第21話 七人神ファルム

「ま、マジかよ!」


 冒険者たちが一斉に驚きの声をあげた。


「『漆黒の糸使いファルム』と戦えって言うのか。勝てるわけないだろ! こいつは魔族を百人以上殺してるバケモノじゃないか」

「あ、ああ。戦闘にはそれなりの自信があるが、さすがに七人神と戦うのは無理だ」


「安心しなよ」


 ファルムが言った。


「人造ダンジョンは広いし、僕と出会う可能性のほうが低いから」


「そういうことじゃ」


 リロタンがファルムの腕を叩く。


「こいつが強いのは誰もが知っておる。そんな強敵と出会った時、どうやって対処するかも重要じゃ。逃げる手もあるし、最初から出会わないように隠れて行動する手もある。誘導して、ファルムを他の冒険者に押しつける手もあるな」

「くそっ。楽にSランクにはなれないか」


 若い冒険者が短く舌打ちをした。


「運命の神ダリスに祈るしかねぇな。ファルムに出会わなければなんとかなる」

「そうだな。他の奴らがファルムと戦ってる間に指輪を集めて、扉を見つければいいのか」

「そんなことを言ってる奴が、一番にファルムに出会って、即失格になるんだよな」

「おいっ! 不吉なこと言うなよ!」


 冒険者たちは強張った顔でファルムを見つめる。


「質問があるにゃ!」


 突然、うにゃ子が右手を上げた。


「ん? 何じゃ?」


 リロタンが視線をうにゃ子に向ける。


「ファルムを倒しても指輪はもらえるのかにゃ?」

「……お前、ファルムを倒せると思っているのか?」

「うにゃ子じゃなくて、秋斗が倒すのにゃ」


 うにゃ子が俺の肩を叩く。


「秋斗は十三魔将のザルドールを倒した未来の勇者だからにゃ。七人神よりも強いのにゃ」

「おいっ! 何言ってるんだよ!」


 俺はうにゃ子の頭部の耳に顔を寄せた。


「つーか、昇級試験を受けないお前が質問するなよ」

「でも、大事な質問なのにゃ。秋斗なら、ファルムに勝てるしにゃ」

「そんなのわかんないだろ。ファルムはSランクの序列七位なんだから」


「へーっ。わからないか」


 ファルムが唇の両端を吊り上げたまま、俺に近づいた。


「さすが十三魔将を倒した異界人だね。七人神の僕と戦って、勝敗がわからないって思ってるんだ?」

「あ、いや。俺、あんたのこと、よく知らないからさ」


 俺は両手を胸元まで上げて、ぱくぱくと口を動かした。


「でも、よく考えたら、七人神に勝てるわけないよな。はっ、ははは」


「勝てるに決まってるにゃ」


 うにゃ子が余計なことを言った。


「秋斗はうにゃ子と同格の強さがあるのにゃ。つまり、最強なのにゃ」

「最強……ねぇ」


 ファルムは首を右に傾けて、僕を見つめる。ファルムの黒い瞳が洞穴のように見えた。


「……リロタン。ルールに追加しておいて。僕に勝てた冒険者は無条件で合格ってね」

「いいじゃろ」


 リロタンが言った。


「七人神に勝てるのなら、Sランクの実力があるのは間違いないからな」

「では、細かいルールを説明した後、試験開始とします」


 冒険者ギルドの職員が冒険者たちに紙を配り始めた。

 俺は受け取った紙を確認する。

 異世界の文字の内容が脳内で日本語に変換された。


『受験者同士は一対一で戦うこと。同じ相手と二度戦うことはできない。降参した受験者を攻撃した者は失格。受験者を殺した者は失格……』


 降参はちゃんとできるみたいだな。これなら、俺の好きなタイミングで降参できる。理想は指輪を九個集めて、ぎりぎりで不合格になることか。それなら、俺の実力はAランクレベルになって、アドレーヌへの面目も立つ。それでいこう。


「大変なことになったにゃ。七人神のファルムが秋斗に敵意むき出しなのにゃ」


【動画モード】の能力を使っているうにゃ子が神様たちに状況を説明している。


「みんなで、名誉うにゃPの秋斗を応援するにゃ」

「応援するにゃ……じゃねーよ!」


 俺はうにゃ子の背中を強めに叩く。


「ファルムが敵意むき出しって、お前のせいじゃないか!」

「うにゃ子は事実を言っただけにゃ。秋斗のパワーとスピードは圧倒的だからにゃ。負けるわけがないのにゃ」


 十秒の制限がなければな。


 俺は心の中でうにゃ子に突っ込みを入れた。


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