第2話
実は俺には仲間がいなかった。仲間というか……同種だな。
このシェイプシフターってえ名前も実はつい先日知ったばかり。
てっきりアードウルフとかグレインフォックスとか、俺の姿にソックリな……こう、四本足で走り回るモンスターの類だとばかり思っていたし。
自負するのも恥ずかしいけど、俺の身体は毛だらけだ。前に姿をみた奴は「もふもふ」とか呼んでいたっけな。
月夜に濡れる蒼い毛。でっかい尻尾。つまりこれがもふもふなんだな。
今度ガキ……じゃない子供たちに聞いてみるか……今の俺じゃちょっと難しいけど。
でっかい平原に俺は生きていた。毎日全速力で走り回ったりワサワサ飛んでる虫どもにケンカ売ったり、岩山の奥の迷路っぽいところに行ってついつい道に迷ったりと……
ああ。それをどのくらい続けていたか、なんてもうとっくに忘れちまったな。
いわゆる「長い年月」だ。
そんな事をずっとやってるうちにこの平原にも図体がデカいモンスターが1人、2人とやってきて、挙げ句の果てに大威張りで「吾輩のことをこれから王と呼べ」なんてクソなこと言うもんだから、いつも虫たちに使っている俺の能力を……そうだ、変化しちゃえば簡単に勝てると思ってな。
だけど無理だった。
これも学校のガキから聞いた事なんだが、どうやらシェイプシフターってえのは自分と同じ背格好の生き物にしか通用しないんだと。
戦いを挑むことも無理だった。
岩石を削り出した拳でボコボコにされた挙句に「この気色悪い四つ足には近づくな」って言われちまって、以降ずーっと……何年もの間も俺は1人で平原の隅っこに追いやられちまった。
その巨大なモンスターの名は「ガステラル」。旅人もそうだが、ピカピカの剣と鎧に身を包んだ戦士ですらまともに太刀打ち出来ないくらいの、つまりめちゃくちゃ強いモンスターだそうだ。俺もおそらく勝てなかっただろうな。いや何十倍もある巨体だからそもそも勝てるかなんて不明だけど。
俺はまったく食事しなくても大丈夫な身体みたいだ。つーか他の奴らって定期的にメシしないとブッ倒れてしまうらしい。意外と不便なんだな。
まあそんな俺にも、もう一つ弱点があったんだ。
ひとつは「同じ背格好のモンスターにしか変身できない」。
それと「水に弱い」ことだ。
もちろん水なんて物心ついてこの方、口にした事なんてない。もし川にどぷんと浸かったりでもしたら……
俺の身体は溶けちまうんだ。
シェイプシフターってのは水に限りなく近いらしい。
一度川に落ちたやつを救おうとして手を浸けた直後だっけ、入った部分だけ水に流れて溶けて消えちまった。もちろん俺だって驚いたさ。手が消えた! ってずっと騒ぎまくってて、もう生えてこないんじゃないかってドロリと溶けた手首の水と同じ色に透けてる断面見ながら野原をゴロゴロ転げ回った事もあったっけか。
幸いにもしばらくしたら生えてきた。もちろん今までと同じ手首だったな。
さて、ここまで話せば分かるかなとは思うが。
水がダメってことは、すなわち雨にも弱いって事だ。
あの水滴が触れた部分からジュウウと白い煙が出てきて穴が空いてしまったんだ。
俺はすぐに走って逃げたね。穴だらけにはならなかったものの、雨が続いた日にはマジで憂鬱になったさ。もうこのまま外に出れないんじゃないかってガクガク洞窟の奥で震えながら。
そんな、孤独な日々が続いてて。
俺の心はもうすっかり独りに慣れちまった。たまに武器を手にした戦士がフラフラ迷い込んできたけれど、俺の能力を使って仲間の1人に化ける事によって、どうにか切り抜けることもできたしな。
「ナンデアイツガモウヒトリイルンダ!」ってリーダーっぽい奴が慌てふためいていたのは今でも忘れない。
あ、弱点はもう一つあった。つまり三つ目だな。すまねえ。まだ数字の数えかたも慣れてないんだ。
それは「変身した相手の中身まではマネできない」こと。それと服もダメ。要するにハダカだな。
パーティとか呼んでた戦士一行に「ソウリョ」って名前の奴がいて、うまい具合にそいつが一人で本を読んでいた時を狙って「おい」と顔を開けた瞬間だった。お互いの目が合った瞬間にはもう成功だ。変身完了した……のはいいが。うん、全裸だ。
俺としてはイタズラ半分でパーティってのに手を出したんだが、オレがオレがであっという間に大混乱さ。
そのソウリョってのは人間や生き物のケガを、手をかざすだけで治せる力を持ってるみたいだが……
戦士に「オレの目の前でやれ」と言われて無事何もできなかった。元の姿に戻って全速力で逃げたっけな。いい思い出だ。
……悪い、脱線しちまったな。
あいつの名前はカーマ。偶然かどうかは知らねえが、俺に似た名前。自分のことを俺とは言わずボクって呼んでたっけ。
同じ姿に変身したってえのに全然驚かず、逆にすごいですね! って感心してた。その時の笑顔は今でもはっきりと覚えてる。
そして……
俺はあいつの、カーマの遺志を継いで、モンスターをやめて「せんせー」として生きていこうって決意をしたんだ。
……もうちょっと俺の話に付き合ってくれ。
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