第19話 ギルド長の提案

 次の日、俺は冒険者ギルドの一室で、ギルド長のダグラスと対面した。


 ダグラスはすらりとした背の高い男で、黒のスーツを着ていた。

 年齢は四十代ぐらいで、銀の髪をオールバックにしている。


「秋斗様。闘技場での戦い、お見事でした」

「あ、見てたんだ?」

「はい。一瞬で終わってしまいましたが」


 ダグラスはじっと俺を見つめる。


「どうやら、【神速】のスキルだけではなく、パワーを強化するスキルもお持ちのようですね」

「まっ、まあな」


 俺の頬がぴくりと動いた。


「詳しく話す気はないけど、強いスキルを持ってるのは事実だよ」

「……なるほど。ギルド長の私に対してもスキルを隠すとは。やはり、あなたは他の強者とは違う」

「違う?」

「はい。強者は圧倒的な強さがあるゆえ、スキルや能力を他者に話すことがよくあります。能力がわかっても問題なく勝てる自信があるからです。しかし、あなたはあれだけの強さがありながら、自身のスキルを誰にも話していない。そうですよね?」

「あ、ああ。そうだな」

「素晴らしい。あなたこそ、真の強者です」


 ダグラスは胸元で両手を合わせて、目を細める。


「アドレーヌ様があなたのことを、未来の勇者と言っていましたが、どうやら間違いないようです」

「いや、そこまで強いとは思わないけどな。まあ、平均よりちょっと強いというか……はっ、ははは」


 俺の頬がぴくぴくと動く。


 あんまり強いと思われるのはまずいんだよな。このままだと、ガチで魔王退治に行かされそうそうだし。


「さて、秋斗様。私自身はあなたの実力を理解しています。あなたはDランクなどではなく、Sランクの実力があると」


 ダグラスは俺のベルトにはめ込んでいる緑色のプレートを見る。


「ならば、この場で秋斗様をSランクと認定したいところですが、そういうわけにもいかないのです」

「問題ないよ。別にSランクになりたいわけじゃないし」

「んっ? Sランクになれば名誉も金も手に入ります。それが欲しくないと?」

「金はそれなりに持ってるし、家賃なしで暮らせる屋敷もあるからさ。名誉も別に欲しくないかな」

「……ふむ。秋斗様は異界人とのことですが、欲が薄いのですな」


 ダグラスはアゴに手を当てて、数秒間沈黙する。


「ですが、あなたをこのままDランクにしておくわけにはいきません。既に多くの者があなたの強さを知っていますし」

「Cランクにしてくれるってこと?」

「いえ。秋斗様にはSランクの昇級試験を受けてもらいます」

「昇級試験?」

「はい。Aランクの冒険者だけが参加できる試験ですが、特例として秋斗様が参加できるようにします」

「いや、いいよ。俺だけ特例っていうのも悪いし」


 俺はぶんぶんと首を左右に振る。


 というか、Sランクの試験なんて受ける意味がない。危険な依頼を頼まれそうだし、目立って【無敵モード】の欠点がバレるのもまずいからな。


「とりあえず、俺はCランクの昇級試験を受けるよ。三年後ぐらいに」

「ご冗談を。そんな無意味な試験を受ける必要はありません」


 ダグラスが首を左右に振った。


「秋斗様は十三魔将のザルドールを倒されたのです。その実績だけで、Sランクの昇級試験を受ける権利はあります。ですから、堂々と試験を受けられてください」

「そっ、そっか」


 俺は心の中でため息をついた。


 仕方が無い。とりあえず、試験だけは受けるか。で、適当なところでリタイアしよう。

 そうすれば、ほどほどに強いけど、魔王を倒せるほどの実力はないと、みんなが思ってくれるかもしれない。


「それでSランクの試験って、どんな内容なのかな?」

「それは担当する試験官によって変わります」


 ダグラスが答えた。


「今回、担当するのはSランク序列五位のリロタン様です」

「序列五位ってことは、もしかして、七人神ってこと?」

「はい。彼女は『史上最高の錬金術師』の二つ名を持つ七人神です」

「錬金術師って、いろんな素材を使って、物を創り出す人たちのことだよな?」

「そうですね。ただ、リロタン様は他の錬金術師とは格が違います。彼女はダンジョンさえも造ったのですから」

「ダンジョンを造った?」

「はい。大量の作業用ゴーレムと空間を広げる魔法を使って。その場所が今回の試験の会場になります」


 ダグラスは壁に貼られたシルバ国の地図に近づき、マブルの町の北東の森を指さす。


「ここが人造ダンジョンの場所です。試験の日は三日後の早朝なので、遅れないようにしてください」

「三日後か」


 俺はシルバ国の地図を見つめる。


 この場所だと、馬車で一日以上かかりそうだな。

 当分は屋敷に引きこもって、まったり暮らしたかったのに。


 俺は頭をかきながら、深く息を吐き出した。





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