第24話 ぎりぎりの戦い
白い花が咲く草原の中で、俺は十体の青毛の狼に囲まれていた。
狼たちの額には角が生えていて、両脚の爪は鋭く長い。
俺は呼吸を整えながら、視界の右隅にあるクールタイムの数字を確認した。
……五十三……五十二……五十一。
突然、狼に襲われたから、【無敵モード】を使うしかなかったけど、この状況はマズイな。なんとか時間を稼ぐしかないぞ。
「たいしたものだな」
狼たちの後ろにいる黒いローブの男――召喚師のビスラが口を開いた。
「一角狼の奇襲攻撃を受けて無傷とは。さすが、十三魔将を倒した男だ。だが……」
俺の足元に魔法陣が出現し、俺の体を照らした。
この光は……あ……。
俺は自分の体が動かなくなっていることに気づいた。
「はははっ! 残念だったな。お前はこの場所に誘導されていたのだ」
ビスラが勝ち誇ったように笑う。
「この魔法陣は対象の体を拘束する。つまり、お前の負けは確定したってことだ」
「……そうか」
これは逆にラッキーかもしれない。圧倒的に有利な立場になった奴は、ぺらぺらと語ってくれるからな。上手く会話を引き延ばして、クールタイムの時間を終わらせてやる。
「やられたよ。まさか、こんな場所に魔法陣を仕掛けておくなんて」
「俺の得意技だからな。召喚した一角狼でターゲットを誘導して罠にはめるのは最高に気持ちがいいぞ」
「そうか。お前は一角狼で俺をこの場所に誘導したんだな?」
「ああ。お前は上位スキルをいくつか持っているようだが、それで勝負が決まるわけではない。戦い方が重要なのだ」
ビスラは人差し指で自身の頭をトントンと叩く。
「さて、降参して指輪を渡すのなら、ケガをすることはないが、どうする?」
「その前に、どうやって俺をここに誘導できたのか、教えてもらうぞ」
「んっ? 一角狼を使ったと、さっき言っただろ?」
「そうだったな。つまり、お前は一角狼で俺を誘導したってことか?」
「ああ。こいつらは頭がいいからな。俺の命令をしっかりと理解してくれるのさ」
「くっ……一角狼を使ったってことか。俺を誘導するために」
俺は声を大きくして、ビスラをにらみつける。
「つまり、お前はここに魔法陣を仕掛けていたんだな。そして、一角狼を使って、俺を誘導した」
「だから、そう言ってるではないか!」
ビスラが声を荒げた。
「お前は、さっきから同じことしか言ってないぞ」
「それだけ、驚いたってことだよ。まさか、お前が一角狼を使って、俺を誘導するなんてな。しかも……」
俺は数秒間、沈黙する。
「この場所に魔法陣を仕掛けておくとは。どうやって、俺をここに誘導したんだ?」
「だから、一角狼と言ってるだろうがっ!」
ビスラは怒りの表情を浮かべて、俺に近づく。
「もういい。お前と話していると、頭が痛くなる。降参する気がないのなら、手足の骨を折らせてもらうぞ」
……三……二……一……。
よし! クールタイムの時間が終わった。【無敵モード】発動!
【状態異常無効】の効果で、俺の体が動けるようになった。
俺はビスラに突っ込み、握り締めたこぶしでビスラの腹部を殴りつけた。
ビスラの体が草原の端まで飛ばされる。
「あ……がっ……」
ビスラは上半身を起こして、口をぱくぱくと動かす。
「ど、どうやって……魔法陣……」
言葉が途切れ、ビスラの首ががくりと折れた。
同時に周囲にいた一角狼が消える。
意識を失ったみたいだな。
俺は額の汗をぬぐう。
こいつはザルドールより弱かったけど、ピンチ度は変わらないな。結局、【無敵モード】を上手く使えるかどうかなんだよなぁ。
やっぱり、このスキルは欠点がヤバすぎる。クールタイムのことがバレたら、Dランクの冒険者にも勝てないだろうし。
絶対にバレないようにしないと。
俺はビスラに近づき、人差し指から指輪を引き抜いた。
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