第22話 森林エリア
転移用の扉から出ると、そこは薄暗い森の中だった。
足元には落ち葉が積もっていて、黄緑色に発光する森クラゲが宙に浮いている。
前に見た森クラゲと色が違うな。人造ダンジョンの中で、独自の進化を遂げたのかもしれない。
視線を上げると、枝葉の間から、青空が見える。
ここが森林エリアか。空も外と変わらないな。これがダンジョンの中とは思えない。
こんな森を造ることができるなんて、リロタンはすごいんだな。さすが、『史上最高の錬金術師』だ。
『それでは、今からSランクの昇級試験を開始します』
空から冒険者ギルドの職員の声が聞こえてきた。
『最初に注意点があります。人造ダンジョンの中には魔道具の魔法カメラが一万個以上設置されています。このカメラは皆さんの行動をチェックするためのものです。故意に壊した方は失格になります』
「へーっ。この世界にもカメラがあるんだな」
そうつぶやきながら、俺は右手の人差し指と中指にはめた指輪を見つめる。
とりあえず、指輪を集めていくか。二連敗で即失格はまずいしな。
数十分後、木の枝から垂れ下がった草のつるをかき分けると、目の前に湖が見えた。
岸辺には数体の赤い角を生やした鹿がいて、水を飲んでいる。
食料は魔法のポーチの中に干し肉とパンを入れてるし、今は狩りをする必要はないか。
俺は腰に提げた魔法のポーチに触れる。
このポーチは魔道具で中に多くの物を入れることができる。食べ物も腐ることがないので、冒険者には必須のアイテムだ。
その時――。
微かな音が背後から聞こえた。
素早く振り返ると同時に、俺の太股に小さな短剣が突き刺さる。
「ぐっ……」
俺は短剣を引き抜いて、近づいてくる茶髪の男を見つめた。
男は三十代前半ぐらいで、手足が細く長かった。右手には青白く発光する細長い棒を持っている。
男はにやにやと笑いながら、血に濡れた俺のズボンを見る。
「十三魔将を殺した異界人も奇襲には弱いようだな」
「あんたは?」
「俺はポルタ。Sランク試験七回目の常連だ」
「七回目か……」
「それだけ、難しい試験だからな。だが、ずっと落ちてるからって、俺を舐めないほうがいいぜ」
「わかってるよ。俺以外は全員Aランクの冒険者なんだからな」
俺は後ずさりしながら、幻魔星斬を腰のホルダーから引き抜く。
めちゃくちゃ太股が痛いけど、【無敵モード】を使うのは我慢だ。
「……で、俺たちは戦うってことでいいんだよな?」
「そうだな。お前は噂ほど強くなさそうだし、武器の差もあるからな」
ポルタは青白く発光する細長い棒を構える。
「この『
「試験内容を予想して準備してたってことか?」
「ああ。相手を殺したら失格のルールは何度もあったからな」
ポルタの口角が吊り上がる。
「逆にお前の武器はよすぎる。それじゃあ、本気で戦えないだろ?」
「そうかもな」
俺は奥歯を強く噛んで、幻魔星斬を握り直す。
ポルタの言う通りだ。魔力を注ぎ込んでない状態でも幻魔星斬は斬れ過ぎる。他の武器を用意しておくべきだったか。
「さて、降参する気はないか? それだと、俺が楽なんだが」
ポルタが雷光棒の先端を俺に向ける。
「お前が指輪を一つ渡してくれれば、お互いに無傷で別れることができるぜ」
「戦わずにリタイアするつもりはないな。俺にもいろいろと事情があるからさ」
「そうか。ならば……」
ポルタが一気に突っ込んできた。腰を捻りながら、雷光棒を真横に振る。
俺は転がりながら、その攻撃を避けた。
「……ふっ。なるほど」
ポルタが笑みの形をした唇を舐めた。
「お前、戦闘慣れしてないな。逃げ方が甘いぞ」
「学校の授業で習ってないんだよ!」
俺は片膝をついたまま、太股の傷を手で押さえる。
Aランク冒険者とまともにやりあうのは危険だ。どんな手を使ってくるか、わからないし。
「さて、そろそろ終わらせてやる。出血多量で死んでもらったら困るしな」
ポルタは小さな短剣を投げて俺の動きを牽制しつつ、距離を詰める。
ポルタが雷光棒を振り上げた瞬間――。
【無敵モード】発動っ!
俺は振り下ろされた雷光棒を強引に奪い取り、その棒でポルタの首筋を叩いた。
バチバチと音がして、ポルタの体が横倒しになる。
ポルタは目と口を開いたまま、気絶していた。
「あんた、舐めすぎだよ。まあ、こういう攻撃は想定してなかったのかもしれないけど」
俺はポルタの右手から、指輪を一つ奪った。
これで、指輪が三つか。【完全回復】のおかげで太股の傷も治っている。
あとは扉を見つけておくか。最初の課題で失格になるのもいまいちだし。そして、最終日に指輪を九個持って、ぎりぎり不合格を目指すんだ!
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