第4話
寂しかったのか、それともどこかのパーティからはぐれてここに迷い込んできたのかは分からなかったが、俺が人語をある程度聞き取れると知っていきなり喋りまくってきた。
「すごいなぁ〜、千年生きたオオカミは毛の色がブルーになるとは古書で知ってはいたけど、まさか本物に出会えるとはね〜」
年齢……うん、今までここに来た人間連中よりかかなり若く見える。かといって子供でもない。
何年も手入れを怠ったみたいなボサボサの髪の毛。まるで木の実みたいな茶色だ。
んでもって名乗ってもくれた。カーマ……男だ。
「実は東のエイプランって田舎町に冒険者養成学校ができると聞いたんで、僕なんかでも雇ってくれるかな〜って、行商の馬車を連れてる叔父さんにお願いして乗せてってもらったんだ」
東……か。つまりずっと進んでいけばそこに人間たちがたくさんいる場所へと着くってワケか。まあ行くかどうかは俺の憧れ次第だし。もうちょっと、こう、魅力的な場所をだな。
「僕は知識を教えたいと思ってね。あ、魔法もちょこっとならいけるさ。それと僧侶系もね……独学で学んだからみんな中途半端だけど」
そんな独り言を無言の俺に向かって延々と続けたのち、カーマは手にしていた板をバラバラと広げて何かを語り始めた。
……今まで俺が耳にしてた人間の言葉じゃない。
けど、なんだろう。はるか昔にそれを解したことがあるような、そんな記憶が胸の奥からむくむくと湧き上がって来たんだ。
「小火!」カーマが短くつぶやくと、やつの指先から水が滴り落ちるように明るい火が、ポっと。
「怖がらなくても大丈夫さ。これは明るいだけで本物の火じゃあない、でもこうやって……」
枯れ草を指で突っつくと、瞬く間に火は広がっていった。
いや怖がらなくても……って火事だろこれ、延焼したらヤバくねえか⁉︎
なんで俺の恐怖感を読み取ったのか、カーマはその火をぎゅっと手に握って瞬時に消しとめた。危ねえなコイツ。
「ね、平気でしょ?」
思わず「ふざけんなバカ!」と人間の言葉で怒鳴りつけそうになっちまった。
それからまたしつこくカーマは語ってくれた。
俺にとってどうでもいいことなのに。何故か……惹かれてしまって。
こいつの親はすでに亡くなっているそうだ。小さな頃にもっと年寄りの家に引き取られて、そこでたくさんの本っていう大量の板を読んで、つまり中途半端なたくさんの勉強をしたらしい。
そういやこいつの腕、今まで出会って来た戦士とかに比べてかなり細い。剣も振れそうにもないしでけえ荷物ですら背負えなさそうだ。絶対下敷きになってしまう。
全然眠くならなかった。つーかこいつの話をもっともっともっと聞いてみたい衝動に駆られたんだ。その証拠に俺の尻尾は無意識にぶんぶん振られてる。魅力的な話……そうだ。
こいつと一緒なら、旅に出てもいいかなって。
だけどそんなワクワクした思いはすぐに消えてしまった。
ここには俺以上に強い奴らがいることを。
そうだ、ガステラルの連中だ!
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