第14話 称賛
リティスがバルコニーに姿を見せた。
ドロドロに溶けたザルドールを見て、緑色の目が大きく開く。
「十秒もかからずにザルドールを倒すとは……」
「速攻で倒さないと、ヤバイ魔法を使ってきそうだったからさ」
俺は落ちていた金の首輪を拾い上げる。
「運がよかったよ」
「運がよかった? お前の圧勝ではないか」
リティスは俺に顔を近づける。
「お前の強さは理解してるつもりだったが、私の予想をはるかに超えている。
「七人神って?」
「Sランク序列一位から七位の冒険者たちのことだ。Sランクの中でも別格の存在とされている。だから、人神と呼ばれているんだ」
「へーっ。そんなに強い奴らがいるんだな」
「ああ。と、そんなことより、秋斗。お前の戦い方は危険だぞ」
リティスが眉を吊り上げる。
「強者ゆえの余裕からだろうが、お前は敵と喋りすぎる。それが、舐めプ、なのかもしれんが、自分の命が懸かっているんだ。敵は殺せる時に確実に殺したほうがいい」
「いやぁ。つい、癖でやっちまうんだよ。は、はははっ」
俺の頬がぴくぴくと動く。
ちょっと無理がある言い訳だが、仕方がない。味方でも【無敵モード】の弱点を知られるわけにはいかないからな。
その時、氷の手すりから音がして、細かいひびが入った。
「おっと、氷獄城がもろくなってるみたいだな。とりあえず、城から出ようぜ」
俺とリティスは溶け始めた氷獄城を出た。
すぐにうにゃ子が駆け寄ってくる。
「よくやったにゃ、秋斗。さすが、うにゃPにゃ」
「うにゃPって何だ?」
「うにゃ子のファンの名称にゃ。秋斗とはこの前コラボもやったし、名誉うにゃPに認定されてるのにゃ」
「俺はお前のファンじゃないし」
俺はうにゃ子に突っ込みを入れる。
こいつ、突っ込み所が多い天然ボケ女だが、実力はそれなりにあるよな。うにゃ子のおかげで時間稼ぎもできたし。
冒険者たちが俺に近づいてきた。
「お前、すげぇな。Dランクなのに十三魔将を倒すなんて」
「ああ。秋斗はすごいぞ」
俺の隣にいたリティスが胸を張った。
「秋斗は他にも魔族の幹部を倒しているし、デスドラゴンも倒したんだ。こいつの強さは私以上だからな」
「リティス様以上?」
女の冒険者が目を丸くする。
「ってことは、この人、Sランクレベルの実力があるってこと……ですか?」
「ああ。しかも序列上位のな」
その言葉に冒険者たちがざわめいた。
「マジかよ。序列上位って十位以内ってことか?」
「そんなに強くは見えないがなぁ」
「だが、こいつが十三魔将をあっという間に倒したのは事実だぞ」
「それは……そうだな」
冒険者たちの視線が俺に集中する。
「なあ、あんた」
黒ひげの冒険者が俺の肩に触れた。
「俺たちのパーティーに入らないか? あんたが入ってくれたら、がっつり稼げそうだ」
「それなら、私たちのパーティーに入ってよ。全員女だから、いろいろと楽しいと思うよ」
犬の耳を頭に生やした亜人の女が俺の腕に胸を当てた。
「おいっ! 色仕掛けは止めろ!」
「別にいいでしょ。秋斗さんはお金より女のほうが好きかもしれないし」
「ダメにゃ!」
うにゃ子が俺の腕を引っ張る。
「秋斗はうにゃ子といっしょに魔王を倒すって約束したのにゃ」
「魔王を倒す?」
黒ひげの冒険者の目が大きく開いた。
「本気なのか?」
「もちろんにゃ。この世界の平和は、うにゃ子たちが守るのにゃ!」
「おいっ! 魔王を倒すのは戦闘経験を積んでからって言っただろ」
俺はうにゃ子の後頭部を軽く叩く。
「あと百体ぐらいは十三魔将を倒して、戦闘に慣れておかないと」
「十三魔将は百人もいないにゃ」
「とっ、とにかく、魔王を甘く見るな! 戦うのなら、百パーセント勝てる状態で挑まないとダメだ」
「その通りだ」
リティスがうなずいた。
「秋斗の強さは規格外だが、魔王ヴァルザスも神に近い存在だと言われている。そんな相手と戦うのなら、慎重にならないとな」
「あ、ああ。この世界の命運を握る戦いになるからな。はっ、ははは」
俺は乾いた笑い声をあげる。
「これが強者たる所以か」
五十代ぐらいの冒険者がぼそりとつぶやいた。
「あれだけ圧倒的な強さがありながら、慢心することなく確実に魔王を倒そうとしている。もしかしたら、歴史が動くかもしれんな」
「す、すごい」
若い女の冒険者が瞳を潤ませる。
「私たち、未来の勇者といっしょに戦ったんだね」
「ああ。子供に自慢できるぞ」
他の冒険者たちも尊敬の眼差しを俺に向ける。
う……期待されても困るんだよな。俺のスキルは最強だけど、十秒しか使えない欠点ありのスキルだから。
まあ、魔王退治は強い奴にまかせよう。七人神って強い奴らもいるみたいだし。
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