第5話

まさかこんなに真っ暗な時にガステラルが来るとは思わなかった。カーマも感じていたのか「なんか地響きがするけど」なんて呑気なこと言ってて。

思わず口を開いてしまったんだ。

「逃げるぞ!」ってな。アイツめっちゃ驚いてた。喋ったぁぁぁあ! って。


ガステラルは岩山削り出したようなゴツゴツの巨体している割に動きが早い。普段なら明るいうちに偵察に来たりしてここに迷い込んできた人間を蹴散らしたり、俺を小突きに来たりと、まあいつも乱暴な事ばかりしてるんだ。

「あれってもしかすると、ランドーラのガーディアンなのかな?」

モタモタしてるから俺がカーマの長い服の裾を引っ張って、とにかく安全な場所へ。なんかあいつ訳の分からないこと言ってるけど……なんなんだガーディアンって、ランドーラって?

真っ暗な森とはいえ俺の目にはほとんど影響はない。わずかな星の明かりすら拾ってくれるから。とはいっても人間にはそんな能力付いてなさそうだけどな。あいつとにかく転ぶわ蹴つまずくわで、あっという間に岩山のクソ野郎が迫って来やがった。

「キサマぁ、ナンデ人間となかよくなってるんでぇぇえ」

洞穴から風が吹き抜けるような太く響く声。この気持ち悪さがガステラルだ。

「人間ナンテ追い出せ、殺せ、消え失せろぉぉぉ」

俺たちを蹴り飛ばそうと地面を持ち上げ、生えてる樹木ごとまくり上げて投げつけて。ヤベェマジで俺ごと殺す気か⁉︎

「おいカーマとか言ったな、お前奴と戦えるか?」

あまりにトロい逃げっぷりだから、痺れを切らした俺は背中にカーマを乗っけて突っ走る。この方がまだ楽だしな。

あいつは一言「ムリ!」って。まあそうだよな、こいつの細い腕は丸太すら切れなさそうだし。


そうして逃げてるうちに木々少なくなって来て、目の前には……

でっけえ、しかも流れの早い川が。思わず急停止しちまった。

「ここから先はお前だけでも逃げろ、川を渡ってずっとまっすぐ進めば……」


……その先には何がある? 俺ですら行ったことがないのに。

俺は言葉に詰まった。

「え……っと、とにかく人間の仲間がいるかも知れないから」

「ダメだブルーウルフくん、一緒に行こう!」カーマは俺の首根っこを掴んで来たが、反射的に振り払っちまった。

「お、俺は水がダメなんだ!」

カーマの口がちょっと動いた「あ、となると……」って。

なんか知ってるのかカーマ? あいつは突然上着を脱ぎ始めると、俺の身体にばっさりとかぶせたんだ。

「多分君の対処法は分かる。直接水がかかるのはダメなんだ」

そう言って座り込んだ俺を小さく包んで上の部分を袖口できっちり結んで……おお、完璧じゃねえか!


「気持ち悪いヤツらはな、みんな死んじまえ」

服の暗闇の向こうから突然の衝撃が。殴りやがったなこいつ!

ヤバい俺だけどんどん転がってるし何もできねえ! このまま川に落ちたりでもしたら……

「カーマ! 俺を助けろ!」


ざぶんと水に落ちて、流されて……ああ、この感覚は滝っぽいな。ずーんと落ちてゆく感覚。

俺、終わったかも。

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