辺境の街で、しかも安月給で働くのなら、もっと他の……でっけえ国の王様の専属教師とか、もしくは学園で働いた方が全然マシってワケ。
でも俺はそもそもカネなんて貰うことも使うことも知らないし、一言「いりません」って。
ちなみにこの学校に住み込み。朝夜のメシも寝床もぜーんぶここで済んじまう。便利じゃね?
「すっぽんぽんせんせーだ!」
また別のガキだ。しかも年少組。
すっぽんぽんってのは、その……つまりハダカってことだ。
しばらくの間は俺はこのあだ名で呼ばれていた。いや今でもいうやつは居るんだけどな。
「オイこらその名前で呼ぶンじゃねえって何度……!」
っと、怒鳴りつけちゃいけないんだった。威圧的な態度は慎めって校長から言われてたんだよな。
「オレ……じゃなくて僕の名前はサーマだ。すっぽんぽんなんて呼び方はするもんじゃあないからね。気をつけなさい」
込み上げてくる怒りを抑えて…と。言葉遣いも丁寧にな。
「でもせんせー、ここ来た時すっぽんぽんだったし」
あーダメだ。すげえムカついてきた。一発怒鳴りつけてもいいか⁉︎
「エレアちゃん、先生をそんな風に呼んじゃダメだって言ったでしょ、きちんと謝りなさい」
怒鳴ろうと思いっきり息を吸い込んだ時だった。ウィーナがガキを優しく叱りつけてくれたんだ。
ごめんなさい、すっぽ……先生ってな。絶対また言おうとしてたろ。けどウィーナの前だ勘弁してやる。
「ハァ……まだまだ先生の名前は浸透しそうにないですね」
つーかウィーナは先生じゃない。この学校の雑用係兼冒険者サポートを請け負っている女だ。年齢的には、そう……カーマよりちょっと下くらいか?
そして、校長の娘でもある。
「でもいくらここにくる途中に盗賊に全財産取られたとはいえ、全裸にコートで堂々と正門から入ってくるあんたも大概ですからね」
ああ、ちょっとこいつ性格キツいんだわ。しかもオレに対していちいちあーしろこーしろってうるせえし。
でも反論すると履いてる靴で頭をパッカーンと叩いてくるから余計ムカつく。最強の俺はそんなのノーダメージに等しいが、ガキ共の見てる前で叩くこともあるし。やっぱムカつく。
「で、午後の授業は何にします? わたし的には……うーんと、たまには片手武器の取り回し方なんていいんじゃないかなって」
「え、ああ……そんじゃ外でやるか?」
「どんまい! 私もサポートしてあげますから!」って背中をパン! と平手で一発。人間にとってはこれが元気付けられるらしい。
そしてウィーナも去って、また俺は一人になった。
「カーマ……俺、先生っぽくなれたかな?」
時々空を見上げて一人つぶやく癖がついちまった。
そう、はるか上で見守ってくれているはずのあいつ、カーマに。
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