第13話 十三魔将ザルドール2

 いいぞ! ザルドールの視線はリティスに向いている。


 俺は光の板の位置を確認した。


 さすが、リティスだ。塔の上に近づけるように光の板を上手く配置してる。

 これならいけるぞ!


【無敵モード】発動!


 俺は光の板を足場にして、連続でジャンプした。視線を動かすと、光の矢の魔法でザルドールを攻撃しているリティスの姿が見えた。


 よし! 今のうちだ。


 俺は光の板を強く蹴って、大きくジャンプした。幻魔星斬に魔力を注ぎ込み、長く伸びた刃を振り下ろす。ガラスが割れるような音がして、直径一メートルを超える氷魔球が砕けた。


 まずは一つ!


 体を捻って塔に着地し、そのまま、数十メートル先にある別に塔にジャンプする。

俺は二つ目の氷魔球を砕いた。


 残り、一つ! 


 その時、俺を囲うように無数の氷柱が具現化した。


 ザルドールに気づかれたか。だけどっ!


鋭く尖った氷柱が体に当たるが、俺がダメージを受けることはなかった。


 こっちは物理攻撃も魔法攻撃も無効なんだよ。


 俺は水平方向にジャンプして、最後の氷魔球を破壊する。


 三……二……。


 残り二秒ちょいか……あ……。


 光の板に乗っているリティスの頭上に巨大な氷柱が浮かんでいるのが見えた。


 マズイ。リティスは気づいていないぞ。


俺は塔の壁を強く蹴って、射られた矢のように空中を移動した。巨大な氷柱がリティスの頭部に当たる瞬間、俺はリティスの体を抱きかかえて、地上に着地する。

巨大な氷柱が光の板に当たり、氷片が周囲に散らばった。

 同時に【無敵モード】の時間が終わる。


「秋斗……」


 リティスがぽかんと口を開けて、俺を見つめる。その頬がなぜか赤く染まっていた。


「リティス! 氷魔球は全部壊したぞ」

「……あっ、そ、そうだな」


 リティスは俺から離れて、呼吸を整える。


「よくやってくれた。これで時間を気にせずに戦える」

「ああ。この程度なら余裕さ」

 俺は視界の右上に表示されたクールタイムの数字を確認する。


 残り五十四秒か。この間は他の奴らに頑張ってもらいたいところだが。


「あなた……誰ですか?」


 バルコニーからザルドールが俺に声をかけてきた。


 おっ、向こうから声をかけてきた。これなら、時間稼ぎができるかもしれない。


「俺は月見秋斗。異界人だ」

「異界人……ですか」


 ザルドールの青い眉がぴくりと動く。


「異界人の中には強力なスキルを持っている者がいるらしいですが、あなたもそれですか」

「まあな。俺の強さは魔王ヴァルザスを越えているぜ」

「……ほぅ。面白いことをいいますね」


 ザルドールが微笑した。


「やはり、人族は愚者の集まりのようです。ヴァルザス様の強さも理解できないとは」

「それはお前も同じだろ? 俺の強さをわかってないんだから」

「ならば、その強さを見せてもらいましょうか」


 ザルドールが呪文を唱え始めた。


「いっ、いや、待て! 戦う前にお前に聞いておきたいことがあるんだ」

「……何ですか?」


 ザルドールは呪文を唱えるのを止めて、俺に質問した。


 よし! こいつ、敵と喋るのが好きなタイプだ。


 俺は心の中で舌を出す。 


「えーと……俺は甘い物が好きなんだ」

「甘い物?」

「ああ。元の世界には、めちゃくちゃ美味いお菓子がいっぱいあってさ。シュークリームとかティラミスとかモンブランとか。それに和菓子も最高なんだ。桜餅は甘塩っぱいところが美味いし。熱い緑茶といっしょに食べると最高だよな」


「何を喋ってるにゃ!」


 うにゃ子が叫んだ。


「スイーツ談義をやってる場合じゃないにゃ。さっさとザルドールを倒すにゃ!」

「まあ、待て。中ボスと戦う時は会話するのが基本だろ?」


 頬を膨らませているうにゃ子を手で制して、俺は視線をザルドールに戻す。


「で、俺が言いたいことはさ。魔族の中で人気のお菓子を教えてもらいたいんだ。十三魔将なら知ってるだろ?」

「……それが私に聞きたいことですか?」

「ああ。甘い物情報は大事だからな。魔族の好みも知りたいし」

「……無駄な時間でしたね」


 ザルドールは冷たい視線を俺に向ける。


「もう、あなたと話す必要はありません。最強の氷魔法で終わらせることにしましょう」

「そうか。じゃあ、最後に礼だけは言っておくよ」

「……礼?」

「ああ。あんたと話すことができて、心から感謝するぞ」


 二……一……。


 クールタイムが終わると同時に、俺は【無敵モード】を発動した。

 幻魔星斬を強く握り締め、正面の階段に突っ込む。


「バカな男ですね。氷柱の罠を忘れたのですか」


 ザルドールの唇の両端が吊り上がる。


「串刺しになって、死になさい」

「そんなもん、関係ねぇよ!」


 階段の手すりから突き出た無数の氷柱が俺の体に当たり、粉々に砕けた。

 俺はぐっと両ひざを曲げ、高くジャンプする。バルコニーの手すりを乗り越え、驚愕の表情を浮かべているザルドールに幻魔星斬を振り下ろした。

 ザルドールの肩から青紫色の血が噴き出す。


「きっ、貴様っ!」


ザルドールは苦悶の表情を浮かべて、後ずさりする。


「逃がすかよ!」


 俺は連続で幻魔星斬を突く。

 肩、胸、腹、ノド……ザルドールの体に穴が開き、青紫色の血が足元を濡らす。


「まっ、待て! 魔族の好きな菓子は……」

「そんなの、どうでもいいわっ!」


 俺はザルドールの言葉を無視して、幻魔星斬を振った。

 ザルドールの頭部が胴体から離れ、足元に落ちる。


「こんな……バカな……」


 ザルドールの口が開いたまま停止した。

 そして、ダルドと同じようにドロドロに溶け始める。


「よし! 勝てたか」


 俺は溜めていた息を一気に吐き出す。


 十三魔将と呼ばれてるだけあって、強かったな。でも、こいつは喋るのが好きなタイプだったから相性がよかった。


 とはいえ、今回もぎりぎりだ。会話に乗ってこない敵もいるだろうし、もっと、いろいろと時間稼ぎの方法を考えておかないと。

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