(仮称)最強のモンスター、子供たちの先生になる。

べあうるふ

第一章 第1話

「よかった……」



それが、この男の最後の言葉だった。

⭐︎⭐︎⭐︎

さてと、まず最初に話さなければならない。

俺の名前はサーマ。


……確か、そんな名前だったと思う。

というか厳密にいうと、俺には名前なんてものは無い。


全部「そう呼ばれていた」だけだから。


生まれた時から俺はひとりぼっちだった。

そうだ、最近いろいろと生徒達に教えてもらったんだが、どうも俺はここにいるガキ……いや、人間たちにとっては「モンスター」とか「バケモノ」と呼ばれているらしい。


それも、かなりヤバげな部類の。

サイズこそそれほどでもないが……


いや違う! 俺はモンスターだが、人間は殺したことがなかったんだ。

思い出す限りかなりの数の背の高いガッチリした体格の人間が俺に襲いかかってきたんだけど、決まって俺はそいつらを殺すことなくどうにか逃げ延びることができたんだ。


バケモノなんて他にもたくさんいる。野っ原で日中はずーっとうごめいてるクロウラーって虫とか、岩場の近くに巣食っている半透明なスライム。やつらは口に入れたものはなんでも溶かしてしまうから俺でも注意が必要だ。


他にももっといろいろなモンスターがいる。いや、俺がいちいち数えたことがないだけだ。

でも今後こういうことも教えなければいけないからな、くそっ、勉強するのは苦手だ。


さて、モンスターってのは基本的に人間とは敵対している。

だいたい出会い頭に襲ったり食っちまったり。中には強くなるためにあえて人間を片っ端から戦いを挑む連中もいるし。そしてそれを経験してきたもの達は揃いもそろって巨大な身体に進化したり、変な名前を名乗ってどこか遠くに消えてしまったり。


いちおう俺にも牙とか爪とか、人間と戦える術は持ち合わせてはいるのだが、使ったことがない。じゃあなんでここまで生き延びることができたんだ? って答えに繋がる。


……面白い事に、俺はその敵対している人間に姿を変えることができるんだ。

あ、この前図書館へ行ってきたガキ……じゃなくて子供が話してたな。


「シェイプシフター」


それがこの俺のモンスターとしての名称だそうだ。

目に付いたり出会ったりしたものに姿かたちを変えることができるんだ。こればかりは誰にも習ったことなんてない。自然と俺の身についた最強にして唯一のチカラ。

だが普段は戦う力なんてものは無い。

つーか本当にお騒がせな能力だよな。口を開けばずらりと並んだ牙、大地を踏み締めた手と足の先には鋭い爪が生えているのに。


それで……だ。なぜ俺は、つまりシェイプシフターのサーマ様は、いまここで何をしているのかって話に戻るわけで。


じゃねえ、いま後ろの方から「せんせー!」って頭と耳がキンキンするほどの声が聞こえてきたんだ。ありゃあ年少組のカーチャとウィルだな。もう声だけで分かる。

「せんせー! 次はなに教えよっか?」

「ねーねーせんせー! 剣の振り回し方? それとも……」


分かっただろ?

俺はいま、先生をやっている。

だけど普通の先生じゃない。なぜかここにいるガキ……いやいやそうじゃねえ。子供たちに教えてもらっているんだ。


さらに厳密にいうと、俺はいまモンスターをやっていない。

先生だ。それも人間の子供のな。


もうちょっと聞きたいか……? ならきちんと手をあげて言え。


「はい、先生お願いします!」ってな。


ハキハキと大きな声でみんなに聞こえるように言うんだ。


……よし! じゃあまずどこから話そうか?

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